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ログで世界を支配する〜追放された俺、観測能力で最強国家を作り直す〜  作者: イケメン☆スーツ
第1章 無能と追放された俺、世界の“ログ”に触れる
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第8話 「初めて“観測で操作した”」


 森に入った瞬間、空気が変わった。

 

 重い。

 

 湿っている。

 

 土と腐葉土の匂いが、肺の奥に沈む。

 

 

 街の外れとは違う。

 

 

 ここには、生活の音がない。

 

 

 人の声も。

 

 荷車の車輪も。

 

 遠くの鐘の音も。

 

 

 全部、森の手前で切れていた。

 

 

 代わりにあるのは、葉擦れの音。

 

 湿った地面を踏む音。

 

 どこかで落ちる水滴の音。

 

 

 そして。

 

 

 明確な“敵意”。

 

 

【ログ】

対象:周囲

状態:高危険領域

 

 

 頭の奥に浮かぶ文字。

 

 前よりもはっきり読める。

 

 それが嫌だった。

 

 

 見えるようになっている。

 

 

 慣れてきている。

 

 

 こんなものに。

 

 

「……ここ、軽く死ねるな」

 

 

 小さく呟く。

 

 

「はい」

 

 

 リシアは迷いなく頷いた。

 

 

「実戦です」

 

 

「雑に言うな」

 

 

「安全な場所では意味がないので」

 

 

 淡々とした声。

 

 でも、軽く言っているわけではない。

 

 

 リシアは森の奥を見ていた。

 

 

 何かを探すように。

 

 何かを待つように。

 

 

 白い髪が、湿った風に揺れる。

 

 

「……死ぬなよ」

 

 

 自分でも、少し変な言い方だと思った。

 

 

 でも、出た。

 

 

 リシアは少しだけこちらを見る。

 

 

「その時は、あなたも一緒です」

 

 

「だろうな」

 

 

 小さく笑う。

 

 

 冗談に聞こえた。

 

 でも、多分。

 

 完全な冗談じゃない。

 

 

 この森で判断を間違えれば。

 

 

 普通に死ぬ。

 

 

 その時だった。

 

 

 ――ガサッ。

 

 

 濡れた草が揺れた。

 

 

 音は小さい。

 

 

 でも、はっきり分かった。

 

 

 来た。

 

 

【ログ】

対象:前方

数:3

種類:狼型魔物・強個体

状態:包囲

 

 

「……三体かよ」

 

 

 声が低くなる。

 

 

 正面。

 

 左。

 

 右奥。

 

 

 木々の間から、影が滲むように出てくる。

 

 

 狼。

 

 

 ただの狼じゃない。

 

 

 体が大きい。

 

 肩の筋肉が異様に張っている。

 

 濡れた毛の隙間から、黒い筋のようなものが浮いている。

 

 

 目が赤い。

 

 

 こっちを見ている。

 

 

 食うためじゃない。

 

 

 殺すための目。

 

 

「……どうするんですか?」

 

 

 後ろでリシアが言う。

 

 

 試している。

 

 

 助けるつもりがないわけじゃない。

 

 でも。

 

 今は、俺にやらせるつもりだ。

 

 

「……やるしかねえだろ」

 

 

 構えた瞬間。

 

 

 正面の一体が消えた。

 

 

「――速い」

 

 

【ログ】

対象:魔物A

行動:突進・高速

 

 

 表示より先に、体が反応する。

 

 

 半歩。

 

 

 ズラす。

 

 

 地面の位置。

 

 踏み込む先。

 

 自分の体。

 

 

 全部を無理やり噛み合わせる。

 

 

 爪が、顔のすぐ横を抜けた。

 

 

 風圧で頬が切れる。

 

 

「……っ!」

 

 

 ギリギリ。

 

 

 避けた。

 

 

 だが。

 

 

【ログ】

対象:魔物B

行動:側面攻撃

 

 

「チッ!」

 

 

 間に合わない。

 

 

 左から来る。

 

 

 速い。

 

 

 腕を上げる。

 

 

 衝撃。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 浅い。

 

 

 だが、当たった。

 

 

 腕に熱が走る。

 

 皮膚が裂ける。

 

 血が滲む。

 

 

 痛みが遅れて来る。

 

 

