第22話 「まだ届かない、でも違う」
静かだった。
風の音だけが、残る。
何も変わっていない。
――はずなのに。
「……」
違和感が消えない。
何かを見た。
確かに。
だが。
そこだけが、抜けている。
「……思い出せねえな」
言葉にしても、形にならない。
思い出そうとすると、輪郭が崩れる。
最初から存在しなかったみたいに。
「……」
息を吐く。
考えても、無駄だ。
今は――
「……できるかどうか、だな」
手を上げる。
視る。
位置。
距離。
関係。
【ログ】
対象:周囲
状態:軽微干渉
ズレる。
空気が、わずかに歪む。
問題ない。
まだ使える。
「……でも、これじゃ足りねえ」
あれには通じない。
分かっている。
ズレないものに、ズレは効かない。
なら。
「……」
思考が止まる。
ズレない。
ズレないなら――
ズラさなければいい。
「……は?」
自分でも、よく分からない。
だが。
さっきの感覚が、残っている。
位置じゃない。
距離でもない。
もっと――
「……“そこにある理由”か?」
言葉にすると、少しだけ形になる。
「干渉の方向が変化しています」
リシアの声。
「……ああ」
視線を落とす。
近くの石。
ただそこにあるもの。
だが。
“そこにある”。
それ自体に意味がある。
「……」
視る。
ズラす、じゃない。
触れる。
一瞬。
【ログ】
対象:石
状態:変化検出
石が、揺れる。
ズレていない。
だが。
“関係”が、変わった。
「……今の」
言葉が出ない。
成功かどうかも分からない。
だが。
確実に、違った。
「干渉が変化しています」
「方向性としては正しいです」
リシアの声。
短い。
だが。
十分だった。
「……やれるな」
小さく呟く。
まだ遠い。
届かない。
だが。
完全に無理じゃない。
それだけでいい。
「……」
視線を上げる。
遠く。
あの場所。
“まだいる”。
見えない。
だが、分かる。
今は、前より少しだけ。
“分かる”。
「……待ってろ」
小さく呟く。
今は触れられない。
だが。
いつかは。
その時。
今とは違う。
そういう確信だけが、残っていた。




