第17話 「俺がいるだけで、壊れる」
ズレは、見えるようになっていた。
意識しなくても、分かる。
人の足。
手の位置。
物の軌道。
ほんのわずか。
だが、確実に。
【ログ】
対象:周囲
状態:軽微な干渉残留
残っている。
消えていない。
「……」
視線を動かす。
通行人の手が、ほんのわずかにずれる。
持っていた小物が、落ちかける。
「……っ」
反射的に、意識が向く。
――触れるな。
止める。
抑える。
落ちるはずだった物は、かろうじて持ち直される。
何も起きない。
――起きなかっただけだ。
息を吐く。
「……抑えられていますね」
リシアの声。
「……たまたまだ」
「そうかもしれません」
だが。
「前回よりは安定しています」
「……そうかよ」
視線を外す。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
扱えるようになっている。
それでも。
完全じゃない。
「……なあ」
「はい」
「ここにいると」
言葉を選ぶ。
「壊すな」
リシアは、すぐに答えた。
「はい」
迷いがない。
「滞在を続ければ、影響は増加します」
淡々とした説明。
だが、それで十分だった。
「……だよな」
ここにいるだけで、壊す。
それが現実だ。
「……外はどうなってる」
「他にも街はあります」
「強度の異なる領域も存在します」
「……強度?」
「干渉の影響を受けやすい場所と、そうでない場所があります」
初めて出る情報。
「……じゃあ」
「ここは?」
「影響を受けやすい側です」
即答。
つまり。
ここにいるほど、壊れる。
「……あいつみたいなのもいるのか」
「存在します」
「……そうかよ」
視線を落とす。
ここにいても、分からない。
止め方も。
扱い方も。
なら。
「……出る」
今度は、迷わない。
リシアは、何も言わない。
ただ、一度だけ頷く。
「合理的です」
それだけ。
だが。
十分だった。
街の出口へ向かう。
見慣れた景色。
変わらないはずの場所。
――その中で。
また、ズレる。
【ログ】
対象:前方
状態:位置ズレ発生
小さい。
だが、確実に。
足を止める。
触れない。
ただ、見る。
それでも。
そこにある。
「……ここにいる限り、消えねえな」
小さく呟く。
答えは、もう出ている。
「行きましょう」
「ああ」
一歩、踏み出す。
街の外へ。
壊さないために。
そして。
壊れた理由を、知るために。
――ズレを連れて。




