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『完結』婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎ 〜家を追い出された令嬢が敵国のスパイと手を組み、破壊工作で祖国を滅ぼすまで〜  作者: お汁粉パンチ
モリッジ男爵家潜入編

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11/50

報酬は山分けで

「ちょっと寝室来てくれない?」


 ガタンッッ


「痛っっ……」


 振り返っている最中に聞こえた鈍い音と彼女の痛がる声。

 ズレた机と足を押さえる彼女の画を見て、何となく起きた事は察せられた。


「え〜っと、大丈夫?」


「……治癒をっ、かけて貰えるかしら?」


「分かった」


 そうしてソファに寝転ぶ彼女の前に跪き、手を翳す。

 現れた光は患部へと降り注ぎ、その痛みを癒していく。

 若干赤くなっていたけど、今はもう無くなったし大丈夫かな?


「ありがとう。 それでっ、何で寝室に行かないと行けないのかしらっ?」


「あっ、そうそう」


 そう言いながら、机に置きっぱにされていた袋を彼女の前へと持ってくる。


「それ、リンゴが入ってた袋よね?」


「でもほら、中を見ると……入っていると。

この前の報酬が」


 一つ取り出してみせると、それは金貨。

 普通に庶民が生活している分には関わり合いのない代物だった。


「……じゃあ、何で寝室に行くなんて事になるのよ」


「だって流石にこの量を、こんなところでぶち撒ける訳には行かないじゃん?

また変な人が来た時、誤魔化すのが面倒臭いし。

後ベッドの上だったら、金貨とか欠けたりしなさそうだし?」


「そういう事ね……」


 どうやらその説明で彼女は納得してくれたらしい。

 あちらが立ち上がるのにも合わせて、こちらも床から立ち上がる。


 それにしても、何であんなに彼女は動揺?していたんだろうか。

 別にこっちは報酬を分けるために寝室へ誘っただけ……あっ、


「エッチな事はしないからね?」


「貴方は何を言ってるのッッ!?」


「いや、でもそれ以外に考え……ヘブしッッ」


 そんなハーティアの発言に食い下がると、背後から勢いよく両頬が彼女に手によって押し潰された。

 痛みや、何するんだッ!?という考えより早く、


「今のは聞かなかった事にしなさい……良いわね?」


 彼女の念押しをする囁きが。


「今すぐに忘れますッッ。

……それで、何しに寝室行くんでしたっけ?」


「そこまで忘れろとは言ってないわよ!」


 そうして、ぷんぷんと怒る彼女を連れて普段俺が使う寝室へと入った。

 ちなみに彼女が寝泊まりしているのは別の部屋。

 

 だから多分彼女は見た事ないだろう、物珍しそうにキョロキョロと中を見ている。

 まあ、別に特別なモノは何もない殺風景な部屋なんだけどね。

 そんな場所で俺はベッドの上であぐらをかき、彼女はちょこんとベッドの端に腰掛ける。


「じゃあ、全部出すよ?」


「ええ、いつでもどうぞ」


 そうして彼女の同意を取ったところで、リンゴの袋をひっくり返した。


ボトボトッ


 もうリンゴは全て出したのにも関わらず、出てくる出てくる。

 そして彼女はその内の1つを拾い上げた。


「葉っぱで包まれているの?」


「擦れて音が鳴らない様にってさ」


 出てきたのは葉っぱに包まれた状態のモノ。

 しっかりとその葉を剥けば、きらりとした金属光沢の硬貨が姿を現す。

 それが何個も何個も、


「どれだけあるのよ……」


 彼女が少し引くぐらい。


「まあ、開けてこっか」


 そうして静かに、ベッドの上で葉っぱを剥いていく作業を進める。

 とはいえ2人で進めたら案外早く終わり、その金額が露わになった。


「……46、48、50。 銀貨50枚に、金貨四枚かぁ」


「コレって、多いのかしら?」


「他のスパイの報酬を知らないけど、まあ多いんじゃない?

