学園トーナメント開催しません?
「じゃあ学園トーナメントするっす!」
「おいおい詩冴、ラノベじゃないんだぞ」
「いや、悪くないかもよ」
と、アビリティリーグ運営にかかわる美稲が賛同した。
「え? そうなのか?」
「うん。国内外に超能力者の戦闘力を広くアピールするにはちょうどいいよ。もちろん、軍事訓練は受けていないから防衛力には直結しないけど、精神的な安心にはつながると思う」
「だけどもう、アビリティリーグのAリーグ選手たちは有名だろう?」
「恥ずかしかったり自信がなかったりで強いけど選手はしていないって人もいるからね。登録したり試合を組まれるわけじゃなくて、学園行事ってていでやれば参加してくれると思うの」
「やるならボクは出るよ」
「桐葉はんが出るならウチも出るわ!」
二人が名乗り出ると、早百合さんは頷いた。
「よし、では内峰美稲の提案通り、今月中に学園都市最強トーナメントを実施する! 超能力者であれば誰でも参加は自由だ!」
「はんっ、拳が鳴るわね」
犬歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべ、茉美は右拳で左手を打ち鳴らした。
――お前はヒーラーだよな?
三叉茉美――能力:ヒーリング
◆
異能学園に登校すると、教室は早くも学園最強トーナメントの話題で持ちきりだった。
「おいみんな! 朝のメッセージ見たか!?」
「見た見た! トーナメントするんだろ!? 少年漫画みたいだよな!」
「アンタ戦闘系なら出たら?」
「いや、オレは野球選手めざしてっから、アビリティリーグやる気はないんだよな」
「アビリティリーグじゃなくて学校行事だって」
「う~ん、なら一回くらい出てみるか」
美稲の見立て通り、戦闘系能力者だがアビリティリーグには登録していない、そんな生徒も参加に前向きだった。
流石は我が家の頭脳だと、俺は感心してしまう。
「奥井ハニー育雄!」
そこへ、高飛車で頭の悪そうな声が聞こえてきた。
ちょっと眠そうな顔でモデル体型の美形男子、貴美守方……を従え、黒髪ドリルというギャグみたいな髪型を現実にしてしまいなお似合っているお嬢様、貴美美方が仁王立ちしていた。
俺と同じ一年生でありながら、我が学園の生徒会長である。
「あ、おはようさん美方はんに守方はん」
「おはよう糸恋ちゃん」
「おはようですわ糸恋」
糸恋が挨拶をすると、ふたりは好意的に挨拶を返した。
けれど、すぐに敵意をこめて、美方は俺を見上げてきた。
「我が盟友琴石糸恋を手中に収めて浮ついているところ申し訳ありませんが、此度のトーナメント、優勝するのはこの、世界最強の超能力者にして万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方様ですわ!」
美方は背筋を伸ばして、居丈高に宣言した。
両手を腰に当てたポーズが、彼女の自信を現している。
「ごめんねハニー君。姉さん、自分の勘違いでハニー君を批判していたのが恥ずかしいからこういう形でしか関係性を作れないんだ」
「おだまり!」
美方の放つ蜂のような左ジャブを、守方は蝶のようにひらりと避けた。
「当たりなさい!」
「やだよ。痛いもん」
「ムキー! 貴方は姉をバカにしていますの!?」
「バカにしていないよ。哀れんでいるんだよ」
「なんて生意気な弟! 罰としてお昼まで口を利いてあげませんわ!」
「じゃあそれまでは恋人の嘗子ちゃんと遊んでいるよ」
「そこは食い下がりなさいな!」
背中を向ける弟の制服をつかみ、美方は食い下がった。
本当に仲の良い、見ていて飽きない双子姉弟である。
弟が逃げないよう、手をがっちりと握りしめながら、美方は振り返った。
繊細な指先が、びしっと至近距離で俺を指してきた。
「とにかく、トーナメントの組み合わせがどうであれ、当日はこのワタクシが貴方に格の違いというものを見せつけてあげますわ!」
「俺は出ないぞ?」
「なんでよ!? 出なさいよ!?」
腕を上下に振りながら、美方は怒鳴ってきた。
その背後で、守方は制服を脱いでエスケープした。
