青春格差社会
「や、やったわ、ついに、ついにわたしは辿り着いたのよ……ま、まっていなさい、いま、あんたのにやけづらをぐしゃぐしゃにしてやるわ……」
最上段から門までの道は匍匐前進する5万人の亡者の群れで埋め尽くされ、ホラー映画の撮影所のようであった。
そして先頭を這う五人が門に触れようとした瞬間。
5万人は山のふもとにテレポートした。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!』
5万人のモンスター婚活女子は発狂。
五十音では表現不可能な奇声を発し、血反吐とゲボを吐き散らしながら階段を一気に駆け上がった。
そしてまたテレポートでふもとに戻された。
これを三回繰り返した。
山のふもとには血と涙と鼻水と汗とゲボまみれのモンスター婚活女子5万人が白目を剥きながら痙攣し、寄生宇宙人のような声を漏らしている。
「フギルルルルル」
心に体がついてこない。
5万人の体はとうに限界超え、もはや精神力だけで意識を保っているような状態だった。
だが、そこへ。
「渋谷楽しかったねー♪」
キャピキャピ。
「明日は原宿に行こっかー♪」
ぽいん、ぱいん。
「あたし来週彼氏とデートなんだー♪」
ピチピチパイン。
「じゃあオシャレしないと♪ 作戦会議だね♪」
ムチムチ、ぷりん。
「最近ブラがきつくなってきたんだよね、新しい勝負下着買おうかな」
たぷん、たぱん。
「私は来週彼氏の家にお泊りなのぉ♪ ゴム買い足しておかないとぉ」
キャイキャイわいわい。
「はしたないわよ。まぁ、私も週末は許嫁と、その」
7人のスレンダー巨乳、爆乳、胸は控えめだがモデル体型で長い黒髪と7人の中では一番の美貌を持つ美少女が若さ溢れるエネルギッシュな声で明るく楽しくフレッシュな足取りでロープウェイに向かっていく。
7人が近づくと、『現在、点検中のため、ご利用できません』の張り紙を無視してMR画面を操作。
すると、何故かゴンドラは普通に降りてきた。
『!?』
モンスター婚活女子たちが目を剥く中、ゴンドラは7人を乗せて山を登って行った。
遠ざかるゴンドラの中から、7人がこちらを見つめてくる。
「あのおばあさんたち何やってるんだろう?」
「さぁ?」
「何かの動画撮影じゃない?」
「そんなことよりあたし卒業と同時に彼氏と結婚する予定なんだけどさ」
「あ、あたしもー」
「昨日一緒に見に行ったタワマンがすごくいい感じでぇ♪」
「きゃーきゃー♪」
5万人のモンスター婚活女子は気絶した。
もう、彼女達には心身共に精も魂も尽き果てていた。
だが、彼女たちを助ける者は誰もいなかった。
誰にも気づかれず、地面に打ち捨てられたまま放置され、翌朝、目を覚ました者から順に、無言のまま帰路に着いた。
そして、拳から血が出るまで家の壁を殴り続けた。
「うるせぇ! 大家に言いつけるぞぉ!」
◆
一週間後。
東京のとある広場で、早百合さんが演説を行っていた。
会場にはVRカメラが設営され、誰でもアクセスすることで、まるで演説会に参加しているような臨場感を味わえる仕様になっている。
これも、美稲が作ってくれたダイヤモンド半導体が実現した6Gのたまものだ。
視聴者数4000万人超えの中、早百合さんは壇上から眼下に向かい厳かに告げた。
「国民諸君、今日はよくぞ集まってくれた。この度、貴君らの助力もあり、大勢の国民が結婚、妊娠をする運びとなった。我々の試算では、日本は少子化問題解決の軌道に乗ったことが判明した。近い未来、少子化問題解決宣言をできる日も……」
そこへ、醜悪で邪悪な怒声が割り込んできた。
早百合さんが視線を巡らせると、広場の入り口から5万人規模の群衆が鬼の形相で駆けこんできた。
「とうとう見つけたわよこのクソビッチ名誉ジャッポスがぁあああ!」
「ネットの情報通り、ガードマンもつけずに生身でのこのこ現れてバカじゃない?」
「おっぱいとお尻に栄養取られているんじゃないのぉ!?」
「民意の多様性を食らいなさい!」
「これが世論よ! 勇気ある抗議の鉄槌を食らいなさい!」
絶叫しながら、モンスター婚活女子たちは広場に無数に建てられたパネルを破壊しながら、壇上へ向かった。
その様子を、早百合さんは壇上から冷め切った眼差しで見下ろしていた。
「やれやれ、最後のチャンスを棒に振りおって……」
極めて残念そうな、力なく肩を落とすような声音。
きっと、早百合さんも本当なら彼女たちに改心して欲しかったのだろう。
せめて、おとなしく諦めて欲しかったのだろう。
けれど、早百合さんの想いは通じなかった。
早百合さんは意を決したように姿勢を正すと、聞いたこともないような怒声を上げた。
「弁えろ痴れ者がぁあああああああああ!」
拡声器が委縮しそうな肉声。
あまりの大音声に、広場の空気が激震し、衝撃が駆け抜け、5万人の暴徒が立ち止まった。
そのまま、早百合さんはマイクも使わず、喉のみで大音声を上げた。
「本日! この広場は関係者以外立ち入り禁止になっている! そして貴君らはVRカメラ付きパネルを倒し踏み潰し破壊した。不法侵入および器物破損の現行犯である! 法治国家に生まれながらいい年をして法律も守れないのか!?」
戦国武将もかくやという威圧感に、モンスター婚活女子はライオンに睨まれたバンビのようにおじけづいた。
「うぐ、だからそれはあんたが私たちの婚活を邪魔するから……」
「その話なら決着はついているであろう! 貴君らの主張は全自動美稲に論破されている! 裁判でも裁判長に取り合ってもらえなかったと聞き及んでいるぞ! 警察からも厳重注意を受け! それでもなお反省しないのか! 私の少子化対策は法律上何の問題も無い! そして私が日本婚活アプリを導入する前から貴君らは元々結婚できていなかった! にもかかわらず責任転嫁をし暴徒と化し周囲に迷惑を振りまく! なんと破廉恥極まりない!」
「う、うるさぁい! これも全部あんたのせいなのよ! 責任を取りなさい! みんな行くわよ!」
5万人の群衆が駆け出した。
早百合さんは指を鳴らした。
ステージの裏に隠れていた俺は姿を現し、そしてテレポートを発動させた。
ただし、今度は下水道にじゃない。
★本作はカクヨムでは496話まで先行配信しています。




