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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第3章

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共鳴

目の前に迫っていた魔獣は、アルベルト閣下の凄まじい一撃によって物言わぬ肉塊へと変わっていた。


「シェラ!! 無事だな!? ……!?なんだ、これは……」


閣下の息遣いが耳元で響く。私は彼の逞しい片腕に抱き締められたまま、真っ赤な塊にも目もくれず、呆然と周囲を見渡した。


(なにこれ…透過図だけじゃない…)


私の視界は先ほどまでとは決定的に異なっていた。

今まで見えていた骨格や臓器、神経の走行に重ねるようにして、血管よりも細く、けれど奔流のような光の筋が世界を埋め尽くしている。それは大地の奥底から、そして目の前の閣下の体からも、心臓の鼓動に合わせて波打っていた。


「これは……魔力の、回路……?」


思わず溢れた呟きに、私を見下ろしたアルベルトの瞳が、困惑と驚愕に揺れる。


「……とりあえず詳しいことは後だ。シェラ、魔力の流れが見えるんだな……?」


「はい。……ハッキリと、流体として見えます」


私の返答に、アルベルトは一瞬だけ口角を上げた。それは、絶望的な状況下で唯一の勝機を見出した勝負師の顔だった。


「わかった。シェラ、後方を確認して騎士に指示を出せ。前方と左右は私がやる!」


「――了解です!」


私はアルベルトの腕から離れ、地を蹴った。

もはや迷いはない。見えるのなら、それを最大限に利用するだけだ。


「後方、右斜め! 木の影に潜んでいる三体の魔力反応、今、飛び出します!」


「左後方から接近中! 速度が速い、迎撃準備!」


私の指示は、緊急時に指示を出すリーダーのように、無駄なく鋭く戦場に響き渡った。

魔獣の持つ魔力の流れを確認できる私の指揮により、騎士たちの動きは見違えるほど軽やかになっていく。


「討伐完了!」


「こっちも片付いたぞ!」


阿吽の呼吸で魔獣を屠り、ついにその場の静寂が戻った。


「……後方に、魔獣の反応は確認できません」


「こちらも確認できない。……ひとまず、落ち着いたようだな」


アルベルト閣下が剣を鞘に収める音を合図に、騎士たちが一斉に安堵の息を吐き出した。

私たちは少し後方に下がり、一時的な安全圏で状況を整理することにした。澱んだ森の中で、私の目には、まだ鮮やかな魔力の残光が焼き付いていた。


安全圏まで退いた私たちは、アルベルトの指示で交代で休息を取ることになった。騎士たちが緊張の糸をわずかに緩める中、私とアルベルトは執務を行う天幕で、先ほどの現象について確認し合う。


「……先ほどの現象。シェラ、お前には魔力の流れが見えていたんだな?」


閣下は重い鎧を鳴らし、腕を組んで問いかけてきた。その瞳には、未知の事態に対する深い知的好奇心が宿っている。


「そうです。……普段、私が見ることのできる人体の透過図に重なるようにして、血管や神経に沿う光の筋が見えました。あれは……閣下が魔眼で見ている、魔力回路そのものですね」


私の言葉に、閣下はわずかに目を見開いた。


「やはりか。……実を言えば、私もだ。あの瞬間、お前の体に触れた時、私には周囲の騎士や魔獣の『人体』が透けて見えた。骨格や臓器の位置が、まるで図面のように頭に流れ込んできたのだ。おそらく、お前がいつも見ている景色だろう」


天幕の中に、重い無言が広がった。

看護師として、そしてこの世界の癒し手として、私は思考を巡らせる。


「……閣下の魔眼は、かつて私の魔力と深く融合し、再構築されたものです。元を辿れば、閣下の瞳に宿っているのは私の魔力の一部。……魔力を魔眼に巡らせている戦闘状態で、私たちが接触したことにより、魔力の波長が完全に同期して『感覚共有』が起きた……と考えるのが妥当かもしれません」


私の仮説を聞き、アルベルト閣下は難しい顔をしながら「可能性は高いな」と低く呟いた。


「検証をしてみなければ分からないが、互いが魔眼を発現し、接触している時は確実に起こるだろう…とりあえず、今回の事は外に漏れないように箝口令をしく。森の調査でどのくらい使えるのか試して見るぞ」


アルベルトの言葉に私は頷いた。


アルベルトとシェラの接触により、感覚を共有出来る(視界)ことに気づきました。

アルベルトの目はシェラの魔力の塊ですからね。


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