第54話 「Legacy Record」
「――リシア、大丈夫か!?」
声が先に出た。
着地の衝撃よりも早く、身体が動いてた。
足に鈍い痛みが走る。
でも止まるほどじゃない。
視線を上げる。
暗い。
けど、完全な闇じゃない。
どこかから、ぼんやりとした光が滲んでる。
「……大丈夫」
少し遅れて、声。
そっちを見る。
距離はある。
崩落の時に位置がズレたらしい。
でも、立ってる。
息も乱れてない。
「怪我は?」
「ない」
一拍。
「……あなたは」
「問題ねえ」
短く返す。
それより。
周囲を見る。
静かすぎる。
あの気配がない。
あれだけ追ってきてたのに。
【ログ】
対象:不明
状態:未検知
「……来てないな」
「……うん」
リシアも同じ結論に至ったらしい。
「一旦、離れたか」
「……違うかも」
「何が」
「ここ」
一拍。
「“入れない”可能性ある」
その言い方。
引っかかる。
「……なんでそう思う」
「分からない」
即答。
「でも、あれの動き……急に切れた」
「……届いてないってことか」
「たぶん」
曖昧。
でも、間違ってはいない。
「……まあいい」
今はそれより。
「ここ、どこだ」
改めて周囲を見る。
違和感。
落ちてきたはずなのに。
“崩れてない”。
壁も、床も、構造も。
全部、整ってる。
「……普通の地下じゃない」
リシアが言う。
「空間が、閉じてる」
「閉じてる?」
「外と繋がってない感じ」
空気を吸う。
確かに。
妙に“澱んでる”。
流れがない。
「……あれ」
リシアの声が変わる。
さっきより、低い。
警戒してる時の声。
視線を追う。
壁の奥。
違和感。
そこにあったのは――
扉。
古い。
でも。
ただの扉じゃない。
「……これ」
リシアが一歩近づく。
手を伸ばしかけて、止まる。
ほんの少し。
迷ってる。
あいつが。
「……触らない方がいい」
「理由は」
「分からない」
一拍。
「でも、嫌な感じがする」
珍しい言い方。
理屈じゃない。
直感。
「……開けるぞ」
「……待って」
止める。
でも。
完全には止めない。
少し位置をズラす。
逃げられる位置。
戦える位置。
――構えてる。
手をかける。
押す。
軋む。
重い。
でも、開く。
その先。
「……なんだよ、これ」
言葉が漏れる。
空間。
広い。
奥が見えない。
そして。
歪んでる。
視界が、微妙に合ってない。
距離感が狂う。
「……」
リシアが止まる。
完全に警戒してる。
さっきより強い。
「……ここ」
一拍。
「……アーカイブに似てる」
その言葉で。
空気が変わる。
「……は?」
「構造が」
視線が動く。
観測してる。
「完全じゃないけど……近い」
「……マジかよ」
軽く言ったつもりが。
全然軽くならない。
中に入る。
一歩。
空気が変わる。
音の響きがズレる。
現実と噛み合ってない。
歩く。
何もない。
でも。
“残ってる”。
何かが。
「……あそこ」
リシアが止まる。
視線の先。
違和感。
近づく。
それは――
デバイス。
古い。
壊れかけてる。
でも。
ただのガラクタじゃない。
「……これ」
リシアの声が、はっきり変わる。
「……アーカイブの……」
言葉が途切れる。
触れようとして、止まる。
「……おかしい」
小さく呟く。
「こんな場所に、あるわけない」
明確に動揺してる。
あいつが。
「……動くか?」
「……分からない」
でも。
目が離せてない。
俺が先に触れる。
一瞬。
嫌な感覚。
でも。
起動する。
【ログ】
状態:破損
記録:断片
ノイズ。
でも、読める。
その瞬間。
止まる。
頭の中で。
何かが、繋がる。
「……おい」
声が変わる。
自分でも分かる。
リシアがこっちを見る。
「……何」
「……これ」
指が、勝手に動く。
ログを開く。
断片。
でも。
十分だった。
分かる。
これは。
「……俺の親父のだ」
言った瞬間。
遅れてくる。
理解と。
感情が。
胸の奥がズレる。
「……は?」
リシアが固まる。
「……どうして分かるの」
「分かる」
それしか出ない。
でも。
間違いない。
このログ。
この書き方。
この癖。
全部。
知ってる。
見たことがある。
いつか。
「……そんな……」
リシアの声が揺れる。
「……アーカイブの記録が……」
言葉が続かない。
理解が追いついてない。
でも。
俺も同じだ。
これは。
偶然じゃない。
ここにある理由がある。
そして。
それは。
俺に繋がっている。




