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綺麗なエロ

「じゃあボクのローヤルゼリーは?」


 俺の隣に座る桐葉がきょとんと口を挟むと、早百合部長は不安げな顔をした。


「いけるのか?」

「頑張れば、1日2トン分はいけるよ。グラム1ドルで売れば1日20億円、年間7300億円稼げる。全然足りないけど、足しにしてよ」

「ありがとう、非常に助かる」

「シサエの鹿肉は輸出できないっすか?」

「国内消費分の肉を賄えなくなるし、鹿はアメリカにも多く生息している」

「うぅ、残念っす」


 そこで、提案の流れは止まった。


 誰もが口を閉ざし、頭を悩ませ、困っていた。


 そんな中、静寂を破るようにして、意外な人物が立ち上がった。


「あたしら医療班が海外で高額治療とかってできないんですか? 健康に不安のある大富豪なんていくらでもいますよね?」


 そう言ったのは、長い茶髪を頭の右側でサイドテールにまとめた、気の強そうな女子だった。


 三又茉美みつまたまつみ

 毎日俺が送り迎えしている医療班の中でも、トップクラスのヒーリングの使い手だ。


 彼女が触れれば、どんなケガでも、ものの数秒で完治してしまう。


「残念だが、ヒーラーそのものはアメリカにもいる。貴君らだけができる独占治療というものはないのだ」


 現状、ヒーリングとは傷ついた細胞を癒す能力でしかない。そのため、ガンや腫瘍、ウィルス性の病気は治せないし、ケガの後遺症は治せない。


 億単位の金と引き換えに治療を受ける人はいないだろう。


 けれど、茉美の目元が、挑戦的に吊り上がった。


「……なら、あたしがもっと鍛えて、なくなった手足を生やしたり、不随になった機能を取り戻したり、ケガで崩れた顔を治せるようになったら?」

「それなら可能性はあるな。現状、米国のヒーラーたちも、ただ傷口を塞ぐだけだ」

「ぃよしっ! なら今日からガンガン行くわよ!」


 気風よくガッツポーズを取りながら、茉美は講堂の階段から降りてきた。


「育雄、さっさとあたしを病院にテレポートさせなさい。ゴリっと経験値稼いでレベルアップして帰って来るわ!」

「なんでお前が言うと物騒に聞こえるかな」


 俺は眉根を寄せながら、呆れた。


「じゃあテレポートさせるから、他の医療班の能力者も前に来てくれ」


 実際、もう出勤時間を少し過ぎている。


 俺の呼びかけに、階段席上部に腰を下ろしていた医療班、ヒーリングの使い手たちが立ち上がった。


「ていうか、育雄のアポートが人体に使えれば良かったんだけどね」

「ん? どういう意味だ?」


 茉美はノリよく笑った。


「何ってそのままよ。あんたのアポートで体内のウィルスとか汚染物質とかがん細胞だけを体外にワープさせられれば楽じゃん? 大富豪の大半は高齢者だしがん患者って高齢者が多いんでしょ? 続けてあたしがヒーリングすれば切断面の心配もないし。汚染物質の中毒治療も、国とか企業が大金出してくれそうじゃない?」

「あのなぁ……それができたら……俺はいつでも他人の心臓を抜き取れることになるんだが?」


 さらりと恐ろしいことを口走る茉美に、俺はへの字口を作った。

 美稲も、ため息をついた。


「ハニー君のチートぶりにもターボがかかっちゃうね」

「でも特訓する価値はあるんじゃない? だって本当にできたらハニーの力で世界中のがん患者が救えるし、テレポートなら取り残しがないから転移や再発の心配もないでしょ?」


 茉美の尻馬に乗る桐葉を、俺は全力で否定した。


「いやいやいや、ていうかそんなことできていいのか? 俺がそんなことできたら、今後、俺がお前と痴話喧嘩して一時の感情で『桐葉なんて死んじまえ』って感じで心臓取るかもしれないんだぞ?」


