第十七章 二人の刺客 ― 転勤者
私は、立て直しに奔走していた。
数字だけを追う組織を変えたい。
少なくとも、まともな方向へ戻したい。
本気でそう思っていた。
だが、やればやるほど、この会社の腐り切った体質が見えてきた。
既契約のお客様に対する増額提案。
そればかりだった。
本来なら、新しいお客様へ広げなければ未来はない。
新規開拓をし、市場を広げ、信頼を積み上げる。
それが健全な営業だと、私は思っていた。
だが現実は違った。
すでに契約しているお客様に、さらに売る。
数字になる。
効率もいい。
だから皆、そこへ向かう。
結果として、お客様は疲弊する。
だが会社は、そこを見ない。
売り上げだけを見る。
私は、その体質に嫌気が差していた。
その頃には、部の立て直しも少しずつ形になっていた。
だが同時に、別の問題も抱えていた。
この部は、すでに余剰人員を抱えていた。
数字が伸びない中で、人だけが増えていく。
現場は疲弊し、管理コストも増える。
誰が見ても、増員する状況ではなかった。
そこへ悪ハゲが言ってきた。
「人を増やす」
当然のように。
私は、腹の底から嫌だった。
現場を見ていない。
立て直しの途中だということも理解していない。
そう感じた。
しかも、その転勤者は決して優秀ではなかった。
空気も読めない。
主体性も薄い。
なぜこのタイミングで、この人なのか。
正直、理解できなかった。
だが、配属される本人に罪はない。
だから私は、表向きは承知した。
実際、普通に接した。
孤立しないよう気も遣った。
しかし悪ハゲには、本音をぶつけた。
この状況で増員してどうするのか。
現場はもう限界だ。
これでは余計に崩れる。
かなり強く言ったと思う。
だが悪ハゲは反論しなかった。
静かに聞いていた。
今思えば、それが不気味だった。
しばらくして妙な話が耳に入った。
私が、その転勤者を露骨に嫌っている。
受け入れを拒絶している。
そんな話が、悪ハゲに伝わっていた。
しかも、実際とは百八十度違う内容で。
私はすぐに理解した。
――誰かが話を流している。
そして、その中心にいたのが、取引先から天下ってきた男だった。
私は、こいつが嫌いだった。
人を見下す。
露骨ではない。
だが言葉の端々に出る。
現場を知らないくせに、
人を値踏みする。
そんな男だった。
上には異常に従順。
しかし立場の弱い人間には強く出る。
典型的なタイプだった。
そして、あいつは転勤者の元上司だった。
今思えば、色々吹き込んでいたに違いない。
「あの部長は危ない」
「気を付けた方がいい」
「本音では歓迎していない」
そんな話をしていたのだろう。
だから転勤者も、最初からどこか壁があった。
私は、その違和感を感じていた。
悪ハゲ。
天下り。
転勤者。
線がつながり始めていた。
転勤者そのものが刺客だったのではない。
転勤者を利用し、空気を作っていた“あいつ”が刺客だった。
もっとも、その時の私は知る由もなかった。
その男が、後に悪ハゲの後任として、本部長にまで上り詰めることを。




