第33話 「観測不能」
慣れてきた。
それが、最初の感覚だった。
視界に浮かぶ線。
位置。
流れ。
全部が、分かる。
【対象:低位個体】
【状態:不安定】
【同期率:49%】
装着した端末が、わずかに熱を持っている。
「なあ」
歩きながら、リシアを見る。
「これ、結局なんなんだ」
少しだけ間があく。
「……干渉デバイス」
「干渉って」
「見えないものを、見えるようにする」
短い。
「あと」
ほんの少しだけ、言葉を足す。
「触れるようにする」
それだけ言って、前を向く。
「それなしでやると」
少し間。
「……壊れる」
それで終わり。
十分だった。
「……見えるな」
自然に笑う。
前とは別物だ。
迷わない。
触れれば終わる。
一体目。
踏み込む。
線に合わせる。
触れる。
崩れる。
速い。
無駄がない。
二体目。
ズレる。
でも追える。
崩す。
「……いける」
口に出る。
強くなっている。
はっきり分かる。
「……楽でしょ、それ」
リシアの声。
「まあな」
否定しない。
できない。
それくらい、違う。
三体目。
視線を合わせる。
線は、見えている。
だから――
外さない。
踏み込む。
触れる。
――はずだった。
一瞬。
何かが、切れる。
「……あれ」
手応えがない。
いや、
違う。
“触っていない”。
でも、
今――
確かに、
触れたはずで。
「……何してた?」
分からない。
自分の動きが、
そこだけ、抜けている。
ほんの数秒。
そこだけ、
“なかったことになっている”。
「――下がって」
リシアの声。
遅い。
振り返る。
もう、そこにいる。
“何もない場所”に。
「――っ」
反応が間に合わない。
触れられる。
その瞬間――
何も起きない。
「……は?」
痛みがない。
衝撃もない。
でも――
何かがおかしい。
「……今」
言葉が出ない。
“何もされていない”。
はずなのに、
何かが、
確実にズレている。
「離れて」
リシアが動く。
短剣を抜く。
そのまま、地面へ。
突き刺す。
――アンカー。
空気が変わる。
音が戻る。
線が揃う。
【対象:低位個体】
【状態:不安定】
「……見えた」
さっきまで“いなかった”はずのそれが、
そこにいる。
「今の、なんだ」
リシアを見る。
一瞬。
ほんのわずかに間が空く。
「……表示が切れただけ」
短い。
でも、
“嘘だ”と分かる。
「切れるって……そんなことあるのか」
「……ある」
それ以上は言わない。
目を逸らす。
「……同じの、見たことある」
小さく。
それだけ。
沈黙。
「……なあ」
「今、何もされてないよな?」
少しの間。
リシアは答えない。
「……来る」
それだけ言う。
でも、
もう分かっている。
見えていないものがある。
そして――
見えているものも、
全部が本当じゃない。




