救護所での癒し
優先順位:赤 最優先(重症) 黄色 中等度(少し待てる) 緑 軽傷(自分で歩ける)
「ハインリヒさん、鎧を外して! 迷わないで、革ベルトは切っていいわ!」
私の鋭い指示に、ハインリヒさんが素早くナイフを動かす。露出した腹部には、魔獣の鋭い爪で引き裂かれた生々しい傷跡。
「布を! !」
私は清潔な布を傷口に押し当てた。しかし、代えの布を重ねても重ねても、白い布は一瞬で毒々しい赤に染まり、私の指の間から温かい血が溢れ出していく。
(……この出血スピード、ただの裂傷じゃない)
私は覚悟を決め、圧迫していた手をわずかに緩めて傷口を覗き込む。
損傷部位を視る。腹部大動脈への致命的な損傷は免れているが、脾臓と肝臓が深く切り裂かれているのが見えました。
(原因はこれね。実質的な内臓破裂による大量出血……!)
「私が処置します。皆はそのまま固定を!」
私は全神経を指先に集中させる。細く、鋭く練り上げた魔力を、傷ついた血管の一つひとつに直接流し込むイメージ。
「……ーー!」
私の指先から放たれた魔力が損傷した血管を捉えると、あれほど激しかった溢血が、目に見えて緩まった。
「よし……」
そのまま休む間もなく、損傷した臓器を修復に取り掛かった。細胞の一つひとつが私の魔力を吸い取り、本来の形を取り戻していく。
死の淵を彷徨うような土色をしていた騎士の顔に、微かに生気が戻り、荒かった呼吸が少しずつ安定したリズムを刻み始めました。
「……ふぅ。もう大丈夫よ。本当によく頑張ったわね」
私は額の汗を拭い、騎士に、優しく、けれど力強く声をかけた。
仕上げに皮膚の傷を塞ごうとしたその時、森の奥から鎧の擦れる音と複数の足音が聞こえてきた。
顔を上げると、そこには何人もの騎士が仲間に担がれ、次々と運び込まれてくる。
「おい、しっかりしろ!」
「こっちだ、早く!」
一気に膨れ上がった負傷者の数と、漂い始めた濃密な血の匂いに、救護所内は一瞬で騒然となる。
「ユーリ様! すみません、この方の皮膚の閉鎖をお願いします!」
「分かった、任せてくれ!」
私は処置を終えたばかりの騎士をユーリ様に託すと、すぐに立ち上がり運んできた騎士たちに鋭い声をかけ、傷口を素早く視ていく。
「この人は黄、この人は赤自分で歩ける人は緑のエリアへ!」
突然の大量搬送に、ハインリヒやルシアン、そして周囲の騎士たちも混乱し、浮き足立っていた。その様子に、私は腹の底から声を張り上げる。
「落ち着きなさい! 今、自分にできることをやるの!」
静まり返った森に、少女とは思えないほど硬く鋭い声が響き渡る。その気圧されるような迫力に、場がしんと静まり返った。
「は、はい!!」
ハインリヒとルシアが弾かれたように返事し、動き出した。
「ルシアンさんは補助の騎士に緑の応急処置を任せて! ハインリヒさんと一緒に黄の癒しに回ってちょうだい!」
的確な指示を飛ばしながら、私は最も重篤な「赤」の患者の元へ飛び込んだ。
(右大腿からの活動性出血に骨折、腹部の出血多量、意識レベルは……)
状態を観察しながら傷口を視る。
(まずい。腹部大動脈を掠めてるわ……。下肢の止血と同時に癒さないと、血圧を維持できない!)
「お呼びかな?」
背後から、先ほどの騎士の処置を終えたユーリ様が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます! ユーリ様、腹部と下肢の癒しを同時に行います。私が腹部を塞ぎますので、ユーリ様は下肢の止血をお願いします。骨折は後回しで構いません!」
端的に――まるで執刀医が助手に指示を出すように説明し、二人で同時に魔力を流し込んだ。
指先に全神経を集中させ、傷ついた腹部大動脈を一本の糸で縫い合わせるように癒していく。ユーリ様の膨大な魔力が下肢に流れ込み、二つの部位からの出血がピタリと止まった。
傷を癒やし終えた頃には、あれほど混乱していた周囲も落ち着きを取り戻していた。
「……流石はユーリ様ですね。骨折まで完璧です」
「いやいや。シェラの描いてくれた『解剖図』を頭に叩き込んだ甲斐があった。構造のイメージがしやすくて、今までになく効率的に癒せた気がする」
ユーリ様が額の汗を拭いながら、どこか清々しい顔で笑いました。
その言葉に、私もふっと肩の力を抜いて笑い返します。
「良かったです」
私たちのやり取りを、周囲の騎士やハインリヒ達が呆然と、あるいは崇めるような目で見つめていることには、その時の私は全く気づかなかった。
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