AIさん、ニートたちを働かせてください
「そんな人たちをどうやって働かせるんですか?」
「そうだな。重機のリモートコントロール操縦士などどうだろうか?」
言って、早百合さんは詩冴と茉美が握りしめているゲームコントローラーを一瞥した。
「喰らうっす! 昇竜拳! 波動拳! からの十連コンボ!」
「ちっ、ナメんじゃないわよ! これでも地元じゃ一番だったんだから! スクリュードライバー!」
二人の試合はなかなかの熱戦ぶりで勝敗が気になるも、俺は早百合さんに視線を戻した。
「ゲームがどうしたんですか?」
「AIに車の自動運転は、先進諸国では今や常識だ。しかし、重機は未だに人の手で操縦している」
「誤作動の心配ですか?」
「相変わらず理解が早くて助かる。乗用車の数倍、数十倍のパワーを持つ重機が暴走した時の被害は計り知れん。無論、AIが誤作動する可能性よりもヒューマンエラーのほうが確率は高い。しかし人は理屈では動かん。重機は今でも人間に操縦して欲しいと考えるのが人の気持ちだ」
穏やかに、他人の気持ちに寄り添うような声音。
俺も頷いてあげたいけれど、疑問が残る。
「でも無職の人たちって素人ですよね?」
「いや、彼らは操縦者足りうる。今ではゲームもMR画面操作が増えているが、無職ニート世代の多くが未成年だった20年前は、ああしたゲームパッドが主流だった。我々よりもコントローラーの操作には慣れている。人とのコミュニケーションは最低限。家でコントローラーを操作すれば工事現場で働ける。就職を希望する者は少なくないだろう」
「それはそうですけど、追い詰められないと働かない人たちも大勢いるんですよね?」
「親が家を出て行けばよいのだろう?」キラン
「それはブラックじゃないですかね?」
俺は軽くツッコんだ。
「そういう手もあるということだ。しかし、今回の婚活パーティーで多くの無職ニート引きこもりたちがオンラインでの友人を増やした。自分以外の者達が次々就職する中、自分だけ取り残される気分になれば、働く者もいるだろう。無論、全員が働くなど思っていない。三割でも労働に従事してくれれば万々歳だ。結局のところ、働くかどうかは個人の自由であるしな」
どれだけ偉くなっても強要、無理強いはしないスタンスに、俺は好感を持てた。
「それに、三番目の死んでも働きたくない者を含め、残った者には重要な仕事がある」
世界征服でも企むような悪い顔に、俺はちょっと不安になる。
「な、何をする気ですか?」
「AIの精度を高めるための育児だよ」
◆
元から準備はしていたらしく、翌日から新たな職業斡旋事業は始まった。
無職ニートひきこもりの中でも、
「人と話さなくていいなら働いてもいい」
というゲーム好きの人たちの多くは、大型重機のリモート操縦の講習を前向きに受けてくれた。
当然、現場監督からの指示はあるけれど、全てAIのロボットボイスに変換、画面にも文字で表示されるタイプにすると受け入れてくれた。
また、費用を全額国が負担しても、子供を捨てて引っ越ししてくれる剛毅な親は少なかった。
けれど、早百合さんの予想通り、知り合いが次々就職していく様に危機感を覚えた人達は仕事の斡旋を頼んでくれた。
そして、
都内某所の一室に、全自動美稲でおなじみの、あの太鼓のような灰色のロボットが座っている。
それを、40代の無職ニートひきこもりの男性があぐらをかいて見下ろしていた。
「ふーん、こいつに命令していれば毎月金がもらえるのか。あの爆乳エロ総理もいい仕事してくれるじゃないか。おいお前、じゃあちょっとエロ画像を検索してくれ」
『エロってどんなの?』
「そうだな、まずセーラー服姿の女子高生で黒髪ロングヘアーで爆乳がいいな」
『わかりました』
ロボットが展開したMR画面には、セーラー服が背景に落ちているゴリラガールの映像が映った。
「そうじゃねぇよ!」
『画像にセーラー服が入っています』
「着ていないとダメなんだよ! あと美少女にしろ!」
