表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

第一章 メンバーシップの空気の中で

私は大手企業のグループ会社に入社した。

バブルの余韻がまだ残る時代だった。景気の先行きに陰りは見え始めていたが、「いい会社に入れば一生安泰」という空気は確かに存在していた。


配属先の仕事は、主に大手企業との取引だった。会議室に入れば、名だたる企業の担当者が並ぶ。肩書きの重さ、言葉の端々に滲む自信、判断の速さ。彼らは明らかに優秀だった。


その場に、私はいた。


それだけで十分だった。

同じ空気を吸い、同じ机に資料を並べ、同じ言葉を交わす。いつしか私は、自分も彼らと同じ側の人間なのだと錯覚するようになっていた。


振り返れば、何の根拠もない。


私はいわゆるFラン大学の出身で、特別な実績もなければ、突出した能力があったわけでもない。ただ、バブル末期という時代の隙間に滑り込んだに過ぎない。


だが当時の私は、そんなことを考えたこともなかった。


大手のグループ会社にいる。

一流企業と仕事をしている。

周囲には優秀な人間がいる。


それらすべてが、私自身の価値であるかのように感じられた。


やがてその感覚は、「自分は出来る男だ」という確信に変わっていった。


実際、仕事はそれなりに回っていた。大きな失敗もなく、与えられた役割はこなしていた。周囲から厳しく指摘されることも少なかった。むしろ、若いのによくやっている、と評価されているような気さえしていた。


だがそれは、私が優れていたからではない。

組織が、そう見せていただけだった。


メンバーシップ型の会社では、人に仕事がつく。

足りない部分は周囲が補い、問題が起きれば組織全体で吸収する。個人の能力が露骨に問われる場面は、思っているほど多くない。


私は、その仕組みの中で守られていた。


それでも私は、自分の力でやっていると思っていた。


誰かに支えられているという感覚はなかった。

むしろ、周囲のレベルが高いから自分も引き上げられているのだと、都合よく解釈していた。


今思えば、逆だった。


私は引き上げられていたのではない。

引き上げられているように見えていただけだったのだ。


だがその違いに気づくには、あまりにも時間がかかりすぎた。


このとき芽生えた「自分は出来る」という感覚は、やがて確信となり、疑うことのない前提となっていく。


そしてその前提こそが、後に私自身を縛ることになるとは、

このときの私は、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