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地獄の入り口

「OUのほうがまだマシかもしれないな」


 家のリビングで早百合さんからの報告を聞いた俺は吐き気を催した。


 すると、俺の体調不良を敏感に感じ取ってくれたであろう麻弥たんが俺の膝に乗ってくれた。


 なんていい子だろう。

 俺は麻弥たんのほっぺを両手でぷにぷにしながら、メンタルを回復させていく。


 ――麻弥のほっぺと桐葉のおっぱいって感触似ているよなぁ。


「でも無銭飲食は現行犯ですし、今どき、メールの送り主なんてプロバイダ開示請求でどこの誰が送ってきたかなんて簡単に割り出せますよね? なら、全員逮捕ですか? 十年ぐらい牢屋に入れておきましょうよ」


「それがそうもいかんのだ」


 早百合さんは俺とひざを突き合わせると、麻弥たんの足を引き寄せた。

 俺と早百合さんのひざを突き合わせたお膝ベッドの上に麻弥たんを仰向けに寝かせる。


 それから、二人で麻弥たんのほっぺやお腹をぷにぷにし始める。

 麻弥たんはお人形フェイスのままだけど、手足をぱたぱたさせて喜んでくれる。


「三権分立は知っているな?」

「中学の公民の授業でやりました。国会、内閣、裁判所ですよね?」


「そうだ。内閣は裁判官を任命する権利を持つが、裁判結果はあくまでも裁判所が決める。故に政治家が犯罪をしても無罪にはできない。当然だな」


「はい。俺もそれは必要だと思います」

「だから、今回の5万人のモンスター婚活女子の処遇についても、私の力は及ばないのだ」

「え、まさか全員無罪ですか?」


 俺がぎょっと目を剥くと、早百合さんは苦虫ならぬ、悩みの種を噛み潰したような顔をした。


「今までホテルに突撃したり男性に襲い掛かった時もだがな、日本に5万人も収容する設備は無いし、懲役期間の生活費は税金で賄われる。それに5万件の裁判をまともに行えば何年もかかる。そこで今回も今まで通り、厳重注意ということで終わったらしい」


「え~、ていうか俺はてっきり前回の男性たちを襲っていた時点で全員牢屋行きだと思っていたんですけど? 無罪は美方たちだけでいいでしょう?」


 連中は美方たちを傷害罪で訴えたが、棄却された。


 何せ、モンスター婚活女子が男性を襲、それを退治するという一連の流れが日本中に報道、そしてネットで中継されたのだ。


 むしろ、顔もスタイルも抜群のセクシー美少女戦士たちが勇ましく戦う姿に世論は大きく傾き、今、日本は超能力女子ブームになりつつある。


 そうして世論の後押しもあり、うちの生徒たちは全員無罪。

 むしろ、警察から表彰されたくらいだ。


「かつて、母親による子殺しが横行していた時代も、殺人ではなく過失致死という結果になっていたし、司法の世界は歴史的にも女性に優しい。よくフェミニストが犯罪率は女性よりも男性のほうが高いと言うが、実際には女性は犯罪をしてもなんだかんだと理由を付けて無罪になったり減刑されているだけ。実際の殺人件数は女性のほうが多いぐらいだ」


 うへぇ、っと俺はあからさまに嫌な顔をした。

 膝の上で麻弥をもてあそぶスピードがつい上がってしまう。もちもちぷにぷに。


「それじゃあこれからもずっとずっとこういうのが続くんですか? 俺たち、OUと戦争しているんですよね?」


「いや、それならつい先日解決した。実はモンスター婚活女子対策で、とある法案を国会に提出し、無事可決したのだ」


「どんな法律ですか?」


「それは後のお楽しみだ。そして、彼女たちには更生する最後のチャンスを与えたいと思う」


 早百合さんは不敵に笑った。

 そして麻弥たんは目を閉じてこの状況を堪能していた。かわいい。



   ◆


 麻弥たんをいじり倒したのち、何故か早百合さんは五日後は一日、首相官邸でゆっくり過ごそうと思うという声明文を発表。


 そして五日後。

 日本中から東京に中年以降の女性たちが集結。


 彼女たちは民族大移動のように、あるいは球場へ向かう観客のように、徐々に合流。


 その流れはやがてひとつの大きなうねりとなり、一か所を目指していた。

 スケキヨマスクをした五人の女性を先頭にした彼女たちの正体はモンスター婚活女子。


 そして彼女たちが到着したのは、首相官邸だった。

 籠城戦よろしく、彼女たちは首相官邸をぐるりと包囲し、殺気を向けながら野次暴言を吐き捨てる。


 そして金属バットやゴルフクラブなど、思い思いの武器を手に、首相官邸へ突撃しようとしたとき、頭上に巨大なMR画面が開いた。



『現在、総理は異能学園都市で仕事中のため、お出になりません。御用の方は、日を改めてください』



 虹園忍舞の録画映像がリピート再生。

 モンスター婚活女子たちは発狂した。


「ぎぃいえええええええええええい! こうなったら異能学園都市に行くわよ!」

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 モンスター婚活女子たちは奮起。

 5万人の軍勢は一斉に異能学園都市を目指した。


 彼女たちのせいで交通網は混乱し、歩道は渋滞を起こしてしまう。

 だが、そんな迷惑を顧みず、彼女たちは5万人の雲海となり異能学園都市へ向かうのだった。



 が、ご存じの通り、異能学園都市は水害対策で山の上にある。

 山の上部を削り、作り出した土地に建設されているのだ。


 その標高は実に200m以上。

 なので外から異能学園都市へ入るにはロープウェイを使う必要があるのだが……。


『現在、点検中のため、ご利用できません』



★本作はカクヨムでは496話まで先行配信しております。

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