嫌な裏付け
「売り渡しちまったのさ」
「何を?」
「この領で収穫された全ての麦、その権利をだよ」
「………」
確かこのルイス王国の法律では、全ての土地は国王に帰属する、だった気がする。
なのでこの契約を止めれるのは現当主が急に改心するか、今代の優しい王が慈悲深くなるかぐらい。
そしてこの暴挙を取り締まる法律は、今現在存在しなかった。
……いや、一応あるか。
国の主食である小麦の権利を全て他国に売り渡したのだから。
『国家反逆罪』
貴族に対しての適応は、この平和な国では滅多に起きない行為。
「オレ達が食う分は残してくれって言っても聞きやしねぇ。
儲かった金を分配するから安心しろ、だとよ」
「お前さんも馬車に乗ってる時に見ただろ?
あれだけの黄金の絨毯、きっと他の領なら豊作を祝って祭りでも始まるだろう。
でもそれは……1粒たりとも、オレたちの口には入らないのさ」
「どう思った?ハーティア」
彼達にお礼を言い、俺らは割り当てられた宿の部屋へと戻った。
ベッドは別々なものの、部屋自体は同じ。
寝床の端に腰掛けた状態で膝を突き合わせ、言葉を投げかける。
「まさか本当の事だとは、思いもしませんでしたわ。
こんな、馬鹿な事を……」
彼女もあまりにも酷い現実に溜息を漏らしてしまう。
俺たちへ向けて出され、今は証拠隠滅のために燃やした紙の内容。
そこに書かれた反乱の兆しとなる根拠、その内の1つが彼らの話した内容だった。
この領に潜伏している、草の人間からもたらされた情報の裏付けは図らずも取れてしまう。
「取り敢えず、領主邸でも見ようか?
もしかしたら、本当に領民へ還元するかもしれないしさ」
「……そうですわね。本当にごく僅かな可能性だと思いますけど」
辛辣な現当主への言葉。
まあ正直俺も、このやり方を選ぶ人間が後の事を考えているとは思えないんだけどね。
とはいえ、情報収集が草の人間としての主な仕事。
行ってみない事には始まらない。
そうして、翌日の馬車で領都ラカンへと向かうのだ。
外敵から身を守るための立派な城壁。
大きな扉を潜り抜け……俺たちは数日かけて、あの村から到着した。
そうして足を踏み入れた瞬間から感じる、このどんよりとした空気感。
どういう所から、自分はそれを感じているのだろうか。
行き交う人の暗い表情から?
あまり呼び込みの声が出ていない出店から?
それとも、日差しを遮る分厚い雲のせい?
何ともはっきりしないけれど、肌に感じる嫌なモノだけは確かだ。
そんな感覚に襲われながら、俺たちは出店に立ち寄りながら歩を進めていく。
片手に持った焼き鳥、辿り着いた先は……領主の館だ。
「立派だなあ」
「……ええ、そうね」
こちらは本心から思っているけども、彼女はものすごい棒読みだ。
そりゃそうか、彼女の住んでいた屋敷の方がデカいに決まってるし。
実際庶民からすれば、ある程度以上は差がよく分からないんだけどね。
少なくとも、前回潜入した王都のモリッジ男爵邸の倍はある広さだ。
とはいえ、ここは別に観光地でもない。
だからか門番として立っている男2人がこちらへ、怪しむ様な目を向けてきたため早々に踵を返す事にした。
「それでどうだった?」
屋敷からは死角になっているこのストリート。
店はあまり立ち並んでおらず、明らかに観光客が来る場所ではないのは容易に感じられる。
そんな場所を歩きながら、彼女へ問いを投げかけた。
「領主の館は豪華ではありましたわね。
ただチラリと見えた大きな庭の彫刻は……とても素晴らしい逸品でしたわ」
「喜んでもらえたみたいで良かったよ」
そう心にもない事を返しながら、頭を働かせる。
多分他の人間が聞いたら、田舎者が領主の館を見て圧倒された、というだけで終わるだろう。
でも彼女の元々の地位を知っている俺からしたら、つい頰を引き攣らせてしまう。
とはいえ屋敷は別にしよう、そもそもカルメンは貧乏ではないのだから。
ただあのハーティアが……現宰相家の娘が素晴らしい逸品と言ったのは別。
外に置かれた彫刻は、どれだけの値打ちが付くか分からない。
多分数十年も経てば、美術館にでも置かれるレベルだろう。
大切にされているのだろうか、雨風が直接当たらない様にテントの様な形で囲われていた程。
ただそれだけしか贅沢が見えないのは、不思議であるけども。
その辺は後日、要調査案件だろう。
まあ、正直分かっていた。
値打ちかどうかは分からないけども、あんな強引な手段で稼ぎにいくぐらいなら、自分に莫大な利益がないとやらないだろうって事は。
「ここから、どうしよっか?」
いきなり情報収集はアレだけど、それもやぶさかではない。
とはいえ、まだ来たばかりなのに嗅ぎ回るのは中々危険な橋を渡る事になるだろうし。
そんな訳で、一旦彼女へボールを渡す事にした。
「せっかくだし、今日は観光しましょう?」
「なら、そうしようか」
そうして今日はこの問題を置いておく事になった。
その後俺たちは、この領の名物をとことん味わい尽くすために、店を一つ一つ回って行ったのだった。




