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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第3章

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領主の対応

重苦しい静寂を破り、アルベルトが顔を上げた。その金色の瞳には、すでに動揺はなく、辺境伯としての冷徹な理性が戻っていた。


「王家にも絶大な影響力を持つヴァランシエール公爵家が、この状況をただ黙って見ているわけがない。あの公爵だ、水面下で必ず何かが動いているはずだ」



閣下の言葉に、ユーリとヴォルクスが深く頷く。

ヴァランシエール公爵家といえば、王国の頭脳であり、影の支配者とも噂される名門中の名門。娘を「悪役」に仕立て上げようとする王宮の暴走を、あの公爵が指をくわえて見ているはずがないのだ。


「我が辺境伯家としては、現段階で王都の政争に積極的に関わることは避けた方が無難だろう。公爵のことだ、こちらの手札が必要になれば、何かしらの手段で接触してくるはずだ。それまでは大々的に動くことは避ける」


「……御意。それが賢明かと」


ユーリが静かに同意の言葉を述べる。

アルベルトのその判断を耳にしながら、私は手元にあるエレオノーラの手紙をそっと指先でなぞった。


(確かに、今この状況でこちらが大々的に動けば、王家に対する『反逆の意思あり』と捉えられてもおかしくないわ……。今はエレオノーラ様の安全と状況を密かに確認しつつ、いざという時にいつでも手を差し伸べられるよう、こちらで力を蓄えておくのが最善ね)


一時の感情に任せて王都へ乗り込めば、それはただの無謀なスタンドプレーになり、結果的にエレオノーラをさらに窮地に追い込むことになりかねない。

ふと隣を見ると、ユーリもヴォルクスも、静かに闘志を秘めた目で閣下を見つめていた。きっと、二人も私と同じ結論に達しているのだろう。


前世の現代日本の感覚――「困っている女の子がいるなら、すぐにでも助けに行ってあげるべきだ」という物語のような綺麗事からすれば、この対応は少し冷たく、薄情に映るのかもしれない。

けれど、私は知っている。医療の現場でも、一人の患者の感情に引きずられて全体の治療方針を誤れば、救えるはずの命まで失うことになる。

数万の領民の命と生活を背負い、領地を守らなければならない「領主」として、アルベルトのこの冷徹なまでの大局観は、絶対に正しい。


「シェラ」


不意に、アルベルトが私の名を呼んだ。その低い声に、私はハッとして顔を上げる。


「エレオノーラ嬢には、返事を返して構わん。ただし、手紙がどこで検閲されるか分からんから、下手な内容は書かないように」


情報漏洩の防止はもちろん、今この混乱している王宮に、私という『イレギュラーな存在』が新たな火種として巻き込まれないように、というアルベルトなりの深い忠告なのだろう。


(それにしても、ユーリ様やヴォルクス様もそうだけど、アルベルト閣下にまでこんなに過保護に心配されるなんて……。中身はアラサーだけど、見た目が11歳だから、やっぱりまだまだ子供扱いなのかしらね。ちょっと過保護がすぎる気もするけれど)


まさか、その「過保護」の裏に、アルベルトが自分でもまだ自覚しきれていないような『一人の女の子としての執着や庇護欲』が隠されているとは、私は一ミリも気づいていなかった。


遅くなりました。


よろしければ、お手隙の際にリアクションや評価をぽちっとよろしくお願いいたします。

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