伸びた背丈
激動の魔獣討伐が終わり、辺境の長く厳しい冬が明けた頃、私は11歳になっていた。
私の活動は多岐にわたり、忙しい日々を過ごしていた。聖女(?)としての癒し、石鹸の普及拡大と種類の増加。そして、廃兵となった元騎士たちの「リハビリテーション」に着手しようとしていた。
魔法で傷を塞ぐだけでは戻らない、筋肉の躍動と生きる希望を取り戻すための挑戦だ。
「……リハビリ、テーション、か?」
アルベルト執務室。集まったユーリ、ヴォルクス、そしてアルベルトが聞き慣れない言葉に眉をひそめた。私は現代の看護知識を噛み砕き、機能回復のための訓練の重要性を説明する。
「シェラ……やはり、君の『知識』をもってしても、彼らの体は完全には治らないのか?」
ユーリが沈痛な面持ちで問う。私は静かに首を振った。
「確認してみないとわからないですが、治せるものもあります。ですが、手技としては可能でも私にはできないことがあります。……一度、彼らの体を開き、癒着して固まった部分を取り除いてから治癒魔法をかければ、元通りに動くようになるはずです。でも、私には、その『体を開く』という行為が許されていません」
「体を開く」という言葉に、三人が息を呑んだのが分かった。この国では宗教的に、体を切り開くということは禁忌とされている。場合によっては悪魔崇拝と言われてもおかしくない。
「……分かった。そこまでは求めん。教会の教えに背いてまで、お前に泥を被らせるわけにはいかないからな」
閣下が重々しく頷き、ヴォルクスとユーリも同意するように目を伏せた。
「はい。ですから、今の私にできるのは、時間をかけて固まった部分をほぐし、動かし方を再教育することだけです。長い時間がかかりますし、何より本人たちの気力が必要です。どうか、長い目で見守ってください」
私の切実な願いに、三人は「もちろんだ」と力強く答えてくれた。
会議が一段落し、お茶を淹れ直そうとした時、ヴォルクスがニヤリと笑って私をまじまじと見つめた。
「ところでシェラ、お前、また一段と大きくなったんじゃないか?」
「えっ、本当ですか?」
私が驚いて顔を上げると、閣下も椅子から立ち上がり、私の前に立った。
「……シェラ。そこに直立してみろ」
「閣下まで……。はい」
言われるがまま背筋を伸ばすと、閣下は大きな掌を私の頭の上にそっと置き、そのまま自分の胸元へと水平に滑らせた。
「伸びたな。ここに来た頃は俺の腰より少し上だったのが、今はもう、私の心臓に近い高さだ」
「本当ですね。以前はもっと見上げていた気がします。栄養ある食事のおかげですね!」
私が無邪気に微笑むとユーリも目を細めて微笑んだ。
「仕立て直した白衣の裾も、もう短くなってきているし、健やかに成長してるようで、よかった」
「もう、立派なレディだな?」
ヴォルクスが豪快に笑いながら私の頭を乱暴に撫でる。
「そんなレディの頭を乱暴にしないでください!」
賑やかなやり取りの中、閣下だけはなぜか名残惜しそうに私の頭から手を離し、少しだけ複雑そうに眉を寄せた。
「……あまり急いで成長するな。…今、他のところに取られたら困る」
その瞳には、成長を喜ぶ保護者としての慈しみと、どこか遠くへ行ってしまいそうな「変化」を恐れるような、無意識の独占欲が混じっているように見えた。
「そうですね、シェラはここににいてもらわないと」
とユーリはアルベルトに同意する。
「大丈夫ですよ。まだまだやることがあるのでどこにも行きません」
私は冷めたお茶を飲みながら答えると、三人は顔を見合わせ、それから少しだけ困ったように笑った。
3章の始まりです。
シェラはリハビリを始めます。そしてシェラはご飯のおかげでどんどん成長して行きますね。
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