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宿題ににじみ出るリア充成分

「どういうことですか、早百合部長」

「素直にすまなかった。私の力不足だ」


 放課後、総務省の講堂で俺が詰め寄ると、早百合部長は真摯な表情で俺の眼を見ながら謝ってくれた。


 つまり、頭は下げなかったけど、誠意は伝わってくる。


 それに、もとから俺らを同じクラスにする義務もない。俺のわがまま、言いがかりだ。


「異能学園の創設には文部省の協力が必要不可欠でな。向こうの言い分も聞かなければいけなかったのだ」

「それが、試験校としての側面ですか?」


「そうだ。高校生に、小学校レベルの勉強を短期間で行えば、飛躍的に学力が上がるのではないかとな。だが、悲観することはない。振り分けは100人ずつ、特進コース、進学コース、総合コースの3コースに分けるのだ。特進コースは1組2組3組だ。貴君らが全員、同じコースに入れたら、その時は同じクラスになるよう便宜を図る。つまり、300人中の上位100人に入ればいい。全学試で10万位に入る実力があれば余裕だろう。貴君らの成績は良かったと記憶しているが?」


「俺は14万9881位なんですけど?」

「…………ふむ」


 早百合部長は爆乳の下で腕を組み、天井を見上げ、沈思黙考ののちに、俺の肩をつかんで一言。


「頑張ってくれたまえ!」

「言うは易し行うは難しってことわざ知ってますか?」


 俺は、思い切り苦々しい顔をしてやった。


   ◆


「まったく、とんでもないことになっちまったな」


 桐葉と美稲と一緒に、貨物船の倉庫へテレポートすると、俺はつい、毒づいてしまった。


「言っておくけど、俺に気を使ってテストで手を抜くようなことはするなよ」

「大丈夫だよ、だって私はハニー君がちゃんと勉強してくれるって信じているから」


 笑顔でプレッシャーをかけてくる美稲。


 ――優しいようで厳しいよなぁ。


 と、俺は下唇を噛んだ。


「大丈夫だよハニー、勉強ならボクが教えてあげるから」

「全国一位に言われたら頼もしいけど、小学生レベルじゃ理解力より記憶力だからな。一応聞くけど漢字50個を一日で覚える方法とかあるか?」

「ごめん無理。ボク一度流し読みするだけで全部暗記できるから」

「ぐっ」


 思った通り、天才過ぎて参考にならなかった。


 美稲が、フォローをするように顔を覗き込んできた。


「でも、今のところは順調だよね。土日も、一晩で宿題終わらせていたし」

「それは自分でも驚いているよ。元から知っている簡単な漢字ばかりだけど、この三日間で600字マスターしたし、算数は3000問解いている間に二桁の掛け算と割り算をある程度、九九みたいに暗記できたからな」


 これが経験値というものだろう。たとえば15の二乗は225とか、そこから15×14は210とか、計算しなくても、一瞬で答えが出るようになってきた。


「歴史も縄文と弥生は大した歴史がないから当時の生活様式や遺跡の名前を覚えるだけだし。英語は単語の暗記作業だけど600個覚えた。今日からは、英語例文の単語を変えて別の例文にする作業を一日500問だけど、簡単にできそうだよ」


 冷静に考えると、勉強は順調そのものだ。


 一見すると馬鹿らしいけど、基礎力をつけるというのは、想像以上に効果があるのかもしれない。


 そういえば、父さんの持っていた古い漫画で、バカ校の生徒が難関大学を目指すって内容のがあった。その中でも、生徒に小学校レベルの勉強をやらせるシーンがあった気がする。


