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第二十八章 仲良しクラブ

コロナ禍が終わったあと、

会社は静かに壊れ始めていた。


いや、

正確には、

壊れていたものが見えるようになった、

と言うべきかもしれない。


市場は変わった。


客の価値観も変わった。


働き方も変わった。


特に大きかったのは、

リモート化だった。


もう、

わざわざ現地に行かなくても商談が出来る。


画面越しで、

全国の客と繋がれる。


それ自体は悪いことではない。


効率化。


移動時間削減。


生産性向上。


時代としては正しかったのだと思う。


だが、

会社はそこに、

別の使い方を始めた。


本社。


他部門。


他エリア。


本来なら東日本の営業拠点が担当していた客先に、

平然と入り込んでくるようになった。


「オンラインだから問題ない」


そんな理屈だった。


私は強く抗議した。


「当社の営業拠点を侵食するつもりですか?」


「それを始めたら、

現場は存在意義を失います」


だが、

誰も止めなかった。


いや、

止めるどころか、

歓迎している空気すらあった。


数字さえ上がればいい。


取った者勝ち。


そんな空気だった。


だが、

私たちは違った。


他エリアの客先に、

こちらから土足で入るようなことはしなかった。


全社最適を考えていたからだ。


目先の数字の奪い合いを始めれば、

最後に壊れるのは組織だと分かっていた。


ルールを逸脱してまで、

成果を挙げる必要はない。


少なくとも私は、

そう教わってきた。


だが、

新しい本部長は違った。


あの副本部長だった男。


今や、

完全に社長側の人間になっていた。


彼は、

何も言わなかった。


止めもしない。


咎めもしない。


黙認した。


いや、

むしろ、

それを利用していた。


彼の構想は明確だった。


ダウンサイジング。


効率化。


拠点整理。


“リモートで出来るなら、

地方拠点はいらない”


それが、

彼の本音だったのだと思う。


現場を守るという発想は、

そこにはなかった。


数字。


効率。


経営指標。


その先に、

人間の顔は見えていなかった。


私は、

強い危機感を覚えた。


七つの拠点。


そこで働くメンバー。


家族を抱え、

必死に現場を守ってきた人たち。


その存在が、

ただの固定費として扱われ始めていた。


そして、

もう、

私を守ってくれる人はいなかった。


私を東日本部長に引き上げてくれた、

あの本部長はもう居ない。


最後は、

親会社が見るに見かねて呼び戻した。


実質的には、

左遷を止めるための救済だった。


仲良しクラブ。


私は、

いつしかそう呼ぶようになっていた。


中心にいたのは、

プロパー社長。


そして、

新本部長。


さらに、

その周囲を固めるプロパー役員たち。


同じ会社で育ち、

同じ空気を吸い、

同じ価値観で出世してきた人間たち。


波風を嫌い、

空気を乱さず、

上に逆らわない者だけが残っていく。


そこに、

親会社から来た人間の居場所は無かった。


特に、

私を引き上げてくれたあの本部長は、

異質だった。


現場を見る人だった。


数字だけではなく、

人を見ていた。


だからこそ、

最後は排除された。


今になって思う。


あの人は、

親会社でも扱いづらかったのだろう。


大手組合の執行委員長。


現場を知り、

会社にも物を言う。


便利な存在ではない。


だから、

子会社役員という形で外に出された。


そんな側面もあったのかもしれない。


だが、

私は救われていた。


あの人がいたから、

私は一度、

本気で心理的安全性を信じられた。


現場を守る経営があると、

本気で思えた。


そして気づいた。


あの人は、

私と同類だったのだ。


不器用で。


空気を読み切れなくて。


組織の綺麗事より、

現場の現実を優先してしまう。


だから、

最後に居場所を失った。


会社は、

静かに壊れていた。


私は、

それを止めたかった。


いや、

正確には、

メンバーを守りたかった。


だから、

私は新本部長に楯突いた。


会議でも言った。


個別にも言った。


「現場を壊して何が効率化ですか」


「数字だけで会社は残りません」


「人が離れた組織は、

最後に必ず崩れます、お客様も離れます」


空気はさらに悪くなった。


だが、

もう良かった。


どうせ、

私は仲良しクラブには入れない。


今さら、

好かれようとも思わなかった。


失うものなど、

もう無かった。


だから私は、

最後のあがきを始めた。


メンバーを守るために。


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