表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログで世界を支配する〜追放された俺、観測能力で最強国家を作り直す〜  作者: イケメン☆スーツ
第1章 無能と追放された俺、世界の“ログ”に触れる
7/57

第7話 「観測に触れた瞬間、世界が壊れかけた」


 街の外れは、静かだった。

 

 人の声が遠い。

 

 建物が減る。

 

 石畳が途切れる。

 

 踏み固められた土に変わる。

 

 

 風が吹いた。

 

 

 空き地の端に積まれた鉄板が、小さく鳴る。

 

 

 耳障りな音だった。

 

 

 空が暗い。

 

 

 夕方はもう終わりかけている。

 

 

 街灯も少ない。

 

 

 人気もない。

 

 

 いや。

 

 

 “普通の人間”が近寄らない場所、という感じがした。

 

 

 歩きながら、ずっと嫌な感覚が残っている。

 

 

 頭の奥。

 

 

 まだ何かが引っかかっていた。

 

 

 切れた感覚。

 

 

 あの時。

 

 

 空間がズレた、一瞬。

 

 

 思い出そうとすると、気持ち悪くなる。

 

 

 そこだけ綺麗に抜け落ちている。

 

 

 なのに。

 

 

 感覚だけ残っていた。

 

 

 寒気みたいに。

 

 

 皮膚の内側に。

 

 

「……ここです」

 

 

 前を歩いていたリシアが止まる。

 

 

 振り返る。

 

 

 白い髪が風に揺れた。

 

 

 薄暗い。

 

 

 周囲に建物はない。

 

 

 崩れた壁。

 

 

 廃材。

 

 

 古い井戸。

 

 

 昔は何かあったのかもしれない。

 

 

 でも今は、何もない。

 

 

 静かだった。

 

 

 静かすぎる。

 

 

【ログ】

対象:周囲

状態:観測干渉なし

 

 

 頭の奥に文字が浮かぶ。

 

 

 ノイズ混じり。

 

 

 でも、前より読める。

 

 

 慣れてきている。

 

 

 その事実が妙に気持ち悪かった。

 

 

「……いい場所だな」

 

 

 小さく呟く。

 

 

 リシアが頷いた。

 

 

「多少ズラしても、補正が遅れます」

 

 

「“多少”な」

 

 

 息を吐く。

 

 

 忘れていない。

 

 

 あの感覚。

 

 

 空間が裂けた、あの瞬間。

 

 

 地面が消えた。

 

 

 いや。

 

 

 “世界そのものが噛み合わなくなった”。

 

 

 あれは。

 

 

 本能で分かる。

 

 

 死ぬ。

 

 

 しかも普通じゃない。

 

 

 “存在ごと消える”。

 

 

 そんな感覚だった。

 

 

 風が吹く。

 

 

 冷たい。

 

 

 汗が少し冷える。

 

 

 リシアは黙ったまま、こちらを見ていた。

 

 

 観察している。

 

 

 そういう目だった。

 

 

「……本気でやる気か」

 

 

「はい」

 

 

 即答だった。

 

 

 迷いがない。

 

 

 その答え方が、少しだけ腹立たしい。

 

 

「お前、簡単に言うよな」

 

 

「簡単ではありません」

 

 

 静かな声。

 

 

「ただ、止まっても意味がないだけです」

 

 

「……」

 

 

 返事が出ない。

 

 

 確かにそうだ。

 

 

 今さら普通には戻れない。

 

 

 あのログ。

 

 

 あの感覚。

 

 

 もう見えてしまっている。

 

 

 だったら。

 

 

 知らないふりの方が無理だった。

 

 

「……やるぞ」

 

 

 目を閉じる。

 

 

 呼吸を整える。

 

 

 風。

 

 

 鉄板の軋む音。

 

 

 遠くの街の喧騒。

 

 

 全部を落としていく。

 

 

 沈める。

 

 

 深く。

 

 

 静かに。

 

 

 頭の奥へ。

 

 

 沈む。

 

 

 少しずつ。

 

 

 感覚が変わる。

 

 

 景色が遠い。

 

 

 音が薄い。

 

 

 代わりに。

 

 

 別のものが見えてくる。

 

 

【ログ】

対象:地面

状態:固定

 

 

「……違う」

 

 

 浅い。

 

 

 表面だけだ。

 

 

 もっと奥。

 

 

 もっと深く。

 

 

「その先です」

 

 

 リシアの声。

 

 

 遠い。

 

 

「固定された後じゃない」

 

 

「揺らぐ前を見る」

 

 

「……簡単に言うなよ」

 

 

