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『完結』婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎ 〜家を追い出された令嬢が敵国のスパイと手を組み、破壊工作で祖国を滅ぼすまで〜  作者: お汁粉パンチ
モリッジ男爵家潜入編

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12/50

これはデート?

 そうして任務の報酬が入ったため、ハーティアと外に買い物に行く事になった俺。

 彼女より少し着替えが早く終わった俺は、ソファに座って待っていた。

 少しだけ、ほんの少しだけソワソワとしながら。


 何とも言えない隙間時間。

 読書をしたり、他の事をしようにも彼女の出てくるタイミングは分からないし。

 そうして手持ち無沙汰のまま、両手の指を絡ませて時間を潰していると、


 ガチャリッ


「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」


「いやっ、全然ッ?」


「そう?なら良いけれど」


 彼女が扉の向こうから現れる。

 正直待ったのか、待っていないのか、時間の感覚がふわふわとしていてよく分かっていなかった。

 だから何となく、こう問われたらこう返すべき、みたいな感じで無意識にそう答えてしまう。

 まあ悪口ではないし、良いと思うけど。

 

「どうかしら?」


 そうしてこちらに感想を求めてくるハーティア。

 ぱっと見でも、結構印象が変わって見える。

 

「儚げな箱入り娘って感じ?

いつもと正反対な雰囲気だし、バレなさそうだね」


「……褒め言葉として受け取りましょうか、ありがとう」


 ちょっと気まずい雰囲気が漂う。

 彼女はバレるかというより、純粋に似合っているかどうか聞きたかったのかもしれない。

 いや、俺が儚げから普段は正反対って言った事に腹を立ててるのかもだけど。


 言わなかったけど、彼女の着ている白いワンピースは結構似合っていた。

 麦わら帽子なんかも似合いそうだ。

 なぜ言わなかったのかって?……恥ずかしいから。


 そんな彼女は気を取り直してか、こちらの服装を上から下までアゴに手を当てながら見てくる。

 緊張感からか、ジワリと嫌な汗が浮き出てしまう。

 そうして、


「なんか、地味ね。

もっと派手だったり、爽やかな色のはないのかしら?」


 グサグサッと、彼女の言葉のナイフが容赦なくこちらを傷つけた。

 まだ出かける前なのに、ガックリと肩も落ちてしまう。


「……スパイだからあんまり目立っちゃいけないかなあ、って感じで買ってたからさ」


 出てきたのは、何とも情けない言い訳。

 正直クローゼットを開いた時から、黒と茶色の服ばっかの時に愕然としてしまった。

 別に普段過ごす分には良いんだけど、オシャレを求められると詰んでしまう持ち服達ばかりが並んでいたし。


「じゃあ、貴方の服も一緒に買いに行きましょうか?

せっかくお金もいっぱいあるんだし……ね?」


「それは……助かるかも」


「じゃあ、早速行きましょう。日が暮れてしまうわ!」


 そうして元気よく早歩きで出ていく彼女を追いかける様にして、俺も家を出て行くのだった。




 

「いらっしゃいませ〜」


 元気よく出ていった彼女だけども、流石に平民街の店は流石に知らなかったらしい。

 そういう事で、朝にも来たサントルイス通りの一角にある店へ行く事にした。

 普段から仕事へ行く際に前を通るから何となくは分かるのだけど、新品の既製服を多く取り扱っているお店。

 立地も良い場所だけど、この店がどうかは知らないが既製服はかなり高い。

 まだ機械もないこの時代は、職人が一着一着手作業で作っているしね。


 だから服を買う時はビンテージじゃない古着をいつもは買うため、こんな店とは今まで縁がなかった。

 でも、お金に余裕のある今日は別。

 それに彼女は元貴族、新品の服の方が良いだろうと思っての選択だった。


「うんうん、縫合も綺麗だし良い店ね」


「それは良かった」


「嬉しいお褒めの言葉、ありがとうございます!」


 早速近くの服をしっかりと確認している彼女だけども、どうやらお眼鏡にかなうものだったらしい。

 そうして彼女は、棚に置かれた服達を一枚一枚捲って確認して行く。

 そう言えば、なんか違和感あるなと思ってたらハンガーにかかってないからか。


 ……これ、ビジネスチャンスか?