1人暮らしだったら節約して数年持つレベルだし」


「結構貰ってるのね。なら良いわ」


 今回の報酬は、こちらの初活動と情報の対価だろう。

 第一王子派、シャウナイ伯爵領鉄鉱山の封鎖についてが大きかったはず。

 

 まず、この情報自体は草本部までとっくに届いていてもおかしくない。

 でもそれはきっと噂程度、詳細まではないと思う。

 そんな大規模な事故、祖国……サンドラ王国にとっては大きく分けて2つメリットがある。


 1つ目は、当たり前だけど鉄生産量の減少だ。

 生活用品もだけど……武器や防具も、満足な量を作れない。

 きっとすぐに戦争を起こしたりは出来ないだろう。

 コレは十分な安心材料だ。


 2つ目は、サンドラ王国を拠点とする商会への交渉に使える事だ。

 当たり前だけど、鉄の供給量が下がれば市場の値段は上がる。

 そうすれば鉄を扱う商会に対して情報を提供し、恩を1つ売れるだろう。

 

 もしかしたら鉄を扱う商会は、もうとっくに気づいて自分達で情報収集しているかもしれないけど、こんなモノは国家機密レベル。

 余所者だけでは、流石にあまり深くまで行けないはずだ。

 そこに、サンドラ王国のお墨付き情報が出てきたら?

 ……商機を逃さんとばかりに、喜んで鉄を売るだろう。

 ルイス王国が払える、ギリギリの額まで吊り上げた値段で。



 この2つのカードが評価されたのか、これだけの大金になったという訳だ。


「じゃあ、早速分けようか?」


「ええ。方法はお任せしますわ」


「なら普通に山分けで良いかな」


 返答を聞いたところで、彼女の方へと金貨2枚と銀貨25枚を置く。

 それを見て彼女は目をパチクリとさせる。


「どう?」


「どう、と言われても。

こんなに貰って良いのかしら?」


 不満があるのか?と思ったけど、それは逆の意味でだったらしい。

 正直、こっちも内心驚いている。

 だって肉体労働をしているだけでは到底届かない金額だから。


「まあ、良いんじゃない?そもそも報酬自体が多いしさ

何ならハーティアのメイクの方が活躍したし、そっち多い方がいい?」


「いやいや、そんな要らないわよ! 

……そもそも使い道もないんだし」


 そう言いながら彼女はガクンと肩を落とす。

 確かに、家にいたらお金も使わないか。

 この世界には通販もないのだから。

 貴族家だったら、お抱えの商人が喜んで屋敷まで商品を売り込みに来てくれるだろうけども。


「……というか別に、出かければ良くない?」


「いやでも、バレっ……ないわね」


「だって買い物するだけじゃん。

流石に任務よりも簡単だしさ」


「そうね、でも……怒られないかしら?

草本部から、正体がバレたらどうするんだって」


 彼女の不安も尤もだろう。

 もしあちらを怒らせた場合、多分ハーティアの身柄はルイス王国へ引き渡しコースだ。

 とはいえ流石に杞憂だとは思う、

 

「まあ、大丈夫でしょ。 それでもまだ何か言ってくるなら、俺が言い返すからさ。

買い物も危うい人間に重要な任務を任して良いんですか?ってね」


 俺はこんな感じの考えだ。

 正直バレるより、彼女が軟禁状態で精神を病んでしまう方が損だと思っている。

 最悪家がバレるだけだったら、王都から彼女を連れて逃げ出してしまえば良いのだし。

 

「そう?……なら、お言葉に甘えようかしら」


 やっぱり彼女も出かけたかったらしい。

 まあこの家、日当たり悪いからあんまり気持ちよく過ごせないしね。

 そうして、準備するから少し待ってて頂戴と言い残して、彼女は自身の部屋へと消えていった。


 俺も一応着替えるか、という感じで部屋のクローゼットを開く。

 正直いつもはあまり着ない奴らだ。

 ほぼ毎日仕事だし、その作業着のまま出かけるのが楽だしね。


 とはいえ、流石にその格好だとハーティアからどれだけ怒られるか分からない。

 そんな訳で、そこに畳まれた服達を見ながらコーディネートを考えていく。

 

 行き先は、商店街。

 同行者は、ハーティアだから男女2人で……ん?

 あれ、気のせいだろうか?

 

「コレって……デート?」

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