「……遅いです」

 

 

 リシアの声。

 

 

 静か。

 

 でも、甘くない。

 

 

「見えてるだけでは足りません」

 

 

「……分かってる」

 

 

 吐き捨てる。

 

 

 囲まれている。

 

 速い。

 

 強い。

 

 

 普通なら終わりだ。

 

 

 だが。

 

 

「……見えてる」

 

 

 動き。

 

 位置。

 

 タイミング。

 

 

 全部見えている。

 

 

 見えるだけでは足りない。

 

 

 なら。

 

 

 変えればいい。

 

 

「……変える」

 

 

 “次”を見る。

 

 

 正面の魔物が着地する。

 

 

 その直前。

 

 

 足が地面に触れる前。

 

 

 まだ決まっていない場所。

 

 

【ログ】

対象:魔物A

状態:未確定

次動作:着地

 

 

 見えた。

 

 

 確定前。

 

 

 そこに触れる。

 

 

 触れた瞬間、頭の奥が冷える。

 

 

 気持ち悪い。

 

 

 でも、もう目は逸らさない。

 

 

 そこだけを。

 

 

 ほんの少し。

 

 

 ズラす。

 

 

「――ッ!」

 

 

 魔物の足の位置が狂った。

 

 

 着地の角度が変わる。

 

 爪が湿った土を抉る。

 

 重心がずれる。

 

 

 体勢が崩れる。

 

 

 巨体が、木の根に肩から突っ込んだ。

 

 

「……いい」

 

 

 成功。

 

 

 だが。

 

 

【ログ】

対象:自分

状態:不安定

 

 

 反動。

 

 

 重い。

 

 

 視界の端が滲む。

 

 

 自分の足元が、ほんの少し遠く感じる。

 

 

「……制御してください」

 

 

 リシアの声が飛ぶ。

 

 

「一点に絞る」

 

 

「……分かってる」

 

 

 呼吸を整える。

 

 

 次。

 

 

 左。

 

 

 いや。

 

 

 右奥。

 

 

 二体が同時に動く。

 

 

【ログ】

対象:魔物B

状態:未確定

 

 

 横から来る。

 

 

 避けるか。

 

 

 違う。

 

 

 避けるだけなら、次で詰む。

 

 

 狙うのは、動きそのものじゃない。

 

 

 “関係”。

 

 

 奴らが互いをどう見ているか。

 

 

 どこを避けるか。

 

 

 どこに踏み込むか。

 

 

 ほんのわずかなズレ。

 

 

【ログ】

対象:魔物B

認識:敵

対象:魔物C

認識:競合

 

 

 見えた。

 

 

 完全な連携じゃない。

 

 

 互いに邪魔をしないように、微妙に距離を取っている。

 

 

 そこに、ズレがある。

 

 

 だったら。

 

 

 そこを押す。

 

 

 ほんの少し。

 

 

 ほんの少しだけ。

 

 

 ズラす。

 

 

「――ッ!」

 

 

 二体の軌道が歪む。

 

 

 片方が踏み込みすぎる。

 

 もう片方が避けそこなう。

 

 

 肩同士がぶつかる。

 

 

 ――ドンッ!!

 

 

 鈍い音。

 

 

 牙が空を噛む。

 

 爪が互いの毛を裂く。

 

 

 二体が絡まる。

 

 

 噛みつき合う。

 

 

 暴れる。

 

 

「……マジかよ」

 

 

 思わず笑う。

 

 

 やれる。

 

 

 これは使える。

 

 

 だが。

 

 

 まだ一体。

 

 

 最初に体勢を崩した魔物が、もう立ち上がっていた。

 

 

 速い。

 

 

 頑丈すぎる。

 

 

【ログ】

対象:魔物A

行動:再突進

 

 

「……来るか」

 

 

 真正面。

 

 

 避けるか。

 

 

 ズラすか。

 

 

 いや。

 

 

 違う。

 

 

 今なら、もっと見える。

 

 

 着地だけじゃない。

 

 

 足。

 

 肩。

 

 呼吸。

 

 目線。

 

 牙。

 

 

 その全部が、確定する前に揺れている。

 

 

「……動かす」

 

 

 初めて、そう意識した。

 

 

 “結果”じゃない。

 

 

