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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第2章

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33/64

目覚め

目が覚めると、視界に飛び込んできたのは見覚えのない豪華な天蓋と、高い天井だった。

救護所の簡素な幕舎とは違う、柔らかなリネンの香りに戸惑いながら体を起こすと、絶妙なタイミングで一人のメイドが入ってきた。

彼女は私と目が合うと、心から安堵したように穏やかに微笑む。


「シェラ様、お目覚めになられて本当によかったです。今、皆様をお呼びしてまいりますね!」


「え、待って……」


呼び止める間もなく、彼女は弾むような足取りで部屋を出ていった。


一人残された私は、重い頭を振って記憶を整理する。凍てつく戦場、アルベルト閣下の失われた右腕、そして潰れてしまった左目。最後は……。


(あれから、どのくらい経ったの? 閣下の容体は? それに……左目は!)


確認しなければ

そう焦ってベッドの縁に腰をかけたとき、規則正しいノックの音が響いた。

私は乱れた髪を無意識に整え、震える声で返事をする。


「……お入りください」


開かれたドアから入ってきたのは、ユーリ、ヴォルクス。そして、その中央に立つのは、まぎれもないアルベルトだ。

しっかりと自らの足で歩き、右腕も肩のラインから自然に繋がっている。その姿に安堵の溜息が漏れた――彼の顔を見た瞬間、私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

閣下の左目には、黒い眼帯が当てられている。


(……ダメだった。私では、視力を戻せなかったんだ)


前世の知識を総動員して、あれほど執念深く癒しをかけたのに。結局、医師でもない私が「治せる」と思ったこと自体、傲慢だったのだ。


「……っ」


一度溢れた涙は、止まらなかった。


取り返しのつかないことをしてしまったという絶望感が、ハラハラと頬を伝う。

入ってきた三人は、私のあまりの号泣ぶりに驚愕して立ち尽くす、私はいたたまれず、両手で顔を覆って俯く。

すると突然、顔を覆っていた私の両手が、大きな手に包み込まれた。

驚いて顔を上げると、そこには至近距離で私を覗き込むアルベルトの姿。

「なぜ泣く、シェラ。……俺が生きていることが、それほど嬉しくないのか?」

「そ、れは……嬉しいです。生きていてくださって、本当によかったです……っ。でも、目を、癒しきれなかった。私の力不足で……!」

しゃくり上げながら答えると、閣下はふっと表情を和らげ、眼帯の上から自身の左目に触れた。


「シェラ、勘違いするな。左目は完全に戻りきってはいないが……見えないわけではない」


「え……?」


私は涙を拭うのも忘れて、目を見開いた。


「では、なぜ眼帯を……?」


問いかけると、閣下は背後に立つヴォルクス様とユーリ様を見やり、三人で困ったように視線を交わして苦笑しました。


「……左目を、あまり人に見せられる状態ではなくてな」


閣下は言いにくそうに視線をそらす。私がわけが分からず首を傾げると、ヴォルクス様もユーリ様も、苦笑いを浮かべたまま肩をすくめる。


「……とにかく、お前はまだ安静が必要だ」


閣下に促されるまま、私は再びベッドの中に入れられ、背中にクッションを当ててもらって、ようやく落ち着いて話を聞く姿勢になった。


「さて、どこから説明したものか……」


閣下は私の枕元の椅子に腰を下ろし、ゆっくりと話し始めた。



「1週間…」


私の言葉に、ヴォルクスが深く頷いた。


「ああ。君が倒れてから丸七日だ。……正直、魔力回路が焼き切れて二度と目を覚まさないんじゃないかと、肝が冷えたぞ」


「……そんなに。私、そんなに眠って……」


自分の手を見ると、以前より少し痩せたような気がした。それほどまでに、あの処置は私のすべてを削り取っていたのだ。

私が眠りこけているうちに、事後処理も終わり、負傷していた騎士たちも通常業務に戻っているらしい。


「だが、その1週間のおかげで、閣下の腕の状態も確認できた。……君が眠っている間、閣下は毎日ここへ来ていたんだ。仕事もそこそこに」


ユーリの言葉に、私は隣に座るアルベルト閣下を盗み見た。彼は少し決まり悪そうに視線を逸らした。





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