「いやいや、ハニーはそんなことしないでしょ。だってボクが死んだらもうボクのおっぱい揉めないんだから」

「おい待て、あたかも揉んだことがあるかのような口ぶりはやめろ!」

「えぇえええええええええ!? ハニーちゃんまだ揉んでないんすか!?」

詩冴が素っ頓狂な声を上げた。

「馬鹿な……奥井ハニー育雄……貴君は正気か……やはり激務で男性機能に支障が……」

「なんで俺が悪いみたいになってんだよ!? ていうか桐葉、お前はおっぱい目当てでいいのか!?」

「いいよ」


 即答に、講堂が静寂に包まれた。

 男女問わず、ぽかんと口を開けて固まっている。


「だっておっぱいもボクの一部だもん。顔も体も性格も超能力も、全部の要素が合わさってボクなんだから。ボクのおっぱいが好きなら、それはボクが好きってことでしょ? 女子の眼鏡の似合う男子が好きとかと同じだよ」


 顔のすぐ横でピースサインをしながら、桐葉は可愛く笑った。


 その綺麗なエロさに、俺は何も言えなくなった。


 もちろん、桐葉も本当に体目当てでいいなんて思っていないだろう。あくまでも、俺が桐葉のことが好きなのを前提にした話だ。


 それでも、女の子のほうからこんなことを言われたら、勝てるわけがない。


 きっと、俺は生涯、桐葉と喧嘩なんてしないだろう。


 そう予感している間、講堂中の男子は物欲しそうな顔で俺に注目してきた。


 ――やめろ。そんな目をしたって桐葉はあげないからな。


「わかった。でもその前に、俺のテレポートで可能か調べないと、徒労に終わる。舞恋、俺のことをサイコメトリーしてくれ。何かの一部だけを切断するようにテレポートさせられるのか知りたい」


 近くに座っている舞恋に手を差し出すと、講堂内にどよめきが走った。


 やっぱり、自らサイコメトリーされるのは珍しいらしい。


 俺だって、他人にサイコメトリーされるなんてまっぴらだ。


 けど、舞恋がいい奴なのは知っている。


 だからこそ、俺は毎日彼女にサイコメトリーしてもらい、テレポートを悪用していない証明をしている。


 俺が凄いのではなく、サイコメトリーされても良いと相手に思わせる、舞恋が凄いのだ。


「じゃ、じゃあ、おじゃましまぁす」


 何故か、舞恋はサイコメトリーのたびにこのセリフを言う。


 心にお邪魔します的な意味だろうか?


「……うん、物体の一部だけをテレポートするのは、できるみたいだよ」


 俺の手を、ぎゅっと握りながら、舞恋は頷いた。


「ありがとな。じゃあ早百合部長、今日からちょっと特訓するんで、部分的なテレポートができるようになったら報告しますね」

「うむ、期待しているぞ」


 早百合部長は、腕を組んで、満足げに笑った。


「ところで舞恋」

「どうしたの、ハニーくん」


 舞恋は、きょとんとまばたきをした。


「手、そろそろ離してもらってもいいか?」

「ふゃっ!?」


 ぽんと顔を赤くして、慌てて手を離す。


 そして、何故か桐葉に向かって頭を下げた。


「ごめん桐葉。ハニーくんは桐葉の彼氏なのに」

「あはは、気にしなくていいよ。ボクはハニーを束縛する気ないし。それに、舞恋はボクの友達だろ? 友達と彼氏の仲は良くないと、ボクだって困るよ」


 桐葉が優しく微笑むと、舞恋は安堵して、真理愛曰くGカップの大きな胸を撫でおろした。


 邪心が芽生えてしまい、今、サイコメトリーしたらまずいなと思った。


「あんた、いま悪いこと考えたでしょ?」


 耳元で囁く茉美の言葉に、戦慄が走った。


「お前はサイコメトラーか!?」

「いや、あんたが舞恋のおっぱい見ていれば誰でも思うわよ」


 茉美の冷静な指摘に、俺は脱帽した。


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