新たな任務
灰色の作業服を泥で汚した格好で俺……キースは帰路に就いていた。
お金を使い切ったのかって?
いや、まだ金貨1枚以上あるし一応働かなくても1年ぐらいは生きていける。
それに日雇いだから、別に連絡しなくても自由に休めるしね。
なのにわざわざキツイ仕事を続ける理由、それは草としての活動のためだ。
だって急に羽振りが良くなって仕事辞めました、なんて格好の捜査の的である。
正直これまでの積み重ねを崩して良いほどの大金でもないし、今までの生活に戻るしかなかった。
貯金がある分、前よりは気持ちに余裕があるのだけど。
そんな事をコツコツと積み重ねていく毎日。
もはや、あの潜入した日がまるで夢だったかとまで思い始めていた。
でも案外次の仕事は早かったらしい。
向かいから歩いてくるのは、見覚えのある女性。
顔はフードで隠れているから分からないけども、背格好や抱えたリンゴがその正体を暗示していた。
今回はこっそりと、すれ違い様にただ紙を受け渡すだけ。
それを握りしめたまま、上着のポケットへ捩じ込み帰宅するのだった。
「ただいま〜」
「お帰りなさい、早かったわね」
「そうかな?外の時計的には、あんまり変わんないけど」
「あら、なら私の勘違いって事ね。
最近外出してないから、分からなかったわ」
そうして言葉を返してくるのは、ハーティア。
彼女の言う通り、彼女の感覚がズレたのかな?
最近日が暮れるのが遅くなっていってるし。
……まさか嫌味だったりして?
真実は不明だが、犬が散歩に連れてけってアピールしてきている感じ、とプラス?に解釈しておこう。
流石に変装で誤魔化せるといっても、あまり外出するのは推奨できない。
近所付き合いもあるし、知らない人間がここを出入りしているという情報が広がる可能性もある。
時計も庶民では手が届かないほど高価だし、日光に当たれると一番それが安上がりなんだけどね。
ただそれも近所の目が気になるし…というジレンマ。
そんな事も考えながら、上着を脱ぎ雑に折り畳む。
そしてポケットから抜き取った何重にも折り畳まれた紙、そこへ目を通す。
「わお」
内容が前回と全然違うんだけど。
つい、そんな驚く声も漏れてしまう。
それに……今度は結構危ないし。
「ハーティア」
「何よ……その紙、もしかして?」
「仕事の依頼」
指令書をヒラヒラとさせながら、彼女の問いに答える。
その内容の見出しには、
『カルメン子爵領にて、反乱の兆しあり』
そう書かれていた。
「全部読んだけど、本当かしら?
だって、あの領は平民にとって楽園じゃないの」
「俺もそう思うけど……」
記載されて情報源、それらに全て目を通した上で俺達は半信半疑だった。
「だって、この国で2番目に食糧を生産している領地なのよ?
飢えには困らないんだから、戦う必要ないじゃない」
「だよねぇ……」
この事実が、思考を妨げるのだ。
カルメン産は王都に隣接しているため、食材がよくここでも流通している。
この家で食べるパンも、カルメンの小麦を使っているほど。
だから……分からないのだ。
あの領地の住民が、ここでブレーキではなくアクセルを踏もうとする理由が。
「無駄足だと思うけど、行かないと行けないのよね?」
「まあね、命令書だし」
流石に断るという選択肢はない。
万が一でも実際に起きた場合、大目玉を喰らってしまうし。
ただ何も起きなくても、報酬は出るだろうからそんなに悪い話ではない。
ハーティアは乗り気じゃなさそうだけど。
でも、
「……本当だったら、面白いかもね?」
「何がよ」
「俺たちの最終目標に向けて、利用できるかもって事」
そんな言葉を受けた彼女はポカンとした表情を浮かべていた。
ただ貴族社会に詳しい彼女は、すぐに思い出したのだろう。
ニヤリと口角を上げ、
「カルメン子爵は……第一王子派ね」
「そういうこと」
その考えを言葉にした。
考えている事は一緒だったらしい。
あの領地を収めるカルメン子爵を失脚させれば、確実に第一王子派閥の力を削ぐことが出来る。
これは彼女にとって、豪華な報酬よりも重要な事だろう。
どうやら彼女もやる気が出てきた様で、
「……これは、やるしかないわね。
キースっ、旅の支度をするわよ!」
「へいへい」
ビシッと、こちらへ指先を向けて命令してくる。
それに対するは俺の気のない返事。
でもそれを指摘しないというのが、今の彼女の興味がそちらへ移っている事を表していた。
そんな彼女は駆け足で、自身の部屋へと走って消えていく。
「俺もやらなきゃな」
それに釣られるようにして準備のために、こちらも自身の部屋へと消えていくのだった。




