第十四章 部長という勘違い
私は、部長になった。
四十二歳。
当時としては、かなり早い登用だった。
周囲は祝福してくれた。
同期たちは驚き、後輩たちは羨望の目を向けた。
自分でも、ついにここまで来たかと思った。
そして私は、部長代理時代と同じ感覚のまま、突き進んだ。
現場を見て、問題に飛び込み、
部下を守り、組織を立て直す。
それが、自分の役割だと思っていた。
だが今思えば、その時点でズレ始めていた。
部長代理と部長では、見られているものが違う。
だが当時の私は、その違いを理解していなかった。
社内政治。
根回し。
役員との距離感。
そういうものを、私は軽視していた。
ゴルフにも行った。
だが、それは自分の都合だった。
行きたい時に行き、
気が向かなければ断る。
そこに「付き合い」という発想は薄かった。
私は、仕事で評価されるべきだと思っていた。
だから、無理に合わせることをしなかった。
一方で、お客様からの評判は悪くなかった。
取引先からも頼られた。
現場のメンバーからも支持された。
困った時には前に出る。
責任から逃げない。
そういう姿勢は、確かに評価されていた。
だが、どこかで感じていた。
同格の部長たち。
そして私を登用したあの常務と取り巻き。
彼らから、あまり好かれていない。
理由は分からなかった。
いや、本当は分かっていたのかもしれない。
私は、組織の流れに乗っていなかった。
空気を読まず、
正しいと思うことを優先し、
周囲との歩調を合わせようとしなかった。
それでも、自分は間違っていないと思っていた。
むしろ、周囲の方がおかしいと思っていた。
そして私は、数字ではなく、立て直しに全力を注ぎ始めた。
疲弊した現場。
崩れた関係。
無理を続けてきたメンバー。
そこを戻すことを優先した。
だが、当然ながら数字は落ちる。
短期的な成果は出にくくなる。
役員たちは、そこを見ていた。
「結果はどうなんだ」
そう言われ始めた。
だが私は、その場しのぎを拒絶した。
無理な数字合わせ。
先送り。
辻褄合わせ。
そういうやり方に戻るつもりはなかった。
今だけ整えても意味がない。
根本を変えなければ、また壊れる。
私は、本気でそう思っていた。
だが組織は、必ずしもそれを求めていなかった。
会社は営利で動く。
立て直しよりも、まず数字。
未来よりも、今期。
その現実を、私はまだ受け入れきれていなかった。
そして気づかないまま、私は迷走を始めていた。
優秀な部長としてではなく、
扱いづらい部長として。