 吐き捨てる。

 

 

 だが。

 

 

 感覚は分かる。

 

 

 今見えているのは、“完成した後”だ。

 

 

 もっと前。

 

 

 確定する前。

 

 

 そこを見ろってことだ。

 

 

 意識を沈める。

 

 

 もっと。

 

 

 深く。

 

 

 頭の奥が冷える。

 

 

 気持ち悪い。

 

 

 なのに。

 

 

 妙に馴染む。

 

 

【ログ】

対象:地面

状態:未確定

変化:揺らぎ

 

 

「――ッ」

 

 

 見えた。

 

 

 揺れている。

 

 

 景色が。

 

 

 地面が。

 

 

 空間が。

 

 

 固定されていない。

 

 

 曖昧だ。

 

 

 薄い。

 

 

 まだ、“決まりきっていない”。

 

 

「……これか」

 

 

 小さく呟く。

 

 

 頭が少し痛む。

 

 

 でも。

 

 

 前よりはっきりしている。

 

 

「それが“確定前”です」

 

 

 リシアの声。

 

 

 今はそれどころじゃない。

 

 

 視界の奥。

 

 

 世界の継ぎ目みたいなものが見えている。

 

 

 気持ち悪い。

 

 

 なのに。

 

 

 目を逸らせない。

 

 

 理解した瞬間、終わる。

 

 

 そんな気がした。

 

 

「……触れる」

 

 

 手を伸ばす。

 

 

 集中する。

 

 

 一点。

 

 

 そこだけ。

 

 

 他は全部捨てる。

 

 

 音。

 

 

 景色。

 

 

 呼吸。

 

 

 全部。

 

 

 削ぎ落としていく。

 

 

 そこだけを――

 

 

 ズラす。

 

 

 瞬間。

 

 

【ログ】

対象:空間

状態:不整合

警告:臨界接近

 

 

「――ッ!!」

 

 

 視界が裂けた。

 

 

 空気が消える。

 

 

 重力がズレる。

 

 

 地面が消えた。

 

 

 いや。

 

 

 違う。

 

 

 “世界の位置が噛み合わなくなる”。

 

 

 景色が滑る。

 

 

 空が落ちる。

 

 

 上下が消える。

 

 

 吐き気。

 

 

 耳鳴り。

 

 

 音が遠い。

 

 

 気持ち悪い。

 

 

 自分の輪郭が薄れる。

 

 

 どこに立っているのか分からない。

 

 

 怖い。

 

 

 なのに。

 

 

 手を止めたくなかった。

 

 

 もっと触れたい。

 

 

 もっと深く。

 

 

 その瞬間。

 

 

「やめてください!!」

 

 

 鋭い声。

 

 

 肩を強く引かれる。

 

 

 次の瞬間。

 

 

【ログ】

対象:空間

状態:補正中

 

 

 世界が戻る。

 

 

 空気。

 

 

 重力。

 

 

 景色。

 

 

 全部、一気に現実へ戻ってきた。

 

 

「……は……ッ」

 

 

 呼吸が荒い。

 

 

 肺が痛い。

 

 

 心臓が暴れている。

 

 

 視界が揺れていた。

 

 

 リシアが目の前にいる。

 

 

 珍しく、はっきり怒っていた。

 

 

「……今、何をしたか分かってますか」

 

 

 低い声。

 

 

 冷たい。

 

 

 明確な怒気。

 

 

 初めてだった。

 

 

 こいつがここまで感情を出すのは。

 

 

「……ズラしただけだろ」

 

 

「違います」

 

 

 即答。

 

 

「崩しかけました」

 

 

 一歩詰めてくる。

 

 

「空間の整合性です」

 

 

「……は?」

 

 

「あと一歩で、戻らなかった」

 

 

 その瞬間。

 

 

【ログ】

対象:自分

状態:消失危険

 

 

 背筋が冷える。

 

 

 ……確かに。

 

 

 あの瞬間。

 

 

 戻れなかった。

 

 

 感覚だけは残っている。

 

 

 世界から、自分の位置がズレる感覚。

 

 

 存在が薄れる感覚。

 

 

 あれは。

 

 

 本当に危なかった。

 

 

「……チッ」

 

 

 舌打ちする。

 

 

「……じゃあどうすりゃいい」

 

 

 リシアは少し黙った。

 

 

 怒りを抑えるみたいに。

 

 

 そして。

 

 

「選んでください」

 

 

「……何を」

 

 

「範囲です」

 

 

 一拍。

 

 

「全部をズラさない」

 

 

「一点だけに絞る」

 

 

「……」

 

 

