真実の歴史
さて、ここで三十年前の真実を記す。
魔王討伐の物語だ。
かつて、世界を救った英雄たちは謳われた。
魔王を討ち果たし、永劫の冬を終わらせた五人の勇者。その輝かしい武勇伝は教科書に刻まれ、ミスリル王国の礎となった。
――だが、正史の裏側にこそ、吐き気を催すような真実が隠されている。
三十年前。魔王城の最深部で起きたことは、詩歌に詠まれるような「仲間との絆」による勝利ではなかった。そこにあったのは、「一人の怪物」による、ただ一方的な蹂躙であった。
魔王討伐パーティの主軸、最強の魔女アリス。
彼女が放った極大魔法の一撃は、魔王の肉体を消滅させただけでなく、周囲の空間そのものを歪め、城の半分を地図から消し飛ばした。
背後で見ていたパーティメンバー――魔導士ラムー、同じく魔導士のシャーリー、クレア、そして戦士シドリーの四人は、歓喜ではなく、底知れない「恐怖」に震えていた。
(……この女は、魔王よりも恐ろしい)
彼らが抱いたのは、英雄への敬意ではなく、制御不能な力に対する本能的な拒絶だった。いつか自分たちにその銃口が向けられるのではないか。その猜疑心こそが、彼らを結託させた。
討伐から10年の月日が流れ、アリスは同じパーティメンバーであったシャーリーと結ばれ、アイナを授かった。しかし、その赤ん坊が宿していた魔力は、母を凌駕しかねないほどに膨大だった。
「アイナを守るためだ」
ラムーたちはそう嘯き、アリスに一つの提案をした。赤子の魔力を制御し、健やかに育てるための「魔導装置」が必要だと。
アリスと夫シャーリーは、固い絆で結ばれたはずの戦友たちを信じた。
自分の命と魔力を核とし、娘に呪いをかける儀式。それが、ラムーたちが仕掛けた完璧な罠であるとも知らずに。
計画は冷酷に進められた。
まず、アリスが儀式に集中し、その魔力を装置へと流し込み始めた隙を突き、ラムーたちは隣にいた夫シャーリーを背後から惨殺した。
愛する夫の死を目の当たりにし、激昂したアリスだったが、既に魔力の多くを装置に奪われ、さらに娘を守るための術式を中断することもできず、なす術もなく取り押さえられた。
装置を維持するためにすべての力を吸い尽くされたアリスは、そのまま二度と立ち上がることはなかった。
表向きには、**「夫シャーリーは不慮の事故で急逝し、最強の魔女アリスもまた、後を追うように産後の無理がたたり病死した」**という悲劇の美談として処理された。
彼らは、アリスの亡骸を聖女のように葬り、遺されたアイナを自分たちの管理下にある養護施設へ放り込んだ。そして、アイナのペンダントから漏れ出す魔力を、十八年もの間、吸い取り続けた。
平和を守るため。
自分たちが支配する、御しやすい世界を作るため。
魔法学校を設立し、校長となったラムー。
アイナを管理する目的で作られた養護施設、施設長クレア。
魔法学校の寮長シドリー。
最強の布陣ができあがり、ミスリルの歴史を動かした。
アイナが「無能」と蔑まれ、孤独に耐える日々を送っていたその裏側で、彼らはアイナから奪った魔力で更なる力の蓄積を愉しんでいたのである。
歴史は勝者によって作られる。
だが、彼らが踏みにじった「真実」に触れようとする2人が現れた。
死んだはずの魔王の魂を宿す少年と、愛する者を奪われた少女。
これからが真実の物語の幕開けである。




