賽の河原
『現在、点検中のため、ご利用できません』
ゴンドラの無いロープウェイ乗り場の張り紙に、モンスター婚活女子たちは絶句。
それからヒステリーを起こした。
「ええええい人をバカにしてぇ!」
「どこまであたしたちをコケにすれば気が済むの!?」
「どうする? 帰る?」
「ここまで来て帰ったら今まで時間が全て無駄になっちゃうじゃない!」
「こうなったら階段で行くわよ!」
モンスター婚活女子の中に、【損切】の二文字はなかった。流石はモンスター。
「えーっと、それで階段は……」
ババコ●ガが見上げると、そこには標高200メートル先へと続く、頂上がかすんで見えない階段がそびえていた。
幅50メートルの広大な階段に見下ろされて、やや威圧された彼女たちは息を呑んだ。
一段目には麻弥たんの等身大パネルが立っていて『1000段なのです』とフキダシがついている。
流石に一瞬ためらうも、そんな彼女たちを支えたのは早百合への怒りだった。
あの、若くて美人でスレンダー爆乳爆尻で十代の億万長者勝ち組男子ハニーをゲットしたクソビッチ名誉ジャッポスを地獄に叩き落とさなければ気が済まない。
そのドス黒いガッツとファイトとパッションが、彼女たちを無駄に奮い立たせた。
ついでに、スケキヨマスクの五人は顔をヒーラーたちに治してもらわなければならなかった。
「「「「「みんなぁあああああああああああ! 行くわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
『怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
5万人のモンスター婚活女子たちは1000段ある階段を一斉に駆け上がり始めた。
その勢いと雄叫びは凄まじく、まさにスタンピード、ジャガーノートと呼ぶにふさわしいモノだった。
5万人の怨嗟の絶叫が。
5万人の殺意の波動が。
5万人の息遣いと足音が。
津波となって異能学園都市に迫る。
そして100段目を過ぎた辺りで、60歳以降の高齢者組が脱落。その場に崩れ落ちた。四つん這いのまま肩どころか全身で息を切らしながら生まれたての小鹿のようにぷるぷると震え始めた。
200段目。
体重100キロ越えのオーク女子たちが脱落。
300段目。
50代の後半の準高齢者組が脱落。
運動不足の引きこもり系こども部屋おばさんたちも脱落した。
400段目。
50代前半の後期中年組が脱落。
500段目。
インスマス顔のギルマン女子たちが脱落。何故とは言わないがとにかく脱落。
600段目。
筋肉の少ないガリガリのコカトリス女子たちが脱落。
700段目。
40代後半の中年組が脱落。
800段目。
ほぼ全てのモンスター婚活女子たちが脱落。
誰も彼もが気息奄々、その場で嗚咽を漏らしている。
全身の筋肉が乳酸漬けで疲労困憊、細胞は酸欠で悲鳴を上げ、頭痛が治まらない。
しかし、彼女たちが酸素を求めるも加齢で繊維化した肺は思うように酸素を取り込んでくれない。
わずかに取り込んだ酸素も、老化で筋肉が伸び切った心臓が思うように血液を送り出してくれない。
仮に血液がいきわたっても、経年劣化で硬質化した膝の軟骨は衝撃を吸収できず、膝と股関節が削れるような痛みを訴えてくる。
額の汗はまるでバケツの水をかぶったような量で、化粧はとろけてドロドロだ。
だが、しかし、それでも、なお、彼女たちは諦められなかった。
ここでくじけるわけにはいかなかった。
ババコ●ガ●は歯を食いしばりながら思った。
ふざけるな。
こんなところで諦めてたまるものか。
私は革命を成し遂げるんだ。
そして原始時代から700万年続く男尊女卑社会を終わらせ、私達神たる高等種族である女性が低能な奴隷ザルである男共を支配する、本来あるべき秩序を取り戻すのよ! 未来永劫!