 なるほどな。

 

 

 雑に触ると壊れる。

 

 

 だったら。

 

 

 削る。

 

 

 狙いを絞る。

 

 

「……もう一回やる」

 

 

 リシアが目を細めた。

 

 

「やるなら、制御してください」

 

 

「できなかったら?」

 

 

「止めます」

 

 

 即答。

 

 

 信用じゃない。

 

 

 監視だ。

 

 

 思わず笑いそうになる。

 

 

「……上等だ」

 

 

 目を閉じる。

 

 

 もう一度、“見る”。

 

 

 今度は沈みすぎない。

 

 

 深く。

 

 

 でも、落ちきらない。

 

 

 ギリギリを保つ。

 

 

【ログ】

対象:地面

状態:未確定

揺らぎ:安定

 

 

 さっきより、はっきり見える。

 

 

 揺らぎ。

 

 

 可能性。

 

 

 世界が固定される前の、曖昧な状態。

 

 

 その中から。

 

 

 一点だけ選ぶ。

 

 

 狭く。

 

 

 深く。

 

 

 そこだけ。

 

 

「……ここだ」

 

 

 集中する。

 

 

 他は捨てる。

 

 

 ズラす。

 

 

 ほんの少しだけ。

 

 

【ログ】

対象:一点

状態:変位成功

 

 

「……ッ」

 

 

 空間が歪む。

 

 

 だが。

 

 

 崩れない。

 

 

 維持されている。

 

 

 世界が裂けていない。

 

 

「……できた」

 

 

 息を吐く。

 

 

 成功だ。

 

 

 だが。

 

 

 その瞬間。

 

 

【ログ】

対象:自分

状態:存在不安定

 

 

「――ッ!?」

 

 

 視界が揺れる。

 

 

 音が遠い。

 

 

 手が薄れる。

 

 

 いや。

 

 

 “自分の輪郭が曖昧になる”。

 

 

 存在が、世界から浮く。

 

 

 怖い。

 

 

 消える。

 

 

「戻ってください!!」

 

 

 リシアの声。

 

 

「意識を固定!」

 

 

「……くそ……!」

 

 

 自分を掴む。

 

 

 ここにいる。

 

 

 存在している。

 

 

 消えるな。

 

 

 戻れ。

 

 

 戻れ――

 

 

【ログ】

対象:自分

状態:安定化

 

 

「――ッ!!」

 

 

 世界が戻る。

 

 

 呼吸。

 

 

 重力。

 

 

 音。

 

 

 全部、一気に現実へ戻ってくる。

 

 

「……はぁ……ッ」

 

 

 膝をつく。

 

 

 汗が落ちる。

 

 

 心臓がうるさい。

 

 

 吐きそうだった。

 

 

「……成功です」

 

 

 リシアの声。

 

 

 だが。

 

 

 その目は硬い。

 

 

「……成功って顔じゃねえな」

 

 

「当然です」

 

 

 一拍。

 

 

「今のは“危険な成功”です」

 

 

「……」

 

 

 分かる。

 

 

 あれは。

 

 

 ギリギリだった。

 

 

 あと少しズレていたら。

 

 

 本当に戻れなかった。

 

 

 なのに。

 

 

 胸の奥では、別の感情が熱を持っていた。

 

 

 怖い。

 

 

 でも。

 

 

 面白い。

 

 

 その瞬間。

 

 

 頭の奥がざわついた。

 

 

 今までと違う。

 

 

 “重さ”。

 

 

 圧。

 

 

 ノイズ。

 

 

【最上位ログ】

観測対象:存在誤差

状態:補正不能

 

 

「……は?」

 

 

 息が止まる。

 

 

 今までのログと違う。

 

 

 明らかに“上”。

 

 

 見た瞬間、本能が警告する。

 

 

 見るな、と。

 

 

「……見えてますか」

 

 

 リシアの声。

 

 

 わずかに緊張している。

 

 

 初めてだった。

 

 

 こいつが、ここまで警戒しているのは。

 

 

「……ああ」

 

 

 喉が乾く。

 

 

 嫌な予感しかしない。

 

 

「……これ以上は」

 

 

 リシアが小さく呟く。

 

 

「“修正されます”」

 

 

【不明ログ】

処理:監視強化

対象:観測者

 

 

 理解した。

 

 

 これは。

 

 

 使っていい力じゃない。

 

 

 世界そのものに睨まれている。

 

 

 なのに。

 

 

 笑ってしまった。

 

 

「……面白えな」

 

 

 止まる理由にはならない。

 

 

 その感覚だけが、妙に鮮明に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