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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第1章

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秘密と交渉

森の魔獣は、アルベルトの剣によって討ち取られた。

凱旋した騎士たちの治療に奔走するシェラのもとへ、顔を真っ赤にしたエリオ司祭が怒鳴り込んできた。

「孤児の分際で、これ以上の越権行為は許さん!」と。

しかし、その言葉がシェラに届く前に、傷を癒された騎士たちが無言で立ち塞がった。鋼の壁に阻まれた司祭は、彼らの冷徹な視線に圧され、捨て台詞を残して逃げ去るしかなかった。


陽が傾き、野戦病院と化した聖堂がようやく落ち着きを取り戻した頃。

シェラは、アルベルトが仮設の執務室として使っている奥まった一室に呼び出された。

そこには、軍装を解いたアルベルトとヴォルクス、興味深げに眼鏡の奥の目を光らせるユーリが待っていた。


「……さて、聞かせてもらおうか。お前のその『異常な手際』の正体を」


アルベルトの眼差しを受け、シェラは小さく息を吐いた。

到底信じてもらえないだろう。だが、この男になら、真実を投げつける価値がある。


「……私は、7歳の洗礼式の日に、別の人生、前世とでも言いましょうか、そこでの記憶を思い出しました」


「別の人生、だと?」


3人の顔が驚きに包まれる。


「はい。そこには魔法も魔力もありません。代わりに、高度に発達した『科学』と『医療』がありました。私はそこで成人しており、人の体を切り開き、治す現場に立つ『看護師』という職についていました」


シェラは淡々と、しかし確かな口調で続けた。

科学、医療、そして看護師とは何かを。


「そして私の眼は、人体の構造…血管、神経、骨や筋肉の状態などを見ることができるようです。だからこそ、出血している部位など、異常な部分を特定しての治癒が可能なのです。…私自身、魔力は少し多い程度なので、多くの人を癒すにはこれが最善でした」


私の能力は魔法の才能ではなく、前世の知識とこの世界の魔力が結びついた「解剖学的視覚」であり、自分の治癒はすべて「理屈」に基づいていることも説明した。


「……荒唐無稽な話だな。だが」


アルベルトは自らの傷があった場所をなぞり、不敵に笑った。


「この『精密すぎる治療』が、何よりの証拠だ。ユーリ、お前はどう見る」


アルベルトはユーリに目を向ける。


「実に興味深い。私の『魔力視』は魔力の流れを追うものですが、彼女の瞳は構造そのものを捉えている。魔法学ではなく、医学……ですか。実に見事な体系だ」


拒絶はなかった。それどころか、アルベルトは椅子に深く腰掛け、シェラを射抜くように見つめた。


「シェラ。お前のその知識と腕、領のために振るって欲しい。辺境伯領の専属、ユーリの後任として」


「…ユーリ様の後任です…か」


突然の話に、私は驚いてユーリに顔を向ける。


「私もいい年ですし、…大丈夫、そんなにすぐ引退するわけではない。シェラが一人前になればの話だ」


そう穏やかな顔で話す。


それは、最底辺の孤児にとって破格の誘い。しかし、シェラは揺るがわけにはいかなかった。私は、アルベルトの目を見つめ、告げる。


「……条件があります。私がいなくなれば、この孤児院の子たちはあの司祭たちに使い潰され、死んでしまいます。だから、すぐには行けません」


その答えにヴォルクスとユーリは驚き、アルベルトは目を細める。

私はグッと息を飲み、アルベルトに交渉を持ちかけた。

1. 腐敗した司教と司祭を排除し、運営を適正化すること。

2. 開発した「石鹸」の製造を孤児院と村の公式な産業とし、その収益を子供たちの養育費と村のインフラに充てること。


「これらが安定し、子供たちが私なしでも安心して暮らせるようになるまで、猶予をください。……その代わり、準備期間中も閣下のお役に立てるよう、ご命令には従います」


 アルベルトは峻烈な沈黙を保っていたが、やがて呆れたように、しかし満足げに唇を歪めた。


「……領主相手に、未来の投資を要求するか。いいだろう、その条件を飲む。ただし、お前の代わりとなる『管理者』をこちらで選定する。……長い時間はやれぬ、我が領は人手不足なのでな」


「……承知いたしました。閣下」


(……最悪、悪魔憑きとして排除されるルートも覚悟していたのだけれど…あの人は、私の支離滅裂な『前世』の話を、まるで戦術報告を聞くかのように淡々と受け入れた。理解不能なものを拒絶せず、その有用性を見抜く。あの合理性こそが、今の私には何よりも温かな救いであり、何より尊敬に値する)


こうして、泥濘の中の孤児院は「衛生と産業の拠点」へと生まれ変わる第一歩を踏み出したのだ。


どう持っていくか悩みました。

アルベルトは患者から尊敬する領主にレベルアップしました。

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