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婚約破棄令嬢 家柄……今は× 資金……今は× スパイ適正……◎  作者: お汁粉パンチ


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10/10

初めての……

 まだ日は昇ったばかりの時間、でもこの通りにはもうガヤガヤとした活気があった。

 

「このジャガイモ、5つ買うから木貨5枚分まけてくれないかい?」


「それは安すぎだぜ姐さん。

俺メシ食えなくなっちまうよ、木貨3枚だ」


 恰幅の良いお婆さんが、売り手のおっさんとジャガイモの値引きを交渉していたり、


「良い匂いだな……マルサクス弁当を1つくれっ!」


「毎度!兄ちゃんお目が高いな、コレは昨日届いたばっか……」


 会話を交わす彼らの間には、焼き魚の良い匂いを漂わせる弁当が。

 それを日雇い先でよく見る、タオルを頭に巻いて作業服を着た格好のオッチャンが買っていく。

 

 そんな光景が繰り広げられているのは、王都のサントルイス通り。

 ここは朝だけ、特定の料金を払えば店を持っていない人……例えば農民でも商売ができるという場所になる。

 日本だとフリーマーケットという言葉が相応しいだろうか。

 なのでこうして近隣の農村や都市から個人が、大手の商会から出張の屋台が、という感じで集まってきた結果これだけの盛り上がりを見せていた。


 基本的には普通の店で買うよりは安い。

 だけども、あまり普段は訪れない場所だ。

 

 何故かって?……すごい混むからだよ!


 今日はまだマシな方だけど、普段はヤバい。

 喧嘩なんてしょっちゅうそこらで起きるし、人が多ければ……スリも多い。

 衛兵も有限であるため、事件の数に全く足りないし治安が中々悪い場所。

 そんな場所で節約できるのは、精々銅貨数枚、日本円なら数百円程度。

 流石にその金額のために、新年の初売りレベルの戦場へは行きたくなかった。


 喧嘩に巻き込まれて怪我したり、スリされて金がなくなったらどマイナスだしね。

 ただ一回考えた事はある……幻影を使えばここのスリだけで一財産築けるんじゃね?って。

 とはいえ、流石に人として超えちゃいけない一線があるのは分かってるし、やらなかったけどね。

 まあ……スパイ行為と比べたらどんな罪も可愛いものなんだけど。


 そんな事は置いておいて、普段足を運ばない場所にわざわざ訪れた理由。

 それは……指定されたのだ、草本部からあるモノの受け取り場所として。

 木を隠すなら森の中、そんな感じで選ばれたのだろう。

 この市場自体は毎日空いてるしね。


「確か、この辺なんだけど……」


 場所を指定する文を詳しく見返すと、時計塔から路地を挟んだ反対側というなんともざっくりしたもの。

 とはいえそれしか頼りに出来ず、人のごった返したこの通りをかき分けて進んでいくと、


「……あった」


 遂に、見つけた?

 

「リンゴ、いかがですかぁ〜?」


 路地に敷物を引き、木箱に入れられたリンゴを売る女性。

 顔は相変わらず隠れて見えないけども、声は物凄い聞き覚えがあった。


「あら、お客様ですか〜?」


「……11個、酸っぱいヤツで」


 書いてあった符号。

 正直なんのこっちゃ?って感じだったけど、リンゴ屋で使うものだったらしい。


「ありがとうございます〜。

少し値引きさせていただいて……銀貨10枚で〜す」


 ぼったくり価格じゃないか!

 普段の八百屋でも、1つにつき銅貨5枚が相場だ。

 だから、人が並んでないのか……。


 とはいえ、あらかじめ注意事項として記載されていた。

 銀貨10枚を持ってくる事って。

 まあ受け渡しのためだし、しょうがないけどさ。


「ちょうど頂きました〜」


 そのお金は彼女のポケットへと吸い込まれていった。

 そしてヒョイヒョイッと、取り出された袋に詰められていく。

 流石に……騙されてないよな?

 普通に銀貨10枚失ったら、結構生活苦しくなるんだけど。

 だからつい、


「大丈夫なんだろうな?」


 そんな事を聞いてしまう。

 他人が聞いたとしても、この場面だと相場よりかなり高いリンゴの品質を不安視しているだけに聞こえるだろう。

 それを問われた彼女は全くペースを崩さず、


「ええ、安心してください〜。

……ご所望の品も、擦れあって音が鳴らないくらいに詰めてありますから〜」


「なるほどね」


 そうして、リンゴの詰められた袋が手渡された。


「ありがとうございました〜、……では」


 なんとなく買った後も見ていると、任務を終えて立ち上がった彼女は看板を書き換えていく。

 そうして林檎1個が銀貨一枚から、銅貨一枚へと変わった。


「おっとっと……」


 瞬く間に押し寄せる人の波。

 それに押されて、つい体勢を崩してしまうが何とか耐えた。


 結果あれだけあったリンゴは一瞬で消え……その場には空っぽの売り場だけが残されたのだった。

 彼女ももう、その売り場から姿を消したのだ。

 きっとあの人混みが引くのに合わせて、姿をくらましたんだろう。


 …あれが本物のスパイか、内心感動しながら俺もその場を去っていく。

 中身は高価なモノだし、しっかりと幻影をかけた状態で……ね?



「ただいま〜」


 そう言いながら、自身にかけていた幻影を解除する。


「お帰りなさ……アンタ、そんなリンゴ好きだったの?」


 リビングへ入っていくと、この場所の主人かのように振る舞うハーティアの姿が。

 そんな彼女の視線の先には、こちらが抱えている袋から溢れんばかりのリンゴ。

 ……確かにそう思われてもしょうがない。

 冷蔵庫の無いこの世界、基本的に食べ物は保存食として作られたモノぐらいしか長持ちしないし。

 地球時代にお歳暮でもらって、段ボールに詰められたままの奴は……二週間ぐらいは常温で持っていた気もする。


 計算してみると、この量を腐らせる前に食べ切るには……毎日リンゴ生活が待っている。

 一応コイツら1個で銀貨一枚もするし、流石に腐らせたら泣いてしまう。

 まあ、最悪リンゴジュースにでもしようか。


 とはいえ、それは後々。

 別に今回はリンゴを買いに行くのが目的ではなく、草本部から送られたモノの受け取りが主目的。

 袋の中を覗き込むと……しっかり入っていた。

 コレはかなり、期待できそうだ。


 でも、流石にここで広げるのもアレか。

 また衛兵だったり、知人が来たら無用な事件を呼び込みそうだし。


「ハーティア」


「何よ?料理なら手伝わ……」


「ちょっと寝室来てくれない?」


 ガタンッッ

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