第14話 「もう、止まらない」
止まっていない。
街は、何も変わらない。
人が歩き、声がある。
――それでも。
確実に、ズレている。
「……」
息が浅い。
分かっている。
このままじゃまずい。
「……止める」
口に出す。
もう触れない、では足りない。
戻すしかない。
視る。
【ログ】
対象:周囲
状態:干渉残留
ズレは、残っている。
点じゃない。
広がり始めている。
「……ここだ」
一箇所に絞る。
戻す。
それだけだ。
【ログ】
対象:前方
状態:未確定
触れる。
今度は、意識して。
押し戻す。
――その瞬間。
感触が、弾けた。
「……っ」
違う。
押せない。
ズレが、逃げる。
【ログ】
対象:周囲
状態:干渉拡大
散る。
一点にあったはずのズレが。
周囲へ。
その直後。
目の前で――
男が、つまずいた。
ほんのわずかな段差。
普段なら、踏み越えるだけの位置。
足が、ズレる。
「うわっ――」
体が崩れる。
そのまま、横の人間にぶつかる。
連鎖する。
押される。
よろめく。
目の前で。
全部、繋がる。
「……おい」
声が出る。
これが原因だと、分かる。
「……それ以上は危険です」
リシア。
はっきりとした制止。
「……いや、まだ――」
止めないと。
これ以上はまずい。
視る。
流れ。
ズレ。
今なら、分かる。
戻せる。
そう思ってしまう。
「やめてください」
声が強い。
だが。
止まらない。
【ログ】
対象:広域
状態:未確定
触れる。
広げてしまう。
――その瞬間。
全部が、揺れた。
足がズレる。
手がズレる。
物がズレる。
同時に。
「――っ!?」
悲鳴。
ぶつかる音。
倒れる音。
目の前で、起きる。
止まらない。
「……やめろ」
声が出る。
自分に。
止めたい。
でも。
止め方が分からない。
その時。
リシアが、一歩前に出た。
何もしていない。
ただ、立つ。
それだけで。
空気が、変わる。
ズレが、鈍る。
「……っ」
息を吐く。
完全には止まっていない。
だが、広がりは止まる。
「……今のは」
言葉が出ない。
「制御できていません」
リシアが言う。
「触れた瞬間に、拡散しています」
淡々と。
「……止まるのか」
一瞬の間。
「止める必要があります」
また、それだ。
「……無理なんだろ」
「現時点では」
短い。
それで、十分だった。
息を吐く。
目の前で、起きた。
自分のせいで。
分かってしまう。
止めようとした。
それでも。
壊した。
そして。
まだ、終わっていない。