「でも、今日から日本史は古墳時代に入るし、英語も文法が出てきたらどうかな」

「じゃあボク、今日から英語で喋ってあげるね。習うより慣れろって言うし、人って性的なことが絡むとやる気が上がるんだよ」


「え?」

「you are amazing at night(夜の君は凄い)」


「何口走ってんだよ!?」

「でもほら、これでちょっと文法覚えたでしょ? 今のをちょっと変えて言ってみて♪」


 肩を寄せて甘えられて、俺はドキリとしながら頭を使った。


「えっと、じゃあ……you are cute in front of me(俺の前の君は可愛い)」


 桐葉の顔がぱっと明るくなった。


 美稲は笑顔で、頭上に、【REC】マークを表示していた。


「はい。今のシーン、リア充税として録画したからね♪」

「ありがとう美稲、あとでボクのデバイスに送って」

「もちろん、みんなで共有しようね」

「やめろぉおお!」


 笑顔で恐ろしいことを言う二人に、俺は全力で空手チョップポーズを取った。


   ◆


 詩冴を各地に送り終え、みんなを総務省は返すと、俺と桐葉は残業をすべく、茉美のいる大学病院へテレポートした。


 手術室には、もしもの時に備えた外科医たちと一緒に、茉美が待っていた。


 手術台には、麻酔で意識を失った患者さんが横になっていた。


「遅かったわね二人とも。こっちは準備できているんだから」


 茉美は両手を腰に当てると、目元をきりっとさせて大きな胸を張った。


「悪い、でも時間ぴったりだろ?」

「日本人なら5分前行動を心掛けるものでしょ? あんたが来るか、こっちは不安だったんだから」

「なんだ茉美、弱気になっていたのか?」

「からかうんじゃないわよっ」


 語気を強めながら、茉美は顔を赤くした。


 俺なりの意趣返しに満足してから、患者さんへと歩み寄った。


 それから、範囲を患者の全身、対象をがん細胞に設定して、アポートを使った。


 すると、手術台近くの金属トレーの上に、突然、大小複数の肉塊があらわれた。

血が滲んでいる。


 周囲の、健康な細胞から分離させた断面が赤い。


「ほいっ」


 間髪を入れず、茉美が患者の腹に右手を当て、左手で全身をなでていく。


 彼女の両手は淡い光を帯びていて、ソレは患者の体内へ浸透していくように見える。


 外科医たちは、空間に表示されたモニターの数字に、感嘆の声を上げた。


「すごい、本当にがんが消失したぞ」

「それも、断面をのぞけば、健康な細胞は一切傷つけていない」

「がん治療の歴史が変わるぞ」

「じゃあ次の患者の麻酔が完了するまで、廊下で待っていてくれ」


 返事をすると、俺は桐葉と茉美の二人を引き連れて廊下へ出た。


 次、呼ばれるまでが暇なので、俺はすぐにMR画面を開くと、今日の宿題に取り掛かった。


「こんな時まで勉強するの? あんた真面目ねぇ」

「俺はみんなと違って勉強できるわけじゃないからな。次、いつ振り分け試験があるかわからないし、今サボってみんなとバラバラの学園生活はごめんだ」

「ふーん、そんなにボクと一緒のクラスがいいんだ」

「当然だろ、恋人なんだから」


 恥を忍んで、俺は言ってやる。


 桐葉は幸せを噛みしめるように頬を熱っぽく染めた。


 そんな彼女を尻目に、言うんじゃなかったかなと思いつつ、漢字の宿題を始めた。


 漢字を暗記するにはひたすら漢字を書くのではなく、例文を作ったほうがいいという理論のもと、ひたすら例文を作る宿題だ。


 右手でペンを持つ形を作ると、仮想のMRペンが表示される。それを使い、本物のペンと同じように、画面に文章を書いていく。


「【安】……安心して眠る。【暗】……暗い夜道。【院】……病院では静かにしましょう」


 すると、急に茉美が言った。


「うん、やっぱあたし、あんたのこと好きだわ」

「はっ?」


 いきなりの告白に、俺はペンを止めてしまった。


「基本的にあたし、男って嫌いなのよね。だってあいつら、ウジウジしているかオラオラしているかのどっちかじゃない?」


 同意を求めるように、茉美は快活に語り始めた。


「でも育雄って、勤勉で努力家で彼女と友達大事にするじゃない? そういうとこ好きよ。だから、あんたがみんなと同じクラスになれるよう、勉強に付き合ったげる」

「お、おう」


 ――友達として好きってことか。だよな。すぐ隣に桐葉がいるのに愛の告白をしたら昼ドラだ。


「えーっと、【委】……医者に身を委ねる。今日だけで漢字67個分の文章考えないといけないから大変だな」

「ボクは全部ハニーのこと書いたよ」


 ほら、と見せてきた桐葉の画面には、『ハニーに【橋】の上で告白された』とか『ハニーと温泉【宿】に泊って熱い夜を過ごした』とか、恥ずかしいことが恥ずかしくもなく書かれていた。


「おまっ、なんつう暗黒の書を製造してやがる!」

「へぇ、いいじゃん。あんたら付き合っているの隠していないんでしょ? なら育雄も書けばいいじゃない」

「おいおいどんなバカップルだよ?」


 俺は口をへの字にするも、茉美はノリノリだった。


「いいじゃない別に。それにほら、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥って言うじゃない? いま恥ずかしい思いをするのと、寂しい高校生活送るの、どっちがいいの?」


 遊びやがって、とは思うも、言っていることは間違っていない。


 それに、桐葉がいっていたように、性的、いや、恋愛に絡めるのも、悪くはないと思う。


「じゃあ……【荷】……デート中、彼女の荷物を持った。【芽】……彼女との恋の【芽】が育つ。【旗】……恥ずかしかったので手旗信号で告白したら彼女に笑われた。【刷】……彼女との写真を印刷した。【孫】……彼女が孫の顔が見たいと言ったので気が早いと叱った」


「ほら、すらすら出てくるでしょ?」


「手旗信号って、あはは。ハニー可愛い♪ でもそういうことは直接口で言ってね」


 大盛り上がりの二人とは違い、俺の気持ちはどん底だった。


 ――俺は、これを提出するのか……?


 後日、俺は国語の先生から、半笑いで満点を貰った。

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