表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/31

第二十七章 悪い予感

後に、この部長は、

成り上がりの後任として取締役本部長になった。


正直、驚かなかった。親会社から役員になるために来た人だと思っていたからだ。


使いやすい人間。


上に逆らわない人間。


空気を読む人間。


そういう人間が上に行くのを、

私は嫌というほど見てきた。


だがこの本部長は少し違った。


もちろん綺麗事だけではない。


現実も知っている。


組織も知っている。


だが、

人を潰して上に行くタイプではなかった。


そして同時に、

私自身も異動になった。


東日本部長。


担当エリアは、

入社以来で最大だった。


西もやった。


中部もやった。


地方も回った。


現場を渡り歩き、

気がつけば最後は東日本だった。


群雄割拠で例えるなら、

全国制覇したような感覚だった。


もちろん、

そんな大げさなものではない。


だが、

一つの会社人生として見れば、

確かに到達点のような場所だった。


任命には賛否両論あった。


「あいつで大丈夫なのか」


そんな声も、

きっとあったと思う。


私は昔から、

評価が割れる人間だった。


上に媚びない。


言うべきことは言う。


だが現場には強い。


お客さんにも好かれる。


だから、

強く評価する人間もいれば、

扱いづらいと思う人間もいた。


そんな私が、

最後に東日本を任された。


私は、

あの本部長が引き上げてくれたのだと思っている。


もちろん真相は分からない。


だが、

あの人でなければ、

私のような人間を最後にそこへ置こうとは思わなかったはずだ。


理屈だけではなく、

現場を見ていた人だったからだ。


だから私は、

ありがたいと思った。


最初の二年間は、

がむしゃらだった。


東日本には七つの拠点があった。


どこも高齢化が進んでいた。


長く会社を支えてきた人達だった。


だが時代は変わり、

現場は疲弊していた。


私はこの二年間、

心理的安全性を意識して、

彼らと向き合った。


頭ごなしに否定しない。


まず話を聞く。


出来ない理由にも耳を傾ける。


それは甘やかしではない。


成果を出すためだった。


人が疲弊した組織では、

恐怖だけでは動かない。


私は、

本部長から学んだことを、

不器用ながら実践していた。


気がつけば札幌にいた。


雪のホームで、

年配の所長と缶コーヒーを飲みながら、

人員不足の話を聞いていた。


気がつけば仙台にいた。


震災を経験した古参社員が、

静かに本音を漏らしていた。


気がつけば富山にいた。


地方拠点特有の閉塞感と、

それでも会社を支え続ける人達がいた。


気がつけば新潟にいた。


古くなった事務所で、

定年間近の社員達と、

これからの話をしていた。


私は、

東日本を回り続けた。


数字を見るだけではなく、

人を見ようとした。


それが正しかったのかは分からない。


だが少なくとも、

現場との距離は近かったと思う。


一方で、

妙な胸騒ぎもあった。


会社人生というのは、

上手く行き始めた時ほど、

足元が崩れる。


私は、

そんな場面を何度も見てきた。


そしてその予感は、

外れなかった。


副本部長として君臨していた男。


私の一つ下の年次。


昔から抜け目がなく、

上への所作が非常に上手い男だった。


敵を作らない。


いや、

正確には、

敵を表に出させない。


笑顔で近づき、

静かに人を動かす。


私は昔から、

どこか苦手だった。


だが、

本部長がいる間は、

表立った動きはなかった。


しかし、ある日を境に


空気が変わった。


会議の流れ。


根回し。


情報の伝わり方。


微妙に、

私を外した話が増えていく。


最初は気のせいかと思った。


だが違った。


その男は、

静かに動いていた。


気がつけば私が最年長部長にになっていた。周りはその男の子飼いが登用され始めた。


私を潰すためではない。


自分が次に上がるために。


会社には、

こういう人間がいる。


正面から戦わない。


だが、

気づいた時には、

周囲の空気を変えている。


現場では、

正面からぶつかればよかった。


数字で勝負すればよかった。


だが本社は違った。


笑顔で刺す。


それが出来る人間が、

生き残る世界だった。


私は、

東日本という大きなエリアを任されながら、

ある日を境に

次の戦いが始まっていることを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