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プロローグ


静かすぎる、と思った。

 

風もない。

 

音もない。

 

 

なのに、何かだけが動いている。

 

 

見えないはずの“ズレ”が、そこにある。

 

 

 

「……見えてる?」

 

 

後ろから声がした。

 

 

振り返る。

 

 

リシアが、少しだけ距離を取って立っている。

 

 

 

「前より」

 

 

短い言葉。

 

 

でも、試すような視線だった。

 

 

 

「……分かる気がする」

 

 

そう答えた瞬間、

 

 

わずかに、空間が歪んだ。

 

 

 

「気のせいじゃない」

 

 

リシアが言う。

 

 

 

その言葉は落ち着いているのに、

 

ほんの少しだけ、速い。

 

 

 

「もう、触れてる」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

一歩、近づいてくる。

 

 

 

その手に、小さな装置があった。

 

 

 

細いコードが伸びている。

 

 

 

軽そうに見えるのに、

 

 

なぜか、目を逸らしたくなる。

 

 

 

「……外さないで」

 

 

 

一瞬だけ。

 

 

迷った顔をした。

 

 

 

「それなしでやると――」

 

 

 

言葉が止まる。

 

 

 

視線が、こちらに戻る。

 

 

 

「……死ぬ」

 

 

 

冗談じゃない。

 

 

でも、冗談に聞こえない。

 

 

 

差し出される。

 

 

 

拒否はできるはずなのに、

 

 

そう思えない。

 

 

 

「それ、補助」

 

 

 

視線が少しだけ逸れる。

 

 

 

「見えてるだけ」

 

 

 

触れる。

 

 

 

冷たい。

 

 

 

でも――

 

 

どこかで知っている感触だった。

 

 

 

装着する。

 

 

 

次の瞬間、

 

 

視界が“変わった”。

 

 

 

空間に、線が走る。

 

 

 

輪郭が浮かぶ。

 

 

 

見えなかったものが、

 

 

“情報”として並ぶ。

 

 

 

 

【対象:未定義】

【状態:不安定】

【同期率:38%】

 

 

 

「……なに、これ」

 

 

 

思わず口に出る。

 

 

 

リシアは、少しだけ間を置いて――

 

 

 

「楽になる」

 

 

 

それだけ言った。

 

 

 

 

確かに、分かる。

 

 

さっきまで曖昧だったものが、

 

 

はっきりしている。

 

 

 

“触れる”感覚が、明確になっている。

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

その声で、意識が戻る。

 

 

 

 

「ズレる」

 

 

 

 

一瞬、

 

 

視界の端がノイズを走った。

 

 

 

 

【WARNING】

【負荷上昇】

 

 

 

「……今の」

 

 

 

言いかけたところで、

 

 

 

リシアが一歩踏み込む。

 

 

 

距離が、少しだけ近くなる。

 

 

 

「使いすぎるな」

 

 

 

短い。

 

 

 

でも、さっきより強い。

 

 

 

 

その時、

 

 

 

ふと、違和感が走った。

 

 

 

 

視界の奥。

 

 

 

ログの奥。

 

 

 

 

一瞬だけ、別の表示が混ざる。

 

 

 

 

Record : ————

Status : Undefined

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

瞬き。

 

 

 

消えている。

 

 

 

 

「今、何か――」

 

 

 

 

言いかけたところで、

 

 

 

リシアの手が止まる。

 

 

 

ほんの一瞬だけ。

 

 

 

 

「……何も出てない」

 

 

 

 

即答。

 

 

 

 

でも――

 

 

 

ほんの少しだけ、

 

 

視線がズレた。

 

 

 

 

「行く」

 

 

 

 

それ以上は、何も言わない。

 

 

 

 

背中を向ける。

 

 

 

 

その背中を見ながら、

 

 

 

もう一度、視界を見る。

 

 

 

 

ログは、正常に戻っている。

 

 

 

 

でも、

 

 

 

さっきの“何か”だけが、

 

 

頭に残っていた。

 

 

 

 

「……これ」

 

 

 

小さく呟く。

 

 

 

 

“見えている”のか。

 

 

 

それとも――

 

 

 

“見せられている”のか。

 

 

 

 

答えは出ない。

 

 

 

ただ一つだけ、分かる。

 

 

 

 

もう、

 

 

前と同じじゃない。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

戻れるとも、思えなかった。

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