 とはいえ、流石に手が出ない。

 前世での使用規模的にすごい儲かりそうではあるけど、真似も簡単。

 特許の概念がないこの世界だと、大金を手に入れる感じにはならなさそうだ。

 

 そうして異世界無双チャンスは、儚くも一瞬で消えた。

 でも、家に置く分には良いかも?

 そんな事を考えていると、


「少し、よろしいでしょうか?」


「はい、何でしょう」


 背後にいた店員さんから話しかけられる。

 何か、ハーティアか俺がやらかしただろうか?


「……お連れ様は、お貴族様なのでしょうか?」


 ……バレた!?

 店員さんの彼女は、小声でハーティアには口元が見られない様にしながら話しかけてくる。

 

 いや冷静に、貴族の証拠はないはず。

 多分彼女の仕草とかで、店員さんが気になっただけだろう。

 なので手を横に振る、違う事を示すジェスチャーをしながら、


「いえ、少しだけ大きい商会の娘です。

箱入り娘でして、あまりこういった買い物経験は無い様なのではしゃいでいるのかと。

出来れば大目に見ていただけると……」


「いえいえ、とんでもございませんっ!

私が気になってしまっただけですから。

あれだけ楽しそうに選んで頂けると、こちらも嬉しいですし!」


 彼女と会話を交わす。

 どうやらこちらの杞憂だったらしい。


「ただ、お忍びですので内緒にして頂けますとこちらも助かります」


「……こちらもこれ以上聞かない事にしますね」


 とはいえ、あまり突っ込まれるのも怖い。

 釘刺すついでに、こっそりと銀貨一枚を彼女へ握らせる。

 

 きっとコレで彼女は感じたはずだ、少し大きめ……ではなく本当は大商会の娘、あるいは貴族だと。

 そうなったら敵に回した際に何をされるかも分からないし、口も硬くなるはずだ。

 まあ、彼女の給料1日分と多分同価値ぐらいの賄賂だし、どちらもwin winの関係だろう。

 もしコレのせいで店員さんが戦々恐々とした日々を送る事になったら、本当にごめんという感じだけど。



 そんなこちらの様子をハーティアは気にせずに買い物していた。

 それに元は貴族だった彼女、店員さんに対して面倒臭いとかいうのも感じない様で、遠慮なく呼びつけては服について話を交わす。

 でも店員さんもここに勤めるだけあって服が好きな様で、話自体は弾んでいるみたいだ。


「こっちも、何か買うか」


 そうして男性用コーナーへと足を運ぶ。

 軽く歩きながら時折おっ、となる様な良いデザインの服もあった。

 つい持ち上げて良いデザインなのも確認出来……ても、棚に一緒に置かれた値札を見てそっと戻す。


 ここ、思っていたよりすごい高いんだけど。

 

 確かに、ハーティアが言うだけあって品質は高いのだろう。

 でも1コーデ買ったら金貨が飛んでいきそうなレベル。

 前世の時、ファストファッション屋だと思って入ったら数万円の服しかなかった、今はそんな気分。

 いや入る前から規制服の店だし多少は覚悟していたけど、つい頭の中で何日分の食事代になるか計算してしまう。


 誰にも見られない様に財布をそっと開く。

 まとまった金が入ったから、1コーデなら買えなくも無い。

 そんな人生で一番金を持っているタイミングだからこそ、頭を悩ませる。

 う〜〜ん、


「ねぇ、ザック」


「……はい、なんでしょうネメアさん」


 ザックとネメアというのは、2人の偽名だ。

 キースという名前自体は珍しく無いけども、一応という事で決めたものである。

 ハーティアは……言わずもがなだと思う。

 流石に珍しい名前だから、簡単にバレてしまうだろうし。


「どっちが私に似合うと思うかしら?」


 ……いきなり、試練が訪れた。

 彼女は、両手に一着ずつ広げた服を持っている。

 絶対彼女はどちらか決めているだろうに、何故俺に聞く!?


 ……まあいいか、


「右手に持ってる方だけど」


「うん」


「落ち葉カラーで秋っぽい感じ?

