↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーフェクト・コード ―続・マスターネオはネコまない―  作者: Master NEO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/18

第十一章 光だけの出口

リライズ・パスの起動条件は、三つだった。

第一に、現実の光へ帰還補助薬を投与すること。

第二に、《ファンタズマル・アイランド》のコアにある設計師のコードへ、音央がGM権限で接続すること。

第三に、ゼニス側の認証鍵を使い、光だけを接続対象から外すこと。


「認証鍵はどこにある」

音央が問うと、ヒカルは答えなかった。

「お前が持ってるのか」

「半分だけ」

「もう半分は」

「御厨」

病院近くのレンタルオフィスに、夜の明かりが残っていた。真白は薬剤の資料を整理し、澪は颯太の録音を何度も波形にしている。莉里はまだ自宅安静だったが、オンラインで画面の向こうにいた。

「じゃあ、結局できないじゃない」

莉里が言った。

「できる」

ヒカルは、テーブルの中央へ小型端末を置いた。

「御厨は、鍵を渡す気がある。条件を飲めるのなら」

音央の顔が冷たくなる。

「また取引するのか」

「今度は、俺一人じゃない」

「何を渡す」

「ゲームのコアへの正規アクセス」

「駄目だ」

音央は即答した。

「あそこに触らせない」

「触らせなければ、姉さんは戻らないかもしれない」

「戻っても、他の人はどうなる」

「それが何だ」

ヒカルの声が、初めて荒くなった。

部屋が静かになる。

「姉さんは三年眠っている。音央、お前は毎日そばにいて待てるのかもしれない。でも俺は、姉さんが目を開ける可能性を目の前に置かれて、手を放せと言われても手放せない」

「手を放せとは言ってない」

「同じだ」

ヒカルは机を叩きそうになり、寸前で手を止めた。

「俺が前に間違えたことはわかってる。力があれば、金があれば、姉さんを助けられると思った。だからパーフェクト・コードを欲しがった。今度は違う。これは実際に、姉さんを取り戻せる鍵なんだ」

「他の誰かを置き去りにしてもか」

「その誰かを助ける鍵が、今はない」


澪が、静かに立ち上がった。

「あります」

全員が彼女を見る。

「お兄ちゃんが言ってた。鍵が違うって」

澪は、颯太の録音を開いた。

「光さんだけを帰す鍵じゃない。お兄ちゃんたちは、別の鍵を待ってる。たぶん、戻るための鍵を」

「それはどこにある」

「分からない。でも、ないって決めていいんですか」

ヒカルは答えなかった。


その夜、音央は光の病室へ行った。

面会時間は終わっていたが、真白が黙って鍵を開けた。薄暗い部屋で、光は変わらず眠っている。モニターの数字は安定していた。

安定。

眠り続けることを、そう呼ぶのは正しいことなのだろうか。


「出口がある」

音央は椅子へ座った。

「お前だけなら、帰れるかもしれない」

光の手は温かい。

「俺も、本当は使いたい」

言葉にした瞬間、胸の奥が痛んだ。

「使って、起こしたい。お前が起きて、また何でもないことで笑って、朝の光を一緒に見たい」

窓の外には、夜しかなかった。

「でも、それでいいのか」

音央は、光の指を握った。

「俺が決めたら、また同じになる。お前のことを、お前の意思より先に決めることになる」


そのとき、光の指がかすかに動いた。

偶然かもしれない。

それでも音央は、息を止めた。

モニターが短く三回、長く一回、鳴った。

音央の携帯電話に、ゲームのログが届く。


「来て」


コア領域で、光は白い床に座っていた。

いつも立っている彼女が、今日はどこか疲れたように見える。

「音央」

「出口のこと、知ってるのか」

「うん」

「使えば、お前を起こせるかもしれない」

「かもしれない、でしょう」

「ヒカルはそう言ってる」

「ヒカルはそういうだろうね」

光は少しだけ笑った。

「助ける方法があるなら、誰より早く掴もうとする。優しいから。でも、優しい人ほど、怖いときに急ぐんだよ」

「俺も急いでいる」

「うん」


光は、白いひびの奥を見た。

遠くに無数の光がある。

ファンタズマル・アイランドがゼニスに直接影響を与えている。

それは光という特別な存在がピグマリオン病となったことで、ゼニスに干渉できるようになったおかげだ。

「ここにいる人たちの中には、帰りたくない人もいるかもしれない。帰る理由を忘れた人もいる。でも、それを私たちが勝手に決めていいとは思わない」

「お前は、どうしたい」

光は、すぐに答えなかった。


「帰りたい」

音央は顔を上げた。

「帰りたいよ。音央のいるところへ」

光の声は、震えていた。

「でも、私だけが帰るために、ほかの人の出口を失いたくない」

白い空間に、静かなノイズが走る。

「だから、探して」

「何を」

「みんなの出口を」

音央は、目を閉じた。

答えは、苦しいほど明確だった。


ゲームから戻ると、ヒカルが病室の外にいた。

音央は、何も言わずに彼の横を通り過ぎようとした。

「使わないのか」

ヒカルが聞く。

「使わない」

「姉さんがそう言ったのか」

「いや、俺がそう決めただけだ」


ヒカルは壁を見たまま、しばらく動かなかった。

「ずるいな」

「何が」

「姉さんは、いつも人に決定を委ねるんだ」

その声は笑っていたが、泣いているようにも聞こえた。

「それが姉さんの良いところでもあるんだけど」

ヒカルはポケットから、小さな記憶媒体を取り出した。

「これを使うのは、全員の出口を見つけたときだけだ」

「見つかると思うか」

「見つける。見つけるしかない」

ヒカルは言った。

「今度こそ、俺は間違わない」

病室の扉の向こうで、モニターが一定のリズムを刻んでいる。

眠る光と、眠る誰かたちが、同じ深い場所にいる。


音央たちは、まだ名前のない出口を探し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。