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ログで世界を支配する〜追放された俺、観測能力で最強国家を作り直す〜  作者: イケメン☆スーツ
第1章 無能と追放された俺、世界の“ログ”に触れる
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第29話 「ズレている」


 歩いている。


 どれくらい進んだのか、分からない。


 足は動いている。

 それは確かだ。


 でも。


 進んでいる実感が、薄い。


 景色が変わっているのかすら、曖昧だった。


「……」


 妙に静かだ。

 風の音も、足音もある。


 それなのに。

 “何かが足りない”。


 思考が、同じところで止まる。


 さっきの戦闘。


 敵は倒した。

 その感触も、覚えている。


 崩れたのも見た。 


 それなのに。


 胸の奥に、引っかかるものが残っている。


 違和感。


 理由が分からない。


 いや。

 分からないんじゃない。


 “抜けている”。


 何かが、抜け落ちている。


「……気持ち悪いな」


 立ち止まる。

 頭の中を整理する。


 戦闘の流れ。

 動き。

 攻撃。


 そこまでは思い出せる。


 でも。

 その中にあったはずの“もう一つ”が、ない。


 ぽっかりと空いた穴だけが、残っている。


 視線を落とす。


 足元。

 影が、ひとつ。 


 当たり前の光景。


 だが。

 一瞬だけ。


 “もうひとつあった気がした”。 


「……」 


 目を細める。


 気のせいだ。

 そう思おうとする。


 だが。

 納得できない。


 距離の感覚だけが、やけにリアルに残っている。


 すぐ後ろ。

 手を伸ばせば届く距離。


 そこに、何かがいた。 


 ……いたはずだ。


 なのに。


 思い出せない。  

 顔も、声も、名前も。


 何も。

 ただ。


 “距離だけが残っている”。


 気持ち悪い。

 喉の奥が、わずかに震える。 


「……誰だよ」


 呟く。

 返事はない。


 当然だ。


 そもそも、“誰か”がいたのかすら分からない。


 なのに。

 確実に、“何か”はあった。


 その確信だけが消えない。  


 視線を上げる。

 その瞬間。


 ――ズレる。


 ほんの一瞬だけ。

 視界の端が歪む。


「……っ」 


 反射的にそちらを見る。


 何もいない。

 だが。 


 今、確かに“何かがあった”。


 見えたわけじゃない。 


 でも。

 “存在した”と分かる。


 理由はない。

 ただ、そう理解した。


 背筋に冷たいものが走る。


 今のは。


 敵じゃない。

 それだけは分かる。


 あれは。

 もっと、別の。


 思考が、そこで止まる。


 考えようとした瞬間。

 嫌な感覚が、脳の奥を掠める。


 踏み込むな。


 そう警告されている気がした。


 深く息を吐く。


 落ち着け。

 今は、整理するな。


 理解しようとするな。


 その選択だけが、はっきりしていた。


 その時。

 ふと、言葉が浮かぶ。


 自分のものじゃない。


 でも。

 否定できない。


 ――ズレている


「……は?」


 思わず声が出る。


 今のは。

 聞いたわけじゃない。


 頭の中に、“そう置かれた”。


 理解として、直接流れ込んだ。


 違和感が強くなる。


 思考を辿る。


 どこから来た。

 分からない。


 そもそも。

 “誰の言葉か”が分からない。


 なのに。

 意味だけは、はっきりしている。


 ズレている。 


 何が。

 どこが。


 考えようとして。

 やめる。


 これ以上踏み込むのは危険だと、本能が告げている。


 拳を握る。

 感覚を確かめる。 


 ここにいる。

 自分は、ここにいる。


 それだけは、確かだ。  


 ……本当に? 


 一瞬、そんな考えがよぎる。


 すぐに振り払う。

 今は考えるな。


 足を動かす。

 止まると、飲まれる。  


 理由は分からない。

 でも、そう思った。 


 だから進む。

 違和感を抱えたまま。 


 思い出せない“何か”を抱えたまま。


 それでも。

 頭の奥に、残っている。 


 距離。


 すぐ後ろにあったはずの、存在。

 手を伸ばせば届いたはずの位置。


 なのに。

 そこに“何があったのか”だけが、抜け落ちている。


 そのズレが。

 じわじわと、内側を侵していく。 


 ――ズレている


 同じ言葉が、もう一度浮かぶ。


 今度は。

 少しだけ、はっきりと。


 でも。

 やはり。


 誰のものかは、分からなかった。

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