「いや、俺が出たら絶対リングアウトで勝っちまうだろ?」
「ふっ、ワタクシのように感覚の鋭い天才なら貴方のテレポートを察知してかわしてごらんにいれましてよ!」
桐葉たちの視線は、美方の握りしめる空っぽの制服を見つめていた。
「ではこうしましょう! もしもワタクシが優勝した暁には! 奥井ハニー育雄! 貴方と戦う権利をいただくわ!」
「いいけど、なんでそこまで俺と戦いたいんだよ?」
「生徒会長の意地ですわ!」
彼女はぐっと握り拳を固めた。
「そのためにも守方、放課後はワタクシと特訓ですわよって、いない!? あの馬鹿弟はどこに!?」
美方は弟の制服を手に周囲を血眼になって探した。
その様子を、クラスメイトたちはお菓子片手に見物していた。
◆
昼休みになると、俺らは食堂の円卓席でトーナメントの参加者状況を確認していた。俺らは円卓大好きだな。
「ハニーはん、参加者がもう2000人を超えとるわ」
生徒会副会長の糸恋が、生徒会の運営ホームページから選手のエントリー状況を教えてくれた。
「順調みたいだな」
俺がパンを呑み込むと、周囲もトーナメントの話題で大盛り上がりだった。
「刈谷も参加するらしいぞ。ダチョウ獣人でサバット使いの」
「最近調子いいし、Bリーグだけど優勝するかもな」
「いや、同じ獣人系ならやっぱり本命は針霧だろ?」
「内峰も捨てがたいぞ」
「なんだかんだで生徒会長じゃね? 能力がマグマとか強すぎだろ?」
「「「「「「ふふふ、我らを忘れてもらっては困りますな」」」」」」
『お前らはねぇだろ』
F6はショックで石化したように固まった。
彼ら最底辺6人組はいまでもお笑い枠のファニー、Fリーグで頑張っていてそれなりに人気がある。
そこで、ふと舞恋が首を傾げた。
「あれ? ねぇ美稲、今更だけどこれって逆にOUにわたしたちの情報を与えちゃっていないかな?」
「ううん、むしろ私たちの力を見せつける示威行為効果が高いよ」
「そうっす! 自慰行為っっすぶらぁ!」
茉美の鉄拳が炸裂した。
「何故シサエだけ殴られるっすか!? もしかして同音異義語を考えちゃったっすか!?」
「イントネーションが下品なのよ!」
「あのね舞恋さん、たとえば戦闘機だけど」
――すげぇ、無視した。
美稲は笑顔で先生口調を作った。
「各国が採用している戦闘機や戦車だって、スペックは公表しているのよね? なんでだと思う?」
「あ、そうか。戦闘機や戦車のスペックでネットですぐ出てくるよね。でもあんなことしたら戦力がバレバレじゃないかな?」
「うん。だけど兵器の性能に自信があるなら、むしろ相手を牽制する効果の方が高いの。今回の私たちもそうだね。私たちの強さを見せつければ、国内の超能力者は安心して入学してくれるし、国外の人は警戒して日本に手を出せなくなるよね?」
「へぇ、そうなんだぁ」
舞恋は心底感心したように納得した。
「当日はこのワタクシの強さを全世界に知らしめて、万国をひざまずかせてみせますわ!」
いつの間にか、美方が胸に手を当て、背中を逸らして立っていた。
そのうしろには、ふたり分のトレーを手にした守方が立っている。
「お前どっから湧いたんだ?」
「別に、ただ昼食を取りに来たら守方が面白そうな話が聞こえると言うので、口を挟んだだけですわ」
本当は彼女が勝手に首を突っ込んできたのだろう。
「何せ、ワタクシは、世界最強の超能力者にして万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使いですもの! 戦車だろうが戦闘機だろうが戦艦だろうが、ワタクシ一人で灰燼に帰してやりますわ! 第三次世界大戦が起きればワタクシの独り勝ちでしょうね!」
両手を天上に掲げ、美方はスポットライトを浴びる舞台役者のようにキメ顔を作った。
その無駄なポーズをいちいち取るためにトレーを持たされている守方がかわいそうでならないも、彼が姉を見る視線は優しかった。
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