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第二十一章 大阪の長

彼とは、以前から面識があった。


部長会で、何度も顔を合わせていたからだ。


正直に言えば、最初の印象は地味だった。


特別オーラがあるわけでもない。

話が抜群に面白いわけでもない。

数字で伝説を作ったという話も聞かない。


どちらかと言えば、冴えない。


そんな印象だった。


だが不思議と、評判は悪くない。


敵を作らない。


現場からも嫌われない。


役員からも一定の信頼がある。


そして気がつくと、いつも要職にいる。


私は昔、その理由が分からなかった。


仕事がずば抜けて出来るようには見えない。


なのに、なぜこの人は残るのか。


当時の私は、“結果を出す人間が上へ行く”と本気で思っていた。


だから理解できなかった。


だが、大阪で一緒に仕事をするようになって分かった。


この人は、“負けない”のだ。


無理をしない。

敵を増やさない。

空気を壊さない。


そして、必要な時だけ前へ出る。


一見すると消極的に見える。


だが、それは組織で生き残るための技術だった。


私は逆だった。


全部まともに受ける。

全部正面から戦う。


だから消耗する。


彼は、消耗しない。


その違いだった。


そして彼は、私のような人間の使い方も知っていた。


私に自由にやらせれば現場は動く。


数字もついてくる。


ただし、放っておくと敵を作る。


だから危ない時だけ止める。


それだけだった。


細かい管理はしない。


人格否定もしない。


「あいつはそういう人間だ」


そう受け入れていた。


だから私は、やりやすかった。


そして実際、成果は出た。


現場は立て直され、数字も戻っていった。


すると彼自身の評価も上がった。


やがて理事になった。


私は、それが嬉しかった。


自分のことのように。


もっとも、彼がもっと若ければ、自分も――


そんなことは思わなかった。


私は、自分が役員になれる人間ではないことを、もう分かり始めていた。


いや、能力の話ではない。


向いていないのだ。


私は最後まで、感情で動いてしまう。


納得できないことを飲み込めない。


人を切ることにも向いていない。


会社を守るために、人を犠牲にする覚悟も足りない。


彼には、それがあった。


戦う場所と、流す場所を知っていた。


だから生き残った。


私は、全部戦ってしまう。


全部正そうとしてしまう。


その違いだった。


だから私は、嫉妬ではなく納得だった。


この人が理事になるのは自然だ。


そう思えた。


昔の私なら、そうは思えなかったかもしれない。


「自分がやった成果だろ」


どこかでそう考えたはずだ。


だが、この頃には少し変わっていた。


組織とは、誰か一人の力で回るものではない。


使う側。

使われる側。


その両方が噛み合って、初めて前へ進む。


彼は、私を潰さずに使った。


そして私は、その期待に応えた。


それで十分だった。

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