第51話 「スプリット」
頭から離れない。
軽く言ってたくせに、妙に残る。
止めたわけじゃない。
壊したわけでもない。
“そのままにした”。
「……意味分かんねえ」
小さく吐き出す。
でも。
分かりかけてる感じがあるのが、余計に気持ち悪い。
「……まだやるの」
リシアの声。
振り返らない。
「ちょっとな」
「やめた方がいいと思うけど」
「思うだけか?」
「止めはしない」
一拍。
「でも、見てる限り危ない」
その言い方。
命令じゃない。
“観測結果”。
「……分かってる」
短く返す。
でも、やる。
手を前に出す。
何もない空間。
でも、そこに“ある”。
「……今、そこ」
リシアが言う。
「触れようとしてる位置、さっきとズレてる」
「……は?」
「もう少し右」
少しだけ指で示す。
「……そこ」
位置を修正する。
確かに。
“ある”。
「……見えてんのか?」
「見えてない」
即答。
「でも、さっきのログと動きで分かる」
【ログ】
対象:不明
状態:位置補正中
「……マジかよ」
息を吐く。
「……そのまま」
意識を向ける。
止めるんじゃない。
“置く”。
でも。
何も起きない。
「……クソ」
舌打ちする。
「今の、押してるだけ」
リシアが言う。
「さっきのとは違う」
「何が違う」
「方向」
一拍。
「今の、無理やり動かそうとしてる」
「……じゃあどうすりゃいい」
「分からない」
即答。
でも続ける。
「でも、さっきの人は違った」
「……カイルか」
「うん」
少しだけ目を細める。
「“触ってないのに止まってた”」
「……」
それだ。
あれ。
「……押してないのか」
「たぶん」
一拍。
「“その状態を動かさないようにしてた”」
完全な説明じゃない。
でも。
方向は合ってる。
「……だったら」
力を抜く。
押さない。
触れない。
ただ。
“そこにあるものをそのままにする”。
その瞬間。
空間がズレた。
「――っ」
一瞬だけ。
“切れかける”。
でも崩れる。
「……今の」
リシアが言う。
「さっきより近い」
「でもダメか」
「うん」
一拍。
「でも、今の方がいい」
少しだけ言い方が柔らかい。
評価してる。
「……よし」
息を整える。
もう一度。
「……境界」
小さく呟く。
さっきの感覚。
繋がりじゃない。
位置でもない。
“区切り”。
「……ここから、ここまで」
頭の中で線を引く。
そのまま。
触れない。
押さない。
ただ、決める。
その瞬間。
【ログ】
Subroutine: Cut
Status: Executed
世界が切れる。
音が消える。
距離がズレる。
繋がりが断たれる。
「――っ!」
成立した。
でも。
【ERROR】
Status: Collapse
崩れる。
「……ぐっ」
頭にノイズ。
視界が一瞬ズレる。
「……今の」
リシアが言う。
近づいてくる。
「……境界、決めてた?」
「……多分な」
息を整えながら答える。
「感覚だけど」
「……うん」
一拍。
「それ」
少しだけ迷う。
「さっきのと、一番近い」
「マジか」
「でも」
続ける。
「まだズレてる」
「どこが」
「範囲」
一拍。
「今の、広すぎる」
「……なるほどな」
理解する。
だから崩れる。
維持できない。
「……もう一回やる?」
リシアが聞く。
さっきと違う。
止めない。
試させる。
「……いや」
首を振る。
「今はやめとく」
「……そう」
少しだけ息を吐く。
安心したような。
でも。
まだ警戒してる顔。
「……今の」
小さく言う。
「危ないけど」
一拍。
「使い方、間違ってない」
その言葉で。
確信する。
これは。
届く。
あと少しで。




