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第二十四章 ようやく誰かのために

本社へ戻ってから、私は不思議と以前ほど荒れていなかった。


もちろん、会社が変わったわけではない。


悪ハゲもいる。

成り上がりもいる。


評価の理不尽さも変わらない。


だが、自分の中で何かが少し変わっていた。


私はようやく、“誰かのために働く”という感覚を持ち始めていた。


若い頃は違った。


会社のため。

お客様のため。

部下のため。


そう言いながら、どこかで自分を証明したかった。


認められたかった。


勝ちたかった。


だが本社へ戻ってからの私は、少し違っていた。


元大阪の長――

理事になったあの人のために仕事をしていたのだ。


後になって気づいた。


この人を助けたい。


この人を困らせたくない。


そう思って動いていた。


不思議だった。


私は、上司のために働くという感覚を、今までほとんど持ったことがなかった。


むしろ反発してばかりだった。


だが彼には、それがなかった。


潰そうとしない。

過剰に管理しない。

人格を否定しない。


そして、必要な時だけ守る。


私は、その信頼に応えたかったのだと思う。


だから自然と動けた。


根回しもした。


面倒な調整もやった。


昔なら、

「なんで俺がこんなことを」

と思っていた仕事も、自分からやっていた。


それは敗北ではなかった。


ようやく、“組織で働く”ことを覚え始めたのかもしれない。


もっとも、それは長くは続かなかった。


年齢限度だった。


彼は、会社を去ることになった。


最後まで大きく感情を出さない人だった。


だから別れ際も、淡々としていた。


だが私は、正直かなり寂しかった。


また一人、“自分を知っている人”がいなくなる。


そんな感覚だった。


そして周囲は少しざわついていた。


後任は誰になるのか。


だが私は、最初から分かっていた。


自分な訳がない。


そんな幻想は、もう持っていなかった。


私は、自分が役員になるタイプの人間ではないことを理解していた。


能力以前の話だ。


向いていない。


私は最後まで、感情が出る。


納得できないことを飲み込めない。


経営者の判断を軽くするより、自分の正しさを優先してしまう。


その時点で失格なのだ。


だから驚きもしなかった。


結局、組織は組織に都合の良い人間を上へ置く。


それは悪ではない。


会社なのだから当然だ。


むしろ私は、そこを長い間理解しようとしなかった。


だから苦しんだ。


だが、この頃になると少し違った。


悔しさはある。


だが、嫉妬ではない。


「ああ、自分はここまでの人間なんだな」


そんな風に、少し客観的に見られるようになっていた。


それは諦めではなかった。


自分の立ち位置を、ようやく理解し始めたということだった。


そして次に来た人も、また親会社からの転籍者だった。


不思議なものだと思った。


私は社内では扱いづらい人間なのに、親会社から来る人たちは、なぜか私を嫌わなかった。


少なくとも、蔑むような態度は取らなかった。


この新しい上司もそうだった。


人を見下さない。


肩書きで接しない。


現場の人間にも普通に声を掛ける。


私はすぐに分かった。


「あ、この人にはついていける」


そう思えた。


理由を聞いて納得した。


前職で、大手組合の執行委員長を務めた人だった。


なるほどと思った。


この人は、“立場の弱い側”と向き合ってきた人なのだ。


会社だけを見てきた人ではない。


現場の不満。

矛盾。

感情。


そういうものを受け止めながら生きてきた人だった。


だから、私のような面倒な人間も理解できたのかもしれない。


正論を吐く人間の危うさも。

不器用さも。

孤立する理由も。


全部とは言わないまでも、何となく分かっていた気がする。


私は、この頃になるとようやく理解していた。


人は、“正しい人”についていくのではない。


“自分を人として扱ってくれる人”についていくのだと。

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