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第三章 選ばれる側にいるという錯覚

主任に昇格したのは、入社して七年目のことだった。


周囲からは順調だと言われた。

自分でもそう思っていた。いや、順調どころか、少し出来すぎているとさえ感じていた。


評価された理由は、はっきりとは分からない。

だが当時の私は、それを疑わなかった。


自分は結果を出している。

だから選ばれたのだ、と。


同じ頃、労働組合の委員長にも選ばれた。

年齢からすれば異例だったが、周囲は自然な流れだと言った。


「お前ならできる」


その言葉を、私はそのまま受け取った。


職場での扱いは、目に見えて変わった。

会議での発言は通りやすくなり、上司も一目置くような態度を見せる。

同僚はどこか距離を取りながらも、頼る場面が増えた。


私は、その中心にいた。


頼られ、持ち上げられ、評価される。

その状態は、思っていた以上に心地よかった。


気づけば私は、自分のことを「出来る側の人間」だと疑わなくなっていた。


仕事も組合も、忙しさは増していったが、不思議と苦にはならなかった。

むしろ、自分が必要とされている実感があった。


発言は強くなり、判断も速くなった。

周囲が迷っていると感じる場面では、自分が答えを示すことにためらいはなかった。


それが正しいと思っていた。


いや、正しいかどうかよりも、

「自分が言うこと」に意味があると感じていたのかもしれない。


振り返れば、その頃からだ。


人の意見を最後まで聞かなくなったのは。

結論を急ぎ、場を収めることを優先するようになったのは。


それでも、結果は出ていた。


少なくとも、そう見えていた。


だから私は、自分を疑わなかった。


組織が私を選び、周囲が私を持ち上げる。

その事実が、自分の価値を証明していると信じていた。


だが、その証明は、どこまで本物だったのか。


役職と役割、評価と期待。

それらが混ざり合い、私は自分の輪郭を見失い始めていた。


それでも私は、疑わなかった。


自分は出来る。

このまま上に行く人間なのだと。


その確信は、揺らぐことなく、

むしろ静かに強くなっていった。


そしてその強さが、

やがて私から、ある言葉を遠ざけていくことになる。

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