仕事汚れも目立たなさそうだし、良いね」


「えっと……」


「……そうね」


 こちらの答えに露骨に機嫌が悪くなるハーティアと、なんとも言えない顔をする店員さん。

 最悪の答え方をした自覚はある。

 流石に言葉にレパートリーのない俺だと、2つ同時は無理だった。


「左手に持ってる方は」


「……うん」


 不満気に、期待していない様子で彼女は返事をする。


「爽やかな空色で、これからの夏にぴったりだよね。

それに……」


「それに?」


「ネメアは明るい色を着ている方が、個人的には似合ってると思う……かな?」


 そんな感想を俺は彼女に提出した。

 彼女の儚げなメイクとも合ってると思うし、性格的に派手な方が好きだろうし?

 

 という感想を告げると彼女は俯き、プルプルと震え出す。

 その表情は垂れた銀髪によって、窺い知れない。


 まさか……怒らせちゃった?

 いや、逆に良い方にクリティカルヒットした可能性も?

 

 そうして僅かな沈黙の時間を破り、あげられた顔は……スンとした表情だった。

 いつも見ている表情だけど、今だけは感情を全く読み取れない。


「……まあ、良いわ。こっち買うから、茶色の方は戻してもらっていい?」


「お買い上げありがとうございます!」


 そうして彼女は、俺の意見と同じ水色の方を選ぶ。

 多分あれもお高い奴、店員さんもニコニコだ。

 コレは、俺も喜んで良い…のか?


「あっ、置いてきたら戻ってきて貰えるかしら?

コイツのコーディネートもするから」


「えっ」


「はい、もちろんでございます!

では少々お待ち下さいませ」


「いや、ちょっ……」


 ハーティアと言葉を交わした店員さんは足早に、この場を去っていってしまう。

 

「えっと……俺の意思は?」


「良いじゃない、1つぐらいコーディネートがあった方が貴方も楽でしょう?」


「それは、そうだけども……」


「じゃあ決まりね。

まあまあ、財布の中身全部使おうって訳じゃないから安心して」


 彼女の提案は、断り切るだけの理由を持っていないため否定しきれず。

 結果押され、何故かハイテンションのハーティアと、遅れてやってきた店員さんによって着せ替え人形にされたのだった。




「ふぅ……今日は買ったわね」


「……そうだね」


 日が暮れた今でも、ワイワイがやがやと盛り上がっているこの店。

 ここは酒場といっても飯も美味しいのを出してくれる場所。

 その一角へ、傍らに荷物を置いて腰掛けていた。


 確かに彼女の言う通り、買ったかもしれない。

 彼女はあの服屋だったり、布自体やメイク道具なんかを揃えていた。

 俺はというと、あの服屋で買って今も身につけているモノだけだ。

 

 店員さんとハーティアが選んだ、インナーとボトムス、ジャケットの3点セットで普通に金貨一枚を超えていったし。

 あわやアクセサリーで2枚目が飛んでいきそうなレベルだったため、慌ててそれだけはキャンセルしたという事態もあった。

 そんな訳で財布を開くと、ついため息が溢れてしまう。


「なんか、悪かったわね」


「ん?なんか謝られる様な事あったっけ?」


「貴方、あまり服に興味がないのに高いのを買わせてしまったな、と思って」


「ああ、そう言う事」


 彼女は悪いと思っていたらしい。

 

「でも、1つぐらいコーディネートがある方がいいっていうのは共感したから。

本当に嫌だったら、断ってるさ」


「そう、かしら?」


「そうそう、それに金貨も崩さないと普段使い出来ないし丁度良かったよ」


 コレは本音だ。

 金貨なんて、いつも使ってる店だとデカすぎてお断りだろう。

 それに高価すぎて持ち歩きたくもないし。

 銀貨がいっぱいあるぐらいが使いやすくて丁度いいのだ。


「なら良かったわ。だったら、この私に感謝する事ね!」


「いや、そのテンションはなんか違う気もするけど……」


 そんな自慢気に胸に手を当てる彼女と顔を見合わせる。

 

 そしてどちらからともなく、笑い出した。

 明るい空間、この酒気の漂う空間に当てられたのかもしれない。


「もし、またお金が入ったら買い物行こうかしら?」


「良いんじゃない?

別に次は、サントルイス以外の通りに行っても良いけど」


「確かに、それも良いわね!」


 並んだ料理をつっつきながら、話は弾む。

 そうして夜は更けていくのだった。

1章完結!

ぜひ評価やブックマーク、感想などを頂けますと励みになります!

2章もしっかりストックがあるため、まもなく投稿が始まる予定です。

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