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闇の胎動

月明かりすら届かない図書館裏の旧倉庫。錆びついた扉を蹴破り、リュウが飛び込んだ。


「アイナ!!」


埃の舞う暗がりの隅、アイナは手足を無造作に縄で縛られ、口を塞ぐ布に悲鳴を押し殺して横たわっていた。涙で濡れた大きな瞳がリュウを捉え、激しく揺れる。


「あいつら……どこだ!!」


リュウがアイナの拘束を力任せに引きちぎり、野獣のような咆哮を上げる。遅れて到着したジークは、周囲を一瞥して冷静に告げた。


「レムとサムなら、もう自宅だろうね。これは罠だったんだ。僕たちを立ち入り禁止区域へ誘い込み、退学に追い込むための口実として、彼女は監禁された」


「ふざけんな!! アイナをこんな目に遭わせて、自分たちだけ逃げおおせるつもりか!」


リュウの拳が壁を砕く。怒りで肩を震わせる彼を、ジークは静かになだめた。


「落ち着いて、リュウ。レムたちには校長先生から相応の処分が下るはずだ。……さあ、帰ろう。アイナさん、もう大丈夫だよ」


ジークは優しくアイナを抱き起こした。怯え、震え続ける彼女を守るようにして、ジークたちは寮まで見送った。



翌日の朝。教壇に立った教師により、レムとサムへの「一ヶ月間の停学処分」が言い渡された。


「いじめ、および監禁。これは退学に値する重大な違反だが、両名の反省の色と将来を鑑み、今回は停学とする。ただし、次はない。これが最終通告だ」





「一ヶ月だと!? ふざけるな、退学にしろよ!」


リュウが机を叩いて立ち上がる。クラスメイトたちの間にも、不穏なざわめきが広がった。


「えっ、監禁までして一ヶ月で戻ってこれるの……?」


「結局、実家が力を持ってる奴には甘いんだな」


「アイナが可哀想すぎるよ……」


こうなるとクラスメイトももはやアイナの味方だ。



「リュウ君、やめるんだ。決定は覆らない」


ジークが静かにリュウを制する中、レムとサムは顔を真っ赤にして泣き崩れ、教師に連れられて教室を後にした。


表面的には、悪意が去り、平和が戻った。


アイナはジークとリュウの隣で、ようやく安堵の吐息を漏らしていた。



だが、それはあまりにも短く、脆い平穏だった。





運命の翌朝。


教室に現れた校長ラムーの表情は、暗い影を落としていた。


「皆……落ち着いて聞いてほしい。非常に、残念な知らせがある」


校長の掠れた声が、静寂を切り裂いた。


「昨夜……リュウ君が、自宅で何者かに殺害された。現在、当局が調査中じゃ。」






一瞬、時が止まった。




「……え?」


誰かの震える声が、絶望の始まりだった。


「嘘……リュウが……死んだ?」


「殺されたって、誰に……まさか、あの二人じゃないのか!?」


「間違いない、レムとサムだ! 停学にされた逆恨みで、殺し屋でも雇ったんだ!」


「絶対許せない……! あいつら、アイナだけじゃなくてリュウまで!」



クラス中に怒りと憎悪が燃え広がる。昨日までレムたちを恐れていた生徒たちの口からも、激しい告発が次々と飛び出した。犯人はあの二人しかいない――その確信が教室を支配した。



「憶測はいかん。現在調査中じゃ。」



校長は一言だけ告げ、去っていった。



「嫌……。嘘だよ、リュウ君……っ!」



アイナは椅子から転げ落ち、喉を詰まらせて泣き崩れた。ようやく掴みかけた、ジークと同じ初めての友達。自分を守ると言ってくれた、不器用で優しい少年。その彼が冷たい骸になったという現実を、彼女の心は拒絶した。


ジークは床に膝をつき、泣き叫ぶアイナを背後から静かに抱き寄せた。


「……アイナさん、しっかりして」


その声はどこまでも穏やかだった。


だが、その背中に隠されたジークの瞳は、これまでにない漆黒の殺気を湛えていた。


彼の周囲の空気が、目に見えぬほどの高熱を帯びて歪む。



これから先は戦争になる。



ジークはそう確信していた。

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