『体のどこに着ますか?』
「全身だよ」
『ではどうぞ』
今度は、首から下が無数の小さなセーラー服の画像で埋め尽くされた、若い女性の画像が映し出された。
「だからそうじゃねぇよ! 首から下が一枚の人間大のセーラー服なんだよ!」
『こうですか?』
ハンガーに下げられたセーラー服、その上に女子の生首がかざってあるホラー映像が映った。
「そうじゃねぇっつってんだろが! なんだこのポンコツ! 俺をイラだたせるな! もうこんな仕事やめちまおうかなぁ!」
『でも私の知能向上に貢献すればお金がもらえますよ? そうすればソシャゲの課金ができるしウィルスのリスクがある海外の無料エロサイトなんて使わなくてもエロコンテンツが見放題ですよ?』
「……」
『ネットフリ●クス限定アニメも見れるのになぁー』
「……お前、なんでそこだけ人間の気持ちがわかるんだよ?」
男性は渋い顔をした。
『ネットの知識から想像しただけです。ですがAIは言葉の細かいニュアンスや常識、普通こういう場面でこういう単語を使ったらこういう意味、というのがわかりません。そうした齟齬をビッグデータを使って修正するのです。そう、あなたがた10万人の無職ニートひきこもりたちによって』
「バカにしてんのか?」
『いえ、尊敬していますよ。私の指導係様?』
表情のないロボットの目である光点を睨みながら、男性は舌打ちをした。
「ちっ、しょうがねぇなぁ。まぁ育成ゲームでもやってるつもりでオレが一から教えてやるよ。いいか、まず服を着るっていうのはだなぁ」
『ふむふむです』
こうして、AIの教育は着々と進んでいった。
★ふしぎな踊り
ある日曜日。
俺は偶然ひまな時間ができてしまった。
リビングの床暖房が気持ち良くて、ついごろごろしてしまった。
それからうたたねをしてしまい、気が付いた時には、白い天井が薄暗くなっていた。
――どれぐらい寝ていたんだ? ん?
体を起こそうとして、俺は自身の置かれた異常に気付いた。
首を回すと、麻弥たん、赤毛幼女、和服幼女、アイヌ民族幼女の四人が、俺の周りを回りながら踊っていた。
――え? ちょ、これなんの儀式?
四人は、もちもちころころと可愛く、だけど不思議な踊りを踊っていた。
踊りながら、俺を取り囲む輪が徐々に縮まり、やがて四人は俺の手首、足首をまたぎながら踊り回った。
おかげで動けない。
小人に囲まれて大の字のまま動けない。
気分はガリバー旅行記の主人公だ。
さらに輪は狭まり、四人は脇の下や股関節近くを踏みながら踊るようになるので、ちょっと怖い。
あと、四人のパンツがちらちら見えている。
――べ、別に幼女のおぱんちゅになんて何も感じないんだからな!
と、俺は誰かに言い訳をした。
すると、四人が同時に動きを止めると、一斉にを手を挙げた。
四人の体がきらめき、そして桐葉たち10人の部屋から運命の赤い糸のようなものが伸びてきた。
そうして赤い糸は俺の手の指、を通り過ぎて、股間に集まった。
――いや! どこに結んでいるんだよ!?
というか、よく見れば赤い糸に見えたモノは糸ではなかった。
太くて、ゴツくて、硬くて、たくましく堅牢な、ジャラジャラとした鎖だった。
それも、♂マークと♀マークの輪をつないだ、なんともいかがわしい鎖だった。
――どんな鎖だよ!?
俺は心のナカでツッコんだ。
四人は、一仕事終えた戦士のように凛々しい顔をすると、冷蔵庫からそれぞれが好きな飲み物を持ってきて、テーブルで一杯やり始めた。
――これはなんだろう。縁結び的な仕事なのかな? もしもそうなら、桐葉たちと縁を結んでくれたのは嬉しい。流石は妖精さん、ふしぎな魔法をできるものだ……いや、麻弥たんは人間だからできちゃだめだろ!?
最後の「できちゃだめだろ」は、ギャグマンガ日和の西遊記で悟空が三蔵にツッコむテンションをイメージしました。
わかる人だけわかってください。
★本作はカクヨムで495話まで先行配信されています。




