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屍桜(しざくら)〜サクラ散ル刻、命ハ咲ク  作者: ゆーきゃん
一章【桜の下の約束】

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4話【夢の中の記憶】

夢だと、すぐにわかった

けれど、逃げられない夢だった。

匂いがある

夜の湿った土の匂いと、血の匂い

あの夜の、全部がそこにあった


………やめろ


心のどこかでそう思っているのに、視界は勝手に動く

俺は、あの頃のままの小さな体で立っていた

隣には、妹の美桜がいる

まだ幼くて、俺の袖をぎゅっと掴んで離さない


「お兄ちゃん……」


震えた声だった


「大丈夫だ」


あの時の俺は、そう言った

根拠なんて、なかったのに

ただ、兄だったから

それだけで、言わなきゃいけなかった

目の前には、倒れた父と母

月明かりに照らされて、血が黒く光っていた

動かない

もう、動かない

それを理解した瞬間の感覚を、俺は今でも忘れられない

世界の音が、一度、全部消えた

風の音も、虫の声も、何もかも

ただ、美桜の震えだけが伝わってきた


「……お兄ちゃん」


小さな手が、さらに強くなる

痛いくらいに


「お母さん……起きないの?」


………答えられなかった


喉が、動かなかった

言葉にした瞬間、全部が本当になる気がして

でも、美桜は待っている

俺の言葉を

だから、俺は…………


「……もう」


声が震えた


「……もう、起きない」


言ってしまった

その瞬間、美桜の手の力が、すっと抜けた

代わりに、泣き声が溢れた


「やだ……やだよ……お母さん……お父さん……」


胸が、潰れるかと思った

俺だって、泣きたかった

叫びたかった

全部投げ出して、その場に崩れたかった

でも…………

俺が崩れたら、美桜はどうなる

その考えだけが、体を無理やり支えていた

視界の端に、男の姿がよぎる

血のついた刀

振り返りもせず、闇に消えていく背中

…………辻斬り

理解した瞬間、頭の中が真っ白になった

怒りも、恐怖も、何も浮かばなかった

ただ一つだけ

ここにいたら、死ぬ


「美桜」


しゃがんで、目線を合わせる

涙でぐしゃぐしゃの顔


「……行くぞ」

「どこに……?」

「……わからない」


本当のことだった

行く場所なんて、どこにもない

でも…………


「ここにはいられない」


それだけは、確かだった

美桜は、俺の顔を見ていた

不安で、怖くて、それでも何かを信じようとしている目

その視線から、逃げられなかった


「……お兄ちゃん」

「ん?」

「一緒に……いる?」


一瞬、言葉の意味がわからなかった

いや、わかっていた

でも、怖かった

この答えで、俺たちの全部が決まる気がして

それでも、逃げるわけにはいかなかった


「……ああ」


俺は、頷いた


「ずっと一緒だ」


その言葉を聞いた瞬間、美桜は泣きながら笑った

その顔を、俺は一生忘れない


「ほんと?」

「ほんとだ」

「約束?」

「約束だ」


小さな指が差し出される

震えている指

俺は、それをしっかり握った。


「絶対、守る」


その時の俺は、本気でそう思っていた

守れると、信じていた。

…………でも

未来の俺は、知っている

その約束が、どんな形で壊れるかを

それでも、この瞬間だけは…………

確かに、俺たちは生きようとしていた

血の匂いの中で

全部を失ったその場所で

それでも、前に進もうとしていた


「行こう、美桜」

「うん」


小さな手を引いて、歩き出す

後ろは、振り返らない

振り返ったら、もう進めなくなる気がした

夜の道を、ただひたすら歩く

行き先なんてない

それでも、二人ならどこかに辿り着けると信じていた

…………あの時は



目が覚めた

天井が見える

静かな朝

でも、胸の奥はまだ、あの夜のままだった

手を握る

もう、そこには誰もいない


「……約束、したのにな」


小さく呟く

誰にも届かない声

それでも…………

あの日の記憶は、消えない

俺が刀を握る理由も

全部、あの夜から始まっている

今回も読んで頂きありがとうございます♪

そういえば妹の名前を決めてなかったなと思い

美桜と言う名前にしました笑

次はどんな展開になるのかお楽しみに!


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小さな心に到底抱えきれない傷。蒼真の突きつけられた絶望に、ただただ胸を締め付けられます。
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