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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第3章

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古の魔道具

その日から私は、魔道具を介して、アルベルトの魔力を受け取る練習をすることになった。

魔力供給によってどんな問題が発生するかわからない為、本番前に段階的な負荷テストを行うことにした。


アルベルトから受け取った魔道具は私の右の二の腕についている。元々大人用のブレスレットだった為、手首につけると落ちてしまう。色々試した末に、二の腕が1番落ちてくる心配がなかったのだ。


(それにしても、この国ではお揃いの装飾品をつけることは、婚姻や婚約関係であることを示すのよね……。閣下とお揃いのものをつけているなんて、治療のためとはいえ、なんだか申し訳ないわ)


アルベルト閣下の婚姻事情に関しては何も知らないけれど、仕事もでき、若く、これほど男前なのだ、婚約者の一人や二人くらいはいるだろう。たぶん。

こんな十一歳の子供と変な噂を立てられたら、それこそ閣下が可哀想だ。そんな世間体を心配しつつ、私は今日も、日中の仕事が終わった夜の執務室へと向かっていく。


臨床実験と同じで、試してみて初めて浮かび上がってくる問題が、いくつかあった。

まず、一番最初の障壁となったのが、アルベルト閣下の圧倒的な『魔力量の多さ』だ。

アルベルトが自身の付けている魔道具ブレスレットに魔力を流す。様子を見て、少ない量から始めてもらったはずだった。しかしらアルベルトに比べ細い私の魔法回路にとってそれは、優しく流れ込む小川などではなくダムが決壊したかのような凄まじい『激流』を受け止めることに他ならなかったのだ。

案の定、初めての供給の直後、私は激しい目眩めまいと吐き気に襲われ、その場に崩れ落ちるような強烈な『魔力酔い』を起こしてしまった。

幸い、緊急時のために待機していたユーリが癒しをかけてくれ、少し休めば体調は復活する。けれど、私の身体がこの重厚な魔力に馴染み、慣らすまでには、少し時間が必要だった。

だが、それ以上に深刻な問題だったのが、魔力供給後に現れた『身体への代償』だった。


「……シェラ。鏡を見てごらん」


特訓を始めて数日目の夜、癒しをかけてくれていたユーリが、少し緊張した面持ちで手鏡を差し出してきた。何事かと思い、鏡を覗き込んだ私は、思わず目を丸くした。


「私の、目が……?」


鏡に映る私の両の瞳。その澄んだ青色の中に、まるで夜空に散る火花のように、鮮やかな『()』が混じり合っていたのだ。

アルベルトの魔力を体内に受け取ると、その魔力特性が私の身体に強く干渉し、瞳の色まで変色させてしまうことが判明した。

どうしようかと頭を抱えたけれど、幸いなことに、一晩寝て翌朝起きると、瞳に混じった金はきれいに消えていた。どうやら体内での代謝と同じで、時間経過によって解消される性質のもののようだ。


さらに、問題は可視化できる部分だけではなかった。


「え、……!?」


翌日、救護所でいつも通りに騎士や領民の癒しを行っていた時のことだ。

傷口に手を翳した瞬間、私の意志に反して、いつも以上の猛烈な魔力がドバッと患部へ流れ込んでしまったのだ。

受け取ったアルベルトの魔力が私の中に『過剰分』としてストックされている状態のため、私自身の魔力が枯渇して倒れるような危険はない。だが、出力の最低値のコントロールが、著しく効きにくくなっている。

どうやら、一気に大量の高濃度な魔力を受け取ったことにより、私の幼い体内の魔力回路が強制的に『拡張』されてしまったのだ。


前世の医療で例えるなら、心臓のポンプ機能が急激に肥大し、血管を流れる血液の『循環量』が爆大してしまったような状態。

それに伴って、体外へ漏れ出す魔力の『放出量』も格段に増大してしまっていた。

つまり、完全に魔力のコントロール不良を起こしている。


(魔力回路の急激な拡張による、オーバーフロー……。循環量が増えたのは治癒術の底上げにはプラスだけど、出力の制御コントロールが追いついていないわ。本番までに、使いこなせるようにしないと)


夜、ベッドの上で、金色が混じる自分の瞳をそっと手で覆いながら、深いため息をついた。


色々な問題が発生していますね。



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