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第53話「崩落」


「……今の、何」

 

 リシアの声が、遅れて出る。

 

 いつもと違う。

 

 判断じゃない。

 

 理解できていない時の声だ。


 挿絵(By みてみん)


 

 あいつが、止まってる。

 

 

「……分かるかよ」

 

 

 息を吐く。

 

 

 でも。

 

 

 分かってる。

 

 

 今のは。

 

 

 “やった”。

 

 

 偶然じゃない。

 

 

 

【最上位ログ】

名称:断空カット

状態:確定

実行:成功

 

 

 表示が、まだ残っている。

 

 

「……あり得ない」

 

 

 リシアが小さく呟く。

 

 

「レコードは……切れないはず」

 

 

「だったら何だよ、今のは」

 

 

「……分からない」

 

 

 即答。

 

 

 でも。

 

 

 視線が揺れている。

 

 

 完全に動揺している。

 

 

 あいつが。

 

 

 

「……違う」

 

 

 小さく首を振る。

 

 

「違うけど……」

 

 

 言葉が続かない。

 

 

 整理できてない。

 

 

 

 その時。

 

 

 

【ログ】

対象:不明

状態:接近

 

 

 

「――来る」

 

 

 声が戻る。

 

 

 一瞬で。

 

 

 さっきまでの動揺が消える。

 

 

 

「距離、詰められてる」

 

 

「……はやいな」

 

 

「さっきより速い」

 

 

 

 現実に引き戻される。

 

 

 あれは終わってない。

 

 

 むしろ。

 

 

 こっちを捕まえに来てる。

 

 

 

「……今の、考えてる余裕ある?」

 

 

 リシアが言う。

 

 

 完全に切り替わってる。

 

 

「ねえな」

 

 

 即答する。

 

 

 

「だったら動く」

 

 

 一拍。

 

 

「逃げるだけじゃ足りない」

 

 

「どうする」

 

 

「落とす」

 

 

 

 短い。

 

 

 でも意図は分かる。

 

 

 

 視線を追う。

 

 

 崩れかけの足場。

 

 

 古い支柱。

 

 

 削れた構造。

 

 

 

「……あそこか」

 

 

「そう」

 

 

 一拍。

 

 

「支え、弱い」

 

 

「切れば落ちる」

 

 

 

 その言葉で。

 

 

 理解する。

 

 

 

 俺がやる。

 

 

 

「……できる?」

 

 

 

 試すような目。

 

 

 

 さっきとは違う。

 

 

 信じてないわけじゃない。

 

 

 でも。

 

 

 任せきってもいない。

 

 

 

「……やるしかねえだろ」

 

 

 

 短く答える。

 

 

 

 あの感覚。

 

 

 まだ残ってる。

 

 

 

 境界を。

 

 

 決めるだけだ。

 

 

 

「……来る」

 

 

 

【ログ】

対象:不明

状態:接触直前

 

 

 

 速い。

 

 

 考える時間がない。

 

 

 

「タイミング、合わせて」

 

 

 

「おう」

 

 

 

 息を止める。

 

 

 

 位置。

 

 

 距離。

 

 

 “あれ”のライン。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「……今」

 

 

 

 リシアの声。

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 意識を切る。

 

 

 

 押さない。

 

 

 触れない。

 

 

 ただ――

 

 

 “ここから、ここまで”。

 

 

 

 

【ERROR】

Record: Undefined

 

→ 再構築

 

【最上位ログ】

名称:断空カット

状態:確定

実行:成功

 

 

 

 支柱が、分かれる。

 

 

 音もなく。

 

 

 綺麗に。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 崩れる。

 

 

 

「――っ」

 

 

 

 足場が抜ける。

 

 

 

 予想より早い。

 

 

 

「おい、これ――」

 

 

 

「下がって!」

 

 

 

 リシアが叫ぶ。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 遅い。

 

 

 

 完全に崩れる。

 

 

 

 視界が傾く。

 

 

 重力が引く。

 

 

 

「……最悪」

 

 

 

 リシアの声。

 

 

 

 そのまま。

 

 

 

 落ちる。

 

 

 

 空間が消える。

 

 

 

 足場がない。

 

 

 

 支えがない。

 

 

 

 ただ。

 

 

 

 落ちる。

 

 

 

 下へ。

 

 

 

 真っ直ぐ。

 

 

 

 その中で。

 

 

 

【ログ】

対象:不明

状態:追跡継続

 

 

 

「……ついてきてるな」

 

 

 

 小さく呟く。

 

 

 

 落ちながら。

 

 

 

 それだけは、はっきり分かった。

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