第8話 「初めて“観測で操作した”」
森に入った瞬間、空気が変わった。
重い。
湿っている。
そして――
明確な“敵意”。
【ログ】
対象:周囲
状態:高危険領域
「……ここ、軽く死ねるな」
「はい」
リシアは迷いなく頷いた。
「実戦です」
「雑に言うな」
「安全な場所では意味がないので」
淡々とした声。
本気で試している。
「……死ぬなよ」
「その時はあなたも一緒です」
「だろうな」
小さく笑う。
その時。
――ガサッ。
来た。
【ログ】
対象:前方
数:3
種類:狼型魔物(強個体)
状態:包囲
「……三体かよ」
しかも強い。
完全に囲まれている。
「……どうするんですか?」
リシアの声。
試している。
「……やるしかねえだろ」
構えた瞬間。
――速い。
【ログ】
対象:魔物A
行動:突進(高速)
「……っ!」
半歩ズラす。
ギリギリで回避。
だが――
【ログ】
対象:魔物B
行動:側面攻撃
「チッ!」
間に合わない。
腕に衝撃。
「ぐっ……!」
浅いが、当たった。
「……遅いです」
リシアの声。
「見えてるだけでは足りません」
「……分かってる」
吐き捨てる。
囲まれてる。
速い。
強い。
普通なら終わりだ。
だが――
「……見えてる」
動き。
位置。
全部見えてる。
だったら。
「……変える」
“次”を見る。
【ログ】
対象:魔物A
状態:未確定
次動作:着地
確定前。
そこに触れる。
ズラす。
「――ッ!」
足の位置が狂う。
着地失敗。
体勢が崩れる。
「……いい」
成功。
だが――
【ログ】
対象:自分
状態:不安定
反動。
重い。
「……制御してください」
「一点に絞る」
「……分かってる」
呼吸を整える。
次。
【ログ】
対象:魔物B
状態:未確定
横から来る。
避けるか?
――違う。
「……そこじゃない」
狙うのは、“関係”。
【ログ】
対象:魔物B
思考:敵
対象:魔物C
思考:競合
ズレている。
だったら。
そこを押す。
ほんの少し。
ズラす。
「――ッ!」
二体の軌道が歪む。
互いに衝突。
――ドンッ!!
噛みつき合う。
暴れる。
「……マジかよ」
思わず笑う。
だが。
まだ一体いる。
【ログ】
対象:魔物A
行動:再突進
「……来るか」
真正面。
避ける?
ズラす?
違う。
「……動かす」
初めて意識する。
“結果”じゃない。
“流れ”を。
【ログ】
対象:魔物A
状態:未確定
全動作:可変
全部が揺れている。
その中から――
一つ選ぶ。
「……これだ」
意識を集中する。
そして。
押す。
ズラす。
「――ッ!!!」
魔物の動きが狂う。
突進の軌道が変わる。
そのまま――
他の魔物へ。
――ドゴォッ!!
三体、まとめて崩れる。
動かない。
終わりだ。
「……は」
息が抜ける。
今のは――
完全に。
“操作した”。
「……それです」
リシアの声。
振り向く。
その目は、明確に変わっていた。
「今のが“観測の本質”です」
「……見てるだけじゃねえな」
「はい」
「動かしてる」
確信に変わる。
その瞬間。
【ログ】
対象:周囲
状態:不整合拡大
「……ッ」
来た。
今までより重い。
視界が崩れる。
音が消える。
【ログ】
対象:自分
状態:存在不安定(高)
「……戻ってください!」
「意識を固定!」
「……くそ……!」
自分を掴む。
ここにいる。
消えるな。
戻れ――
【ログ】
対象:自分
状態:安定化
「――ッ!!」
世界が戻る。
「……はあ……」
膝をつく。
「……やりすぎです」
リシアの声。
だが、その目は――
警戒と、興味。
「……でも」
小さく笑う。
「できるな」
「……はい」
一拍。
「ただし」
静かに言う。
「それ以上は、“修正されます”」
その瞬間。
【最上位ログ】
観測対象:干渉源特定
状態:追跡開始
「……は?」
空気が凍る。
今までと違う。
完全に。
“敵の反応”。
「……来ます」
リシアが低く言う。
「何がだ」
一拍。
「“管理側”です」
理解した。
これは。
もう遊びじゃない。
「……面白えな」
小さく笑う。
止まる理由にはならない。
その感覚だけが、強く残った。




