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第五章 承知できなかった最初の場面

大阪に赴任して間もなく、私は課長に抜擢された。

さらにその延長線上で、最年少で地方営業所長に任命された。


順調だった。

自分のやり方は間違っていないと、疑う理由はなかった。


問題が起きたのは、着任してしばらく経ってからだった。


営業所の運営に、OBが深く関わっていた。

名目上はすでに現場を離れているが、実質的には影響力を持ち続けている。

そしてそのやり方には、明らかな問題があった。


コンプライアンス違反だった。


私は迷わなかった。

事実を確認し、是正を求めた。

規則に照らせば、議論の余地はない。

正しいことを正しいと言う。それだけの話だった。


だが、話はそこで終わらなかった。


数日後、私は社長に呼ばれた。


簡素な応接室だった。

向かいに座った社長は、資料に目を落としたまま、しばらく何も言わなかった。


やがて顔を上げ、静かに言った。


「お前は、正しい」


その言葉に、私はうなずきかけた。

だが、次の一言で止まった。


「ただ、順番を間違えている」


意味が分からなかった。


順番とは何か。

正しいことを指摘するのに、順番などあるのか。

問題があるなら、正せばいい。それだけではないのか。


私は何も言えなかった。

いや、言わなかった。


言えば、同じことを繰り返すだけだと思ったからだ。


自分は間違っていない。

その確信があった。


「承知しました」


その一言を、私は口にしなかった。


言えなかったのではない。

言う必要がないと、本気で思っていた。


だがその場で、何かが決まったのだと思う。


評価か、立場か、あるいは見えない線引きのようなものか。


当時の私には分からなかった。

いや、分かろうともしなかった。


正しさは、通じるはずだと信じていたからだ。


そしてその信念は、この先も長く、私の中に残り続けることになる。

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