 “流れ”。

 

 

【ログ】

対象:魔物A

状態:未確定

全動作:可変

 

 

 全部が揺れている。

 

 

 いくつもの可能性。

 

 

 右に避ける。

 

 左へ跳ぶ。

 

 止まる。

 

 加速する。

 

 噛みつく。

 

 

 まだ、決まっていない。

 

 

 その中から。

 

 

 一つ選ぶ。

 

 

「……これだ」

 

 

 意識を集中する。

 

 

 頭の奥が軋む。

 

 

 鼻の奥に血の味がした。

 

 

 でも、止めない。

 

 

 押す。

 

 

 ズラす。

 

 

「――ッ!!!」

 

 

 魔物の動きが狂う。

 

 

 突進の軌道が変わる。

 

 

 あり得ない角度で体が流れる。

 

 

 そのまま。

 

 

 絡み合っていた二体の方へ。

 

 

 ――ドゴォッ!!

 

 

 肉と骨がぶつかる鈍い音。

 

 

 三体がまとめて崩れた。

 

 

 湿った土が跳ねる。

 

 折れた枝が飛ぶ。

 

 葉が落ちる。

 

 

 しばらく。

 

 

 動かない。

 

 

「……は」

 

 

 息が抜ける。

 

 

 今のは。

 

 

 完全に。

 

 

 “操作した”。

 

 

 見ただけじゃない。

 

 

 避けただけじゃない。

 

 

 結果を押した。

 

 

 流れを変えた。

 

 

「……それです」

 

 

 リシアの声。

 

 

 振り向く。

 

 

 その目は、さっきまでと違っていた。

 

 

 警戒。

 

 評価。

 

 そして、わずかな驚き。

 

 

「今のが“観測の本質”です」

 

 

「……見てるだけじゃねえな」

 

 

「はい」

 

 

「動かしてる」

 

 

 確信に変わる。

 

 

 その瞬間。

 

 

【ログ】

対象:周囲

状態:不整合拡大

 

 

「……ッ」

 

 

 来た。

 

 

 今までより重い。

 

 

 視界が崩れる。

 

 

 音が消える。

 

 

 森が遠くなる。

 

 

 自分の手が、薄く見えた。

 

 

【ログ】

対象:自分

状態:存在不安定・高

 

 

「戻ってください!」

 

 

 リシアの声。

 

 

「意識を固定!」

 

 

「……くそ……!」

 

 

 自分を掴む。

 

 

 ここにいる。

 

 

 消えるな。

 

 

 戻れ。

 

 

 戻れ――

 

 

【ログ】

対象:自分

状態:安定化

 

 

「――ッ!!」

 

 

 世界が戻る。

 

 

 音。

 

 湿った空気。

 

 土の匂い。

 

 傷の痛み。

 

 

 全部が一気に戻ってきた。

 

 

「……はあ……」

 

 

 膝をつく。

 

 

 汗が落ちる。

 

 

 呼吸が乱れている。

 

 

「……やりすぎです」

 

 

 リシアの声。

 

 

 だが、その目は。

 

 

 警戒と、興味。

 

 

「……でも」

 

 

 小さく笑う。

 

 

「できるな」

 

 

 リシアはすぐには答えなかった。

 

 

 倒れた魔物。

 

 荒れた地面。

 

 そして、俺の手元。

 

 

 順に見る。

 

 

「……はい」

 

 

 一拍。

 

 

「ただし」

 

 

 静かに言う。

 

 

「それ以上は、“修正されます”」

 

 

 その瞬間。

 

 

【最上位ログ】

観測対象:干渉源特定

状態:追跡開始

 

 

「……は?」

 

 

 空気が凍る。

 

 

 今までと違う。

 

 

 完全に。

 

 

 “敵の反応”。

 

 

 森の奥。

 

 

 何かが、こちらを見た気がした。

 

 

「……来ます」

 

 

 リシアが低く言う。

 

 

「何がだ」

 

 

 一拍。

 

 

「“管理側”です」

 

 

 理解した。

 

 

 これは。

 

 

 もう遊びじゃない。

 

 

 なのに。

 

 

「……面白えな」

 

 

 小さく笑う。

 

 

 止まる理由にはならない。

 

 

 その感覚だけが、強く残った。

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