ハプルボ●カ●は顔中のシワが眉間に集まるほど表情筋を歪めて願った。
バカにするな。
どうして私だけこんな不幸な目に遭わないといけないんだ。
私はただ【20代で年収1000万以上で高学歴で身長180センチ以上でイケメンで私をお姫様扱いしてくれる普通の男性】と結婚して毎日美容に力を入れてエステや海外旅行や美容室に行ってランチやディナーを頼んで家事は家政婦に任せて夫から尽くされつつ夫がいない時に別のイケメン男子と熱いロマンスの火遊びをしてロマンスがバレたあとで二人のイケメンが私を奪い合って争った後に三人で幸せになろうということを四回繰り返して五人のイケメンに愛される逆ハーレムライフを送りたいだけなのに!
そんなどこにでもある普通のつつましい小さな幸せが欲しいだけなのに!
プケプ●は階段に指を突き立てながら切望した。
諦めてなるものか。
私は素材にこだわりぬいた自家製オーガニック野菜を使った自分のレストランを出店してそこで美人店長としてSNSでバズッてインフルエンサーになるのよ!
そしてテレビに取り上げられて芸能界入りしてハリウッドからお声がかかって金髪碧眼の欧米人ハリウッド俳優と結婚するの!
そのための資金1億円を払ってもらうためにも金持ちのハイスペ男子と結婚しないとダメなのよ! そもそもリボ払いで膨らんだ借金が700万円もあるんだからそれもなんとかしないと風俗に沈められる! 私の処女を素人客に奪われてなるものか!
マガイマガ●は頭の血管を切りながら熱望した。
こんなことがあっていいわけがない。
私はイケメンで金持ちの御曹司A君、サッカーの全国大会で優勝するB君、現役アイドルのC君、売れっ子ミュージシャンのD君、ハーフで父親は海外の不動産王のE君、という5人の男子高校生に言い寄られて逆ハーレムライフを送るはずなのよ!
それをあのクソビッチ名誉ジャッポスのせいでこんなババ色の人生をぉ!
ドドガマ●は心の中で悪魔契約をしながら呪詛を叫んだ。
ブチ殺す!
私のような芸能人も真っ青の美女が勝ち組になれないなんておかしい!
私は美しいのよ! 美人なのよ! スタイルだって抜群なのよ!
本来なら世界中のハイスペ男子たちが私の前にひざまずいてかぐや姫のような生活を送ってしかるべきなの!
私の愛人ワールドカップが開催されて、上位100人のハイスペイケメンが私に近づく権利を与えられるはずなの!
実際中学時代も高校時代も大学時代も色々な男子たちからアプローチをされてみんな私と寝たがったのよ!
それなのにみんな私が大学を卒業して女子大生じゃなくなった途端手の平返しやがって!
これもすべて何もかもあいつの、あのクソビッチ名誉ジャッポス総理のせいよ!
そうよ、そうよ、あんな、あんな!
くわっ!
私は、あんなバインボインの爆乳ハーレム軍団なんかに負けない! 貧乳だって幸せになれるんだ! 女の価値はおっぱいで決まらないんだ!
私が総理になって全ての女子に乳房除去手術を強制するんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
という思想×1万ずつの元、5万人のモンスター婚活女子たちは四つん這いで階段を這いずり上がった。
900段目。
みんなは頭にロッキーのBGMを流し、己を鼓舞した。
この先にバラ色の未来が、黄金郷が、この世の全てが待っていると信じて、地獄に垂れる細い蜘蛛の糸にすがる亡者のように手を伸ばした。
そして、ついにスケキヨマスクの5人が1000段目を踏破。
そこから100メートル先に、城塞都市のように巨大な壁と、巨人も通れそうな門がそびえている。
「や、やったわ、ついに、ついにわたしは辿り着いたのよ……ま、まっていなさい、いま、あんたのにやけづらをぐしゃぐしゃにしてやるわ……」
最上段から門までの道は匍匐前進する5万人の亡者の群れで埋め尽くされ、ホラー映画の撮影所のようであった。
そして先頭を這う五人が門に触れようとした瞬間。
5万人は山のふもとにテレポートされた。
★本作はカクヨムでは496話まで先行配信しております。




