第57話 「歪変」
来る。
分かる。
見えなくても、分かる。
【ログ】
対象:不明
状態:接近
背中じゃない。
もう、正面だ。
「……っ」
リオンが踏み込む。
逃げるのをやめる。
避けるんじゃなく、合わせにいく。
でも。
合わない。
外したはずの軌道に、遅れて衝撃が来る。
肩に重み。
ズレている。
「……またかよ」
歯噛みする。
何度目か分からない違和感。
当たっている。
でも、当たっていない。
その中間。
そんなもの、あるはずがないのに。
「……リオン」
横から声。
リシア。
息は乱れていない。
でも、動きが変わっている。
見ている。
ずっと。
「……何だよ」
「……もう一回」
小さく呟く。
「は?」
「いいから」
短い。
それだけで、リオンの動きが止まる。
言い返す余裕がない。
次が来る。
「……来る」
その瞬間。
空気が歪む。
今度は。
リシアが前に出る。
逃げない。
正面から。
「……っ」
衝撃。
受ける。
流す。
遅れて。
もう一段、来る。
「……」
目が細くなる。
同じ。
今のも。
「……二回」
小さく呟く。
でも、違う。
回数じゃない。
「……何だよ、それ……」
リオンが吐き出す。
「分かるように言え」
「……分からない」
即答。
でも。
「同じ動きしてる」
一拍。
「……全部」
それだけ。
「……は?」
意味が分からない。
でも。
次が来る。
【ログ】
対象:不明
状態:接触
今度は、二人同時に動く。
リシアが合わせる。
リオンがズラす。
それでも。
当たる。
「……っ!」
衝撃。
腕が重い。
「……くそ!」
理解が追いつかない。
でも。
リシアは見ている。
止まらない。
「……一回、離れる」
急に言う。
「は?」
「今じゃない」
短く。
そのまま距離を取る。
【ログ】
対象:不明
状態:追跡
離れたところで、止まる。
呼吸が整う。
「……何か分かったのか」
リオンが聞く。
今度は、少しだけ落ち着いている。
「……分かってない」
即答。
でも。
「同じ」
それだけは、はっきりしている。
「……それでどうすんだ」
「一回だけ」
目を向ける。
「合わせる」
それ以上は言わない。
「……」
リオンが息を吐く。
長く。
「……分かった」
もう聞かない。
構える。
動かない。
待つ。
【ログ】
対象:不明
状態:接近
来る。
今までで一番、近い。
「……今」
リシアが呟く。
一歩踏み込む。
同じ軌道。
同じズレ。
でも。
一瞬。
重なる。
「……そこ」
声は小さい。
でも、迷いがない。
その瞬間。
リオンが動く。
何も考えない。
ただ。
そこを。
“決める”。
【ERROR】
Record: Undefined
→ Subroutine: Cut
【ログ】
断空
状態:未成立
結果:部分断絶
空間が裂ける。
音が消える。
距離が断たれる。
――浅い。
手応えが軽い。
「……っ」
何かが落ちる。
見えないまま。
「……」
リシアの視線が止まる。
「……足」
小さく。
言い切らない。
その瞬間。
空気が変わる。
さっきと違う。
歪みが、深い。
【ログ】
対象:不明
状態:変異
「……は?」
リオンの声が漏れる。
切ったはずの場所。
そこから。
“増える”。
広がる。
重くなる。
「……おい」
さっきより。
明らかに。
「……強くなってる」
リシアが言う。
短く。
それだけで、十分だった。
終わっていない。
むしろ。
ここからだ。




