こいつら進化していないか?
「避けるんじゃありません!」
「嫌だよ、痛いもん」
「むきぃー!」
――このやり取りを見るのも久しぶりだなぁ。
「ほのぼのするよねぇ」
美稲が柔和な笑みで同意を求めてきた。
けれど、俺はつい、辟易とした溜息を吐き出してしまった。
「ほんと、ずっとこういうやり取りを見ていたいよ」
「ワタクシがバカにされる様を見たいということですの!?」
美方がくわっと振り向いて、両手からマグマを溢れさせた。
「そうじゃなくてさ、あいつらなんで学習しないのかって。だってもう何度も俺の下水道シュート食らっているし、無駄なのわかっているだろ?」
「言われてみればおかしいですわね」
両手のマグマを消して、美方は手を下唇に添えて探偵のように考え込んだ。
すると守方が無言でMR画面を展開した。
・三国志演義の武将孟獲、孔明に7回勝負を仕掛けて全敗。
・学習しない羊動画(穴から救出された三秒後にまた落ちる)
・何度も女に騙される男
・ギャンブルにお金を吸われ続ける人
俺はチベスナ顔になった。
「そうだな。人間て根拠もなく次はイケる気がするって生き物だよな」
「それ以前に理論よりも感情論で動く人たちだからね……」
俺の隣で、美稲も苦笑い浮かべた。
◆
ハニーたちがモンスター婚活女子たちを討伐し終えた頃。
龍崎早百合は一人、執務室で頭痛に耐えるように頭を眉間を押さえた。
「まさか連中ここまでとはな……これは、リーサルウエポンを始動する必要があるな……」
早百合は失望しきった声を漏らし、立ち上がった。
◆
一週間後。
ゴキブリ以上の生命力で下水道シュートを食らっても一切感染症を起こさなくなった5万人のモンスター婚活女子たちは、MR画面越しにオンライン決起集会を起こしていた。
スケキヨマスクをかぶった五人の女が、画面越しに全国の同志たちへ語り掛ける。
「全国の同志諸君! よく集まってくれたわ。私たちは今まで、あのクソビッチ名誉ジャッポス総理のせいで辛酸をなめてきた聖なる弱者。前回の革命はあのまま行けば確実に成功していたのに、またしても総理の側近であるハニーに邪魔されてしまったわ。なんてかわいそうな私達!」
ドドガマ●に続けて、マガイマガ●が語る。
「特に私たち5人はネットで全裸を無修正で全世界に晒され、女性としての尊厳を貶められたわ」
露出度の高いドレス姿で守方の水流に抗った結果、彼女たちは全裸になり、また、その光景は全世界に配信されていた。
五人は自分たちをハイスペ美女だと思い込んでいる。
そのため、醜く醜悪かつ汚物のような体で世界中の男性が嘔吐しながら心に深い傷を負い一か月間不能になってしまったのだが、五人はそれも早百合の陰謀だと思っている。
「私達のような高等遊民お姉様は社会全体で守るべきなのです。ですがクソビッチ名誉ジャッポス総理の汚らわしい脂肪の塊に誘惑された男社会はそのことに気づかないわ」
プケプ●を援護するように、ハプルボッ●が叫んだ。
「私たちが救われないのは全てはこの男社会のせい。同じ女が私たちの味方になってくれないのも男たちに洗脳されているから。今こそ、私達が勇気ある抗議活動を起こし、社会に革命を起こすべきなのです! 私たちの行動は世間的には犯罪かもしれない! だけど今後、私達こそが日本の、いや、世界のスタンダードとなり第二のフランス革命となるのよ!」
そして最後にババコ●ガが宣言した。
「私たちは一人一人がジャンヌ・ダルク。5万人のジャンヌ・ダルクが悪しきクソビッチ名誉ジャッポス総理の悪事を打ち砕くのです! その時、ヒーラーたちは涙で土下座をしながら私たちの顔を治すことでしょう。さぁ、私達の顔の痛みに集うのです!」
五人は以前、美方のマグマ攻撃を顔面に浴びている。
マスクの下がどうなっているかは、想像に難くないだろう。
五人の呼びかけに、日本中の同志たちが叫んだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおお! 総理の顔も焼き潰せぇえええ!」
「総理の爆乳を千切り取れぇえええええ!」
「お尻とふとももの肉もそぎ落としてライオンのエサにするのよ!」
「トゲ棍棒を下からブチこんで骨盤を砕いてやるべきよ!」
「二度と下半身が使い物にならなくしてやる!」
「あんなバカデカイおっぱい潰してもぎとって無乳してやるわ!」
「お尻もおっぱいも顔もない無残な姿で男共の中に放り込んでやりましょう!」
「そして日本中の男から唾を吐きかけられるがいいわ!」
「うるせぇ! とっとと寝ろぉ!」
「警察ですか? 隣の部屋から殺害予告が聞こえるんですが、住所は……」
「お客様、他のお客様の迷惑になりますので静かにしていただけますか?」
「ママー、あの人何ぃ? 下半身を使い物にならなくってどういうことぉ?」
「見ちゃいけません」
◆
翌日、日本中で一斉に事件が起きた。
まず、AVなどの男性向け、性的コンテンツの会社全てに講義メールが50万件ずつ届き、さらにAV女優やグラビアモデルへの殺害予告も50万件届いた。
ありとあらゆるネットの掲示板にはスレチも甚だしい女尊男卑思想と、男性向けコンテンツで働く女はクズであるという論調が書き込まれ、あらゆる掲示板がパニックになり落ちて行った。
さらには日本中の主要都市で無銭飲食が多発。
犯人は全員40歳以降の女性で、彼女たちは口をそろえて、
「私達聖なる弱者女性は社会が支えるべき。私達はあらゆるサービスが無料であるべき。私達からお金を取るのは人権と生存権の侵害よ! これは勇気ある抗議活動なの!」
と叫んだ。
「OUのほうがまだマシかもしれないな」
家のリビングで早百合さんからの報告を聞いた俺は吐き気を催した。
★小さい子が転ぶのって可愛いよね
とある休日。
リビングでみんなでテレビを見ていた。
内容は世界の衝撃映像集で、いまは子供編が放送中だ。
赤ちゃんや幼児が起こしたハプニング映像に、みんな和んでいた。
すると、とある映像で、幼女が氷の上ですべりそうになり、両手ををパタパタさせてバランスを取り、だけど結局コテンと尻もちを打ってしまう映像が流れた。
スタジオも、そして我が家のリビングも大変なごんだ。
「ちっちゃい子が転ぶのってなんでこんなにかわいいんすかねぇ」
「本人にはわるいけどね」
詩冴の感想に、美稲も賛同した。
そんな日の翌日。
クリスマスも終わり、世間はすっかりお正月商戦モードになっていた。
ホワイトクリスマスの影響で、東京でも珍しくアスファルトに氷が張っていた。
溶けた氷が固まって地面がスケートリンク状態になる、アイスバーン現象だ。
「みんな、滑らないよう気を付けてよ」
運動神経抜群で体幹の良すぎる桐葉は、氷の上でもさっそうと歩いていた。
我が嫁ながら、流石である。
そして北海道出身の詩冴は靴底が登山靴なみにゴツイ冬靴を持っているので、同じく元気に歩き回っている。
「デパートの年末商戦に突撃っす~♪」
「わわっ」
運動が苦手な舞恋が滑りかけて、俺に捕まってきた。
「おっと、大丈夫か?」
「うん、ごめんねハニー」
「気にするなよ。滑るなら俺の手、つかんどけ」
「ふゃっ!?」
舞恋はつつましく赤面した。かわいい。
「あ、ハニー、ボクもすべりそう、抱きしめてぇ♪」
「お前は飛べるだろ?」
「ぶ~」
桐葉は笑顔ですねた。器用だな。
その背中越しに、麻弥たんが詩冴のまねをしてぱたぱたと走っていく。
「まつのです詩冴、おいてけぼりはダメなので――」
そこでロリボイスが途切れたと思うと、麻弥たんの小さな体がカクンと傾いた。
小さな両腕をぱたぱたさせてバランスを取ろうとするも、体はますます傾いていく。
その瞬間、俺の中の悪魔詩冴が囁いた。
このまま麻弥たんが転べば凄く可愛い光景を見られるっす。
天使美稲も囁いた。
視界RECボタンを押すんだよ。天使?
俺の中の悪魔と天使が手を組みながら俺を悪の道に引き込もうとする。
だけど、俺の中でうちなる俺が囁いた。
お前は嫁が痛い想いをしてもいいのか?
気が付けば、俺はテレポートで麻弥たんを俺の腕の中にテレポートさせていた。
麻弥たんの小さな体を抱き留めると、彼女は無表情なお人形さんフェイスのまま、俺の胸板に甘えてきた。
「ありがとうなのですハニー」
「どういたしまして」
「だけどどうしてちょっと残念そうなのですか?」
「男にはね、何かを犠牲にしても守るべきものがあるんだよ」
麻弥たんの可愛い姿を見られないのは口惜しい。だけどいいんだ、麻弥たんがお尻を打たなくてよかったのさ。
すると、背後から急に茉美が歩み寄り耳元でツンデレ気味に囁いてきた。
「あとであたしのお尻、好きにさせてあげるから元気出しなさい」
俺は凄く元気になった。
そして夜、お風呂場で滅茶苦茶堪能した。
※忘れているかもしれませんが、茉美は女の子を助けるとご褒美をくれる気質があります。
★本作はカクヨムでは496話まで先行配信しております。




