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うん、そういえばここ学び舎だったよね

 仕事が終わると、俺はいつものメンバーである桐葉、美稲、詩冴、舞恋、麻弥、真理愛に茉美を加えた8人で、俺の部屋に集まった。


 これも、俺の特訓のためだ。


 何故、俺の特訓でみんなが集まるのかと言えば……。


「じゃあハニー、ボクらはお料理しているから、ハニーはお魚の解体よろしくね」

「おう」


 腕まくりをしてエプロンを身に付ける桐葉たちに、俺は軽く気合いを込めて返事をした。


 そう、俺の特訓、それは生の魚の内臓や骨、ウロコをテレポートで取り除くことだ。これができれば、患者のがん細胞や腫瘍だけをテレポートで取り除くこともできるだろう。


 けど、やはりと言うか、なかなかうまくいかない。


 魚の内臓だけをテレポートしようとしても、テレポートが発動しないか、魚がまるごとワープしてしまう。


 その様子を見かねた茉美が、困った声を漏らした。


「なんかうまくいってないわねぇ。アポートの訓練は一晩で終わったって聞いたけど?」

「あー、あの時はキリハちゃんのパンツだけをアポートする特訓したんすよ。そしたらもう一発でキリハちゃんの服の中身だけをアポートしちゃって眼福でした」

「うわぁ……引くぅ……じゃあ何、桐葉のおっぱいだけアポートしようとすれば一発で成功するわけ?」

「グロいこと言うな!」


 俺は両手で空手チョップポーズを取った。


「え~、だってあんたおっぱい大好きおっぱい星人なんでしょ?」

「信じるな! 詩冴の言葉は九割の嘘と一割の悪意で出来ていると思え!」

「ハニーちゃん酷いっす!」

「つうかおっぱいは体がないとただの肉塊だろ。桐葉のおっぱいは桐葉がいないと価値はない、いや」


 自分の失言に気づいて視線を逸らすと、桐葉がエプロン越しに自分の豊乳を抱きしめて、にんまりと笑っていた。


「えへへぇ、ハニーのえっち♪」

「ッッ~~」


 穴があったら入りたいどころか、自ら穴を掘りたいくらい恥ずかしかった。


 女性陣に背を向けてうつむいて、話題が逸れるのを待つ。


「見て見て、ああやって話題を逸れるの待っているよ。ね、ハニーって可愛いでしょ?」

「桐葉、あまりハニーくんをいじめたら可哀そうだよ」

「そうだよ桐葉さん、ハニー君はスケベだけどナイーブなんだから」

「そうです。ハニーさんはおっぱい大好きおっぱい国民ですが同時に紳士でもあるおっぱい紳士です」

「そうっすよ。未だにキリハちゃんのナイスバディに手を出せないヘタレのハニーちゃんをいじめたらダメっすよ。みんなで大事に保護するっす」


 ――お前らの辞書に優しいという単語はないのか!?


 そこへ、麻弥が愛らしい足でとことことペンギンのように歩いてきて、服の裾を強めに引っ張ってきた。


 どうやら頭を下げて欲しいらしい。


「いじめられてかわいそうなのです。いいこいいこ」


 麻弥の小さな手が、モチモチと俺の頭を揉みこむようになでてきた。


 涙腺が熱くなり、視界が歪んだ。


 ――麻弥の尊みが日に日に強くなっていく……。


 心の中で、麻弥の両親に感謝した。


「ちょっと待って。育雄、あんたってアポートでいつでも任意のものをワープさせられるのよね?」


 突然の茉美の問いかけに、俺は顔を上げた。


「そうだけど?」

「ていうことはなに? あたしらのブラもパンツもいつでもあんたに盗まれるし意思ひとつで全裸であんたの前に引っ張りだされちゃうってこと!? そう考えるとハズイんだけど!」

