再会
翌朝、まだ夜の静寂が聖堂の隅に残る頃。
シェラは寝不足の目を擦りながら、聖堂で眠る騎士たちの間を縫うように歩いていた。
一人一人の脈を確かめ、熱が出ていないか、傷口の状態を確認していく。
その時、重厚な聖堂の扉が静かに開き、シェラは目線を向けた。見回りの騎士がやってきたのかと思ったのだ。
差し込んだ光を背負って現れたのは、凛冽な雰囲気を纏った濃い金の瞳が印象的な一人の男。彼がこちらに歩み寄るたび、聖堂の空気は氷の刃に撫でられたかのように、ぴんと張り詰めていく。
それは恐怖というより、侵しがたい神域に踏み込んだかのような、峻烈な威圧感だった。
「……あ」
シェラは動きを止めた。
そこに立っていたのは、あの日、森の泥濘の中で死にかけていた男――アルベルトだった。
「傷の具合は、どうですか」
シェラは咄嗟に「患者」への問いを口にした。
「……問題ない。うちの癒し手が癒した。お前の処置に驚いていた。」
アルベルトは低く、どこか愉悦を孕んだ声で答えた。
彼はそのまま、シェラの横を通り過ぎ、昨夜力及ばず息を引き取った騎士たちが安置されている祭壇の前へと歩み寄った。
誇り高き辺境の獅子は、静かに膝を突き、剣を杖代わりにして頭を垂れる。
(……仲間を弔いに来たのね…)
シェラはその背中を黙って見守った。
やがて祈りを終えたアルベルトが立ち上がり、出口へと向かう際、シェラの傍らで足を止めた。
「……シェラ。昨日の働き、礼を言う。お前がいなければ、今祭壇で眠っている者の数は倍以上だっただろう」
「……私は、自分にできることをしたまでです」
アルベルトはそれ以上何も言わず、翻って聖堂を後にした。
入れ替わるように、窓から眩いばかりの朝陽が差し込み、聖堂内の血生臭い空気を洗い流していく。
(あれ?私、あの騎士様に名前教えたっけ?)
完全な朝が訪れると、村が一気に騒がしくなった。
魔獣の元凶を仕留めるべく、騎士団長もとい、領主率いる本隊が村へ到着し、出陣の準備を整えていたからだ。
黒鉄の甲冑を陽光に輝かせ、軍馬に跨るその男――アルベルトの姿を見た瞬間、シェラは手に持っていた洗濯桶を落としそうになった。
(……え、あの騎士様 ……領主様だったの!?)
確かに高位そうな騎士様だと思っていたけどと呆然としていると、馬から降りたアルベルトが真っ直ぐにシェラの元へ歩み寄った。背後には、昨日シェラと共に戦ったユーリと妙齢の騎士が控えている。
「……シェラ。改めて礼を言う。お前のお陰で多くの騎士たちを失わずに済んだ。そして私も。」
アルベルトの不敵な笑みに、シェラは瞬時に「無知な子供」の仮面を被った。
「……何のことでしょうか、閣下。私はただの雑用係で……」
「無駄だ、シェラ」
後ろからユーリが苦笑混じりに口を挟んだ。
「昨日、君が鮮やかに指示を出し、止血を完遂した姿を私はこの目で見ている」
隣の妙齢の騎士にも、
「それに……君の親友のレラという子から、裏は取れている」
と言われたしまった。
(……レラ! 口止めするのを忘れてた……!)
私は自分のつめの甘さに悔いていると、アルベルトがさらに追い打ちをかける。
「朝、聖堂で私に傷はどうだと問うただろう」
(その時はあなたが領主様だって知らなかったのよ!)
シェラが内心で天を仰いだその時、エリオ司祭と上役の司教が、揉み手で割って入ってきた。
「閣下! このような薄汚い孤児がお目汚しを……! すぐに下がらせますので!」
「黙れ」
アルベルトの氷のような一言が、周囲の空気を凍らせた。
「昨日の惨状、報告は受けている。私欲に駆られ、救える騎士を放置して逃げ出した貴様らに、この娘を誹謗する資格などない」
アルベルトは後ろを振り向き、妙齢の騎士に告げる。
「ヴォルクス、この二人の『不手際』を記録しておけ。王都の神殿本部へも、俺の名で書簡を出す」
二人の顔が土色に染まる。アルベルトはシェラを一瞥し、短く告げた。
「元凶を叩き潰してくる。……逃げるなよ」
地響きと共に騎士団が駆け出していく。
その後ろ姿を見送りながら、シェラは深く溜息をついた。
騎士団が戻ってくるまで、レラや他の孤児たち、司祭からの追求をかわしながら残っている仕事を片づけ続けた。
サブタイトルはとても難しいですね
妙齢の騎士はヴォルクスでした
副団長って騎士団長置いて別行動するのかな…




