第42話 「クロスリンク」
残っている。
あの感覚。
距離が消える。
触れていないのに、触れていることになる。
未完成でも、関係ない。
使える。
それだけでいい。
「……やる」
小さく呟く。
「やめて」
間を置かずに返ってくる。
強くない声。
でも、さっきまでと違う。
“止めようとしてる声”だ。
「それ、さっきと違う」
リシアは続ける。
言葉を選んでいる。
説明じゃない。
確信でもない。
ただ、“嫌な予感”をそのまま出している。
「……分かってる」
短く返す。
分かっている。
ズレていることも。
削れることも。
それでも。
止まる理由にならない。
視線の先。
残っている個体が、ゆっくりとこちらを捉える。
距離はある。
だが――
関係ない。
手を伸ばす。
届かないはずの距離へ。
その瞬間。
Link : ERROR
>> Condition Unmet
Subroutine : Connect
Status : Forced Execution
ノイズが走る。
だがもう、止まらない。
繋ぐ。
――違和感。
触れている。
だが。
一つじゃない。
“近すぎる”。
「……は?」
視界が揺れる。
対象は前にいるはずなのに、
別の位置からも“触れている感覚”が来る。
横。
振り向く。
リシアがいる。
目が合う。
その瞬間。
“重なる”。
視界が二つになる。
前と横。
同時に見えている。
距離が消える。
境界が曖昧になる。
「……っ」
息が詰まる。
違う。
これは。
「……やめて」
リシアの声。
近い。
近すぎる。
「それ、違う」
短い。
でも、はっきりしている。
「来ないで」
一歩、下がる。
だが。
距離は変わらない。
“繋がっている”。
逃げても意味がない。
「……っ、切れ」
口に出る。
だが分からない。
どうやって切るのか。
繋げたのは自分だ。
でも、制御できていない。
呼吸が乱れる。
リズムが合わない。
自分の呼吸と、
もう一つの呼吸が重なっている。
「……やめて」
もう一度。
今度は小さい。
「……怖い」
その一言で、
思考が止まる。
初めてだ。
リシアが、ここまで感情を出したのは。
その瞬間。
空気が固まる。
体が止まる。
アンカー。
位置が固定される。
接続が揺れる。
切れる。
一気に。
視界が戻る。
息を吐く。
荒い。
遅れて、
自分の体に戻る。
「……今の」
声が出る。
リシアは答えない。
ただ、
一歩、さらに下がる。
距離を取る。
明確に。
「……嫌」
それだけ。
短い。
でも。
完全な拒絶だ。
胸の奥が、少しだけ冷える。
「……使えるんだよ」
それでも言う。
自分でも分かっている。
言い訳だ。
「……助けられる」
続ける。
理由を作る。
間違っていないはずだ。
でも。
リシアは、もう近づかない。
それだけで分かる。
これは。
“使っていい力じゃない”。




