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第七章 知らない目

私のことを、よく知らない常務がいた。


それまで接点はほとんどなく、会議で顔を合わせても、言葉を交わすことはなかった。

互いに存在は認識しているが、それ以上ではない。そんな距離だった。


その常務が、あるとき地方の営業所をいくつか回った。


現場を見たいのだと聞いた。

数字だけでは分からないものがある、と。


私のいる営業所にも立ち寄った。


特別な準備はしなかった。

いつも通りに動き、いつも通りに報告した。

むしろ、過度に取り繕うことを避けた。


それが良かったのかどうかは、分からない。


ただ、その日を境に、私を見る目が変わったように感じた。


後日、呼び出しを受けた。


用件は簡潔だった。


「次のポストに行ってもらう」


唐突だった。

理由の説明も多くはなかった。


私は一瞬、言葉を失ったが、すぐにうなずいた。


評価されたのだと思った。


だが同時に、頭のどこかで別の声がよぎった。


――この人は、私の何を見たのだろう。


その答えを、私は求めなかった。


求めなくても、結果は出ている。

それで十分だと考えた。


ふと、かつて私を課長に引き上げてくれた理事の言葉を思い出した。


「いくら課長任用が早くても、十年やっていたらだめだよ」


当時は、その意味がよく分からなかった。


早く任用されたことは、むしろ評価されるべきだと思っていた。

長くやっていることの何が問題なのか、理解できなかった。


気づけば、課長になってから七年が過ぎていた。


あと三年で、その言葉に重なる。


だがその理事は、もういない。


私を見ていた目は、すでに組織の外にある。


代わりに現れたのは、私をよく知らない常務だった。


その人が、私を選んだ。


私は、それを自分の力だと受け取った。


見られていなくても、評価される。

そう思える出来事だった。


だから疑わなかった。


このまま進めばいい。

自分は、正しく見られている。


そう信じた。


だが今思えば、その“見られ方”は、以前とは違っていた。


何を見られていたのか。

何を評価されていたのか。


私は、それを確かめなかった。


確かめる必要がないと思っていた。


そのまま、私は次の役割に進んでいった。


知らない目に見られたまま。

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