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第56話 「深慮」


 近い。

 

 振り向かなくても分かる。

 

 背中に、張り付いてくる。

 

 

【ログ】

対象:不明

状態:接触圏内

 

 

「……っ」

 

 

 呼吸が浅くなる。

 

 

 走ってるのに、距離が離れない。

 

 

 むしろ、詰まってる。

 

 

 

「……リオン」

 

 

 横から声。

 

 

 リシア。

 

 

 息が乱れていない。

 

 

 

「このままだと、追いつかれる」

 

 

「分かってる」

 

 

 短く返す。

 

 

 

 分かってる。

 

 

 でも、それだけだ。

 

 

 

 頭の奥に、別のものが残ってる。

 

 

 ――やめろ

 

 

 あのログ。

 

 

 意味は分からない。

 

 

 でも、消えない。

 

 

 

「……くそ」

 

 

 

 邪魔だ。

 

 

 今じゃない。

 

 

 

「……なあ」

 

 

 

 足を少しだけ緩める。

 

 

 

「一回、叩く」

 

 

 

「やめて」

 

 

 

 間を置かない。

 

 

 

「通らない」

 

 

 

「やってみねえと――」

 

 

 

「分かる」

 

 

 

 被せてくる。

 

 

 

 強い。

 

 

 

「今のあなたじゃ、届かない」

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 言葉が止まる。

 

 

 

 分かってる。

 

 

 

 さっきのは、偶然に近い。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 このまま逃げ続けるのも――

 

 

 

「……このまま終わる気かよ」

 

 

 

 思わず出る。

 

 

 

 声が荒くなる。

 

 

 

 

「終わらせない」

 

 

 

 リシアが言う。

 

 

 

 低く。

 

 

 

「時間を作る」

 

 

 

「どうやって」

 

 

 

「……止める」

 

 

 

 一拍。

 

 

 

「少しだけ」

 

 

 

「……無理だろ」

 

 

 

「無理でもやる」

 

 

 

 迷いがない。

 

 

 

「じゃないと、考えられない」

 

 

 

 

 その言葉で。

 

 

 

 一瞬だけ、冷える。

 

 

 

 

 考える。

 

 

 

 

 それが、今一番足りてない。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 歯を噛む。

 

 

 

 苛立ちは消えない。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 分かる。

 

 

 

 

「……分かった」

 

 

 

 吐き出す。

 

 

 

「時間、作れ」

 

 

 

「作る」

 

 

 

 

【ログ】

対象:不明

状態:接触

 

 

 

 来る。

 

 

 

 空気が歪む。

 

 

 

 リシアが前に出る。

 

 

 

 逃げる動きじゃない。

 

 

 

 止める動き。

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 衝撃。

 

 

 

 見えないまま、ぶつかる。

 

 

 

 受ける。

 

 

 

 流す。

 

 

 

 

「……はやい」

 

 

 

 小さく呟く。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 それだけじゃない。

 

 

 

 

 もう一撃。

 

 

 

 避ける。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 避けたはずの場所に、来る。

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 一瞬、反応が遅れる。

 

 

 

 

「……当たってない」

 

 

 

 リシアが言う。

 

 

 

 

「……でも」

 

 

 

 

 そこで止まる。

 

 

 

 

 続けない。

 

 

 

 

「……何がだよ」

 

 

 

 

「……違う」

 

 

 

 

 小さく。

 

 

 

 

「……今の」

 

 

 

 

 また一撃。

 

 

 

 受ける。

 

 

 

 今度は浅い。

 

 

 

 

「……同じ」

 

 

 

 

「何が」

 

 

 

 

「……分からない」

 

 

 

 

 即答。

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 目は止まってない。

 

 

 

 

 ずっと見てる。

 

 

 

 

 動き。

 

 

 

 ズレ。

 

 

 

 当たり方。

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 今度は遅れる。

 

 

 

 衝撃。

 

 

 

 体勢が崩れる。

 

 

 

 

「リシア!」

 

 

 

 

「……大丈夫」

 

 

 

 

 短く返す。

 

 

 

 でも、余裕はない。

 

 

 

 

「……もう少し」

 

 

 

 

 息が荒い。

 

 

 

 

「時間……」

 

 

 

 

 踏み込む。

 

 

 

 無理やり。

 

 

 

 

「……分かりかけてる」

 

 

 

 

 小さく呟く。

 

 

 

 

「……あと、少し」

 

 

 

 

 その言葉だけが。

 

 

 

 

 残った。

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