「そうっすよ! ハニーちゃんは日本中の全女子の貞操をその手に握っているんすよ羨ましい!」

「お前は黙れ!」

「なら成功したらキリハちゃんがチューしてくれるとかどうっすか?」

「そんなんで成功したくないわ!」

「え? ハニーボクとキスしたくないの?」

「へ?」


 桐葉は、らしくない、真面目な顔で、ジッと俺のことを見つめてくる。


 ――やめろ、そんな不安げな顔をするな。なんか、悪いことをしているみたいじゃないか。


「そうじゃ、なくて、ファーストキスがご褒美ってのがなんかやだってだけだから……」


 俺の言葉で、桐葉の表情がぱっと華やいだ。


 そして女性陣が肩を落とした。


「何? 育雄の奴キスもしてなかったの?」

「ハニーちゃんのヘタレっぷりはギネスレベルっすよ」

「桐葉さんぐらい積極的じゃないとハニー君の恋人は務まらないよね」

「ヘタレじゃねーし! ただしおっぱい国民でもないからな!」

「じゃあハニー、魚の内臓のアポートに成功したらおっぱいさわらせてあげるって言っても成功しないの?」


 先月目にした、桐葉の裸を思い出して、息が止まった。


「ッ、するわけないだろ!」

「成功したのです?」


 麻弥の声に視線を落とすと、まな板の上には、無傷の魚と内臓が、綺麗に並んでいた。


 詩冴の手が、ぽんと肩の上に置かれた。


 俺は、その場で四つん這いになった。


   ◆


 土日の二日間、俺は猛特訓に励んだ。


 結果、内臓のテレポートは百発百中になった。


 日曜日の夜には、がん患者の協力を得て、麻酔をした患者の体内からがん細胞だけを取り除き、同時に茉美が患部をヒーリングすることに成功した。


 今日からは、俺も医療班として毎日100人のがん患者や、ウィルス、汚染物質中毒者の治療に当たり、実績を積むことになっている。




 そして5月14日、月曜日の朝。


 俺は、自分の席で椅子の背もたれに大きく体重を預けた。


「いくら小学生レベルでも、流石に量がキツかったな」


 仕事を全て終わらせ、テレポートの練習をしながらの宿題作業だったので、全てを終わらせて先生に送信したのは、昨日の夜11時だった。


「解くのは簡単だけど時間がかかるからね」


 美稲が同意の苦笑を返してくれると、教室のドアが開いて、担任の先生が入室してきた。


 俺の周りに集まっていた美稲、詩冴、舞恋、麻弥、真理愛、茉美は、すぐ近くの席に座った。


 ――なんだか、いい空気だな。


 今までずっと、ボッチだった俺にとって、周りはみんな友達だらけ、というのは初めてだった。


 今日から、明るく楽しい学園生活が始まるのだと思うと、気分がよかった。


「皆さんおはようございます。さっそくですが、皆さんに報告があります」


 眼鏡の位置をきりっと修正して、先生は告げた。


「予想通り、宿題をサボった人がいます。内容は小学生レベルで簡単に解けるのにです。そのため、予定通り、成績に応じてクラス分けをすることになりました」


 ――クラス分け?


 嫌な予感に、俺は背筋が伸びた。


「来月、クラス分け試験を行います。そこで、成績順にクラス替えを行います」


 自分の耳を疑った。


 ――え、いや、ちょっ、桐葉は全学試一位だし、美稲も成績優秀だし、上位クラスは確実だ。


 額に嫌な汗をたくさんかいて、指先がしびれて、足が震えた。


「あの、みんな全学試験の順位いくつ?」


 桐葉、美稲、詩冴、舞恋、麻弥、真理愛、茉美は振り返り言った。


「1位だよ」

「808位かな」

「6716位っす」

「5万8891位……」

「1万8020位なのです」

「5998位です」

「3万飛んで6位よ。文句ある?」


 ――んなっ!?


 ちなみに、俺は30万人中の14万9881位の、超ど真ん中だ。


 ――まさか、みんなとここまで学力に差があるとは思わなかった。


 桐葉たちが全員上位クラスで、俺だけが中位クラスに振り分けられるボッチの未来を予感して、俺の意識は奈落の底へと落ちて行った。


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 本作を読んでくれてありがとうございます。

 本作はカクヨムにも投稿しています。

 また、今月、書籍版第1巻がスニーカー文庫から発